74 ごゆっくりどうぞ
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俺はポケットに入れておいたスマートフォンをおもむろに取り出し、構えた。華愛子先輩、カメラの構え方はこれでいいですか?
カメラのアプリを開きレンズを里沙に向ける。
里沙は窓から外を眺めて黄昏れているようだ。こちらに気づいていない。
俺はその美しき姿を写真に収めるべく、シャッターボタンを押した。
パシャりと大きな音を立てて、里沙の姿を捉える。
「あ! 撮った!?」
里沙は驚いた様子でこちらを向き、俺にそう問いかけた。
「撮ってない。気のせいじゃないか?」
「うそ! 絶対に撮ったでしょ! 見せて」
恐ろしく早い掴み。
俺でなきゃ見逃しちゃうね。
間一髪、里沙からスマートフォンを死守した。
「ちょっと!」
「安心してくれ。悪用はしない」
「ほら。撮ったじゃん」
「減るもんじゃないし、良いだろ?」
「良くない。恥ずかしい」
「青春の1ページとして保存しよう」
「何が青春の1ページよ。消さない?」
「消さない」
俺はしっかりと保存ボタンを押すと、スマートフォンをポケットに再びしまいこんだ。
我ながら良い出来の写真だ。帰ったら里沙にも送っといてやるか。
「それにしても、動きたくないな」
「ダメよ。もう戻らないと」
里沙は立ち上がると、俺の腕を掴み強引に立たせようとした。
さすが元番長。力が強い。
「痛てて」
「早く立って」
俺の腕だけ上がる。
里沙は大根を持つかのように俺の腕を持っている。
「分かったから!」
俺はそのまま投げやりに立ち上がると、里沙が力を込めたままだったので勢い余って転んでしまった。
「うーん……」
「……」
里沙は俺のすぐ真下、というか顔があと数センチのところで目を見開いて硬直していた。
俺もその距離に思わず固まった。
ほんのすこし前に出れば唇が重なってしまう。
心なしか里沙の唇が震えているような気がした。
「あっ……これ以上は駄目……」
「す……すまん!」
なぜか俺が謝るハメになった。
俺は上半身を起こしたが、里沙にのしかかる形となっていた。
どうりで柔らかい感触がすると思った。
他の誰かに見られたら誤解が生じてしまう。
その時、勢いよくDルームの扉が開いた。
何でそうなるの!
「まだいるかー!? 渡し忘れた……ってお前ら!!」
吉田先生が俺たちに渡し忘れた物を持ってきてくれたようだ。
だけど余計なお世話になってしまいました!
「ふっ……。お邪魔したようだな。職員室で待ってるから、ごゆっくり」
吉田先生はゆっくりと扉を閉めた。
「待ってください! 誤解です!!」
ああ。行ってしまった。
そんな察しのいい先生みたいにしないでください。
「いつになったらどいてくれるの?」
「そうだよな!」
俺は体の緊張を無理やり解くと、勢いよく立ち上がり、里沙を起こすのを手伝った。
その後、俺たちは何事もなかったかのようにお互いの教室へ戻った。
あ。吉田先生のところに行ってない。すぐ忘れてしまう。
今行っておかないと、誤解されたままか?
「宏くん、どこ行ってたの?」
俺が吉田先生のとことに行こうか迷っていると、秋葉が話しかけてきた。
「ちょっとな。部室に発表のポスター運ぶのを手伝ってた」
「そう。てっきり関野さんとデートでもしてるかと思ったよ」
秋葉さん、目が笑ってないですけど。
「今、消耗品の整理してたんだけどストローがないの。一緒に買い出しに行かない?」
「そうだな……。今、任されてることもないし行こうかな」
「うん♡ 山内君に言ってくるね」
やれやれ。気の休まる暇がない。
続く




