70 天然思い出ピクチャー
明日12/28(木)、明後日12/29(金)も更新できません。
次の更新は12/30(土)です。
ヤバい。とにかくヤバい。
何がヤバいかって、再び里沙の部屋に足を踏み入れる時が来てしまった。
前の勉強会の時とはわけが違う。
完全に里沙のことを意識している。
どうしよう。覚悟もできてないのに、いいんですか!?
いやいや、何の覚悟だよ。普通にお部屋で文化祭の資料作りをするだけだろう?
何も緊張することはない。平常心を保つんだ。
ある平日のこと、学校から帰ると、俺は自分の家に戻らずに里沙の家へ直行した。
玄関前でもう1度、里沙に確認をする。
「本当にいいのか?」
「いいわよ。今日は私も1人だから」
俺は里沙の後に続いて恐るおそる家にお邪魔した。
「お邪魔します」
今日はおばさんもおじさんもいないが、一応人の家だ。
挨拶ぐらいはしておこう
「どうぞ、上がって」
里沙もとびきりの笑顔でそう答えてくれた。
ぐぬぬ。たったそれだけの返事なのに。
俺は里沙がどうしようもなく可愛く見えて仕方なかった。
いつも以上に靴をしっかり揃えると、振動を立てないようにフローリングの床を踏む。
何だかソワソワするな。
「どうしたの? そんなに慎重になって。泥棒みたい」
「ほら、床を傷つけたら申し訳ないなって」
「宏介の足は鉄か何かでできてるの? もっと楽にして」
「すまん」
と言われても、意識してしまう。
さっそく里沙の部屋に案内されたが、ドアの先は桃源郷だ。
置いてあるもの一つひとつが輝いて見える。
「またジロジロ見てる」
「え!? 見てない見てない!」
「ふふ。そんなに否定しなくてもいいのに。そんなに私の部屋を見たくないの?」
「いや、そんなことは……!」
里沙は余裕の笑みを浮かべていた。
意地悪な幼馴染だ!
「でも、部屋に入れていい男子は宏介だけなんだから」
「え……?」
それって……。
どういう意味だ?
男として見られていないっていうこと!?
それとも……。
「それって……」
里沙に問いかけようとした瞬間、俺は机の上に置かれたとある写真に目を奪われた。
「それ……? あ!」
里沙はしまったという顔をしたと思ったら、次の瞬間にはその写真を伏せていた。
周りの音を置き去りにしたような速さだ。
その速さは光をも超えた。
「今の写真って合宿の帰りの時、勝手に撮られていたやつだよな?」
「ええっと……何のこと?」
里沙の目は泳いでいた。
俺の見間違いでなければ、帰りの電車の中、俺と里沙がお互いに寄り添って寝ている写真のはず。
机の近くまで行き、確認をしようと思ったが里沙のガードが固い。
彼女の手は伏せられた写真立てを力のまま押さえ込んでいた。
「その写真、見せてくれ! 里沙の部屋に飾ってある写真だ。きっと素敵なものに違いない」
「そんなことない! これは人に見せるような写真じゃないの。ほら、早く座って」
「むむむ。……! あっ!」
俺は何かを発見したかのように窓を指差した。
「なに!?」
チャンス! 里沙の手が写真から離れた!
俺はその隙を逃さなかった。
勢いよく手を伸ばし写真立てを手に取ると、中身を確認した。
そこには、しっかりと合宿帰りの写真が入っていた。
「ほら……。そうじゃないか」
「ちょ……ちょっと! 返して」
里沙は顔を真っ赤にして慌てふためいていた。
「隠さなくてもいいじゃん。俺だってこの写真好きだよ」
「え……? どういうこと?」
「だから……その……。皆んなの前では恥ずかしかったけど、里沙が飾ってくれてるのなら俺はすごく嬉しい」
「……。そう。さ、パソコンを準備するわ」
先とは一転、元あったように写真を机の上に飾ったまま、それ以上は何も言わなくなった。
何だなんだ? 急にしおらしくなって。
続く




