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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
素晴らしき高校生活と恋の始まり編
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6 ランデブー・ランチ

 俺は倉持との出会いという奇跡を噛み締めながら校門を通った。

 横を歩く里沙と倉持にとっては普通のことかもしれないが、俺にとっては大きな一歩だ。人類が初めて月に足を踏み入れた一歩と同じぐらい重要な一歩を歩んだ気がした。


 それにしても周りの視線が刺さる。女子たちの羨望の眼差し。男子たちの嫉妬の眼差し。俺は今、全男子生徒を敵に回しているといっても過言ではない。

 

 里沙と倉持は同じクラスということで、俺とは途中で別れた。彼女たち7組の教室は2階だ。俺のクラスである2組は3階にある。


 そして、俺は昨日より軽くなった気がする扉を開けると教室に入った。


 入ってすぐ目に入ったのが手を振る笹川だった。


「おはー!」

 笹川は俺に向かって挨拶をしてくれた。実に心地よい。


「うっす。SF研究部入ることにしたぜ」

「お、ほんとか!? よし! 改めてよろしくなー!」

「おう!」


 俺は笹川と挨拶を交わした後、席に着こうとしたが、その前にある案が思い浮かんだ。

 勇気を出すんだ、俺。


「なぁ笹川」

「ん?何ー?」

「せっかくだしサークル交換しないか?」


 笹川は、俺に嬉しそうな顔を向け快諾してくれた。


「いいよ! 交換しよ」


 よっしゃ! 勇気を出した甲斐があった。

 笹川と連絡先を交換し終わると、俺はようやく席に着いた。



 朝のホームルームが終わり、1限目が始まった。今日の1限目は英語だった。

 授業も半ば、俺にとって苦痛の時間がやって来た。


「はい、じゃあ近くの人と教科書9ページの会話文を読み合いましょう」


 俺たちの事情を察することのできない英語の先生がキラーパスを投げてきた。

 やばい。笹川とは席が離れている。誰に声をかければいいんだ!?


 俺は焦って周りをオロオロと見渡した。前と両隣の子たちは他の子と組んでいる。ちくしょう。

 そして、俺は恐るおそる後ろを振り返った。

 そこには教科書で顔を隠しながらおどおどしている女子がいた。

 仲間発見。ここはいくしかない。

 口から心臓が飛び出しそうだ。女子に自分から話しかけるのは緊張する。


「あのー。よかったら俺と練習しない?」


 その女子は体をびくっとさせると、ゆっくりと教科書を降ろした。


 「えと……あの……お……お願いしましゅ!」


 噛んだ。転校初日に自己紹介で噛んだ誰かさんみたいだな。しかし、分かるぞその気持ち。俺は彼女に親近感が湧いた。


 俺の後ろの席の三つ編みを片側に寄せた髪型のメガネ女子は、メガネを直すと教科書の例文を読み始めた。

 英会話を終えると彼女は一息つき、教科書を机の上に置いた。すると、そこに置いてあった消しゴムに当たり、消しゴムは床へ落ちた。


「あっ……」


 俺と彼女は同時に消しゴムへ手を伸ばした。

 すると、俺の手は消しゴムを掴む前に彼女の手を掴んでしまった。


「きゃっ……!」

「ごめん!」


 しまった。何てベタなんだ。ベタ中のベタ。英語の時間だ。ベタオブベタ。キングオブベタ。


 彼女は顔を真っ赤にし、手を引っ込めると俯いてしまった。

 俺は消しゴムを拾い直すと彼女の机の上に置いた。


「ここに置いておくから」

「ありがとう」


 彼女は顔を上げると照れのごまかしか、三つ編みを手で撫でながら俺にお礼を言った。

 俺も女子の手に触れてしまい恥ずかしかった。女子の手って暖かいんだな。


 一緒に英語を読んでくれたんだ。俺もお礼を言っておこう。


「えっと……名前は?」

「あ、秋葉奈美恵です」

「俺は昨日の自己紹介の通り、鈴木宏介だ。よろしくな、秋葉」

「よろしくですぅ……」

「一緒に練習してくれてありがとうな」

「うん……」


 彼女はそれ以上何も言わなかった。

 他の生徒たちも練習が終わり、再び英語の授業は先生によって進められた。


 何とか英語の授業を切り抜け、休み時間がやってきた。

 廊下を確認すると約束通り里沙は来ていないようだ。

 よしよし。これで休み時間の平穏は保たれるわけだ。


 俺は喉が渇いたので鞄の中のお茶を取り出そうとすると、スマートフォンのバイブが鳴った。


「こんな時間に何だ?」


 独り言を呟きながらスマートフォンを手に取り、画面を見るとサークルの新着メッセージ通知が来ていた。


『あのことは私と宏介だけの秘密だからね?』


 捉えようによってはスクープ物の文章だぞ。確かに監視ではないが、こう来るとはな。


『大丈夫だ』


 俺はそう返してやった。


 それから授業が終わるたびに里沙からメッセージが届く。その度に一応返信はしてやるが。

 お前は俺の彼女か! 毎回送られてくるとか普通あるか? しかし、とびきりの美少女からメッセージが届くという揺るぎない事実に対し、悪くない気がしたのは少し悔しい。


 さて、問題の昼休みがやって来たわけだ。今度は俺から速攻里沙にメッセージを送ったが、特に返信はなかった。

 そして、昼ご飯の時間である。母さんお手製のお弁当だ。


 なぜその行動に出たのか分からないが、それは運命というか必然というか。俺の次の行動はそう決定づけられているかのように、ごく自然に秋葉に話しかけた。


「なぁ、よかったら俺と一緒にお昼ご飯食べないか?」

「ふぇ!?」


 そう、昨日は緊張して周りを見渡す余裕がなかったので気付かなかったが、秋葉もこのクラスには馴染んでいないようだった。

 一緒に食べると言っても机をくっつけるわけでなく、俺が秋葉の方に体を向けるだけだが。


 秋葉の机を見ると可愛らしいお弁当箱に可愛らしいおかずが並んでいた。


「へぇー。可愛らしいお弁当だな」

「そうかな? 一応……自分で作ったんだけど……」


 女子力が高い! タコさんウインナーとか入ってるんだが。デザートにはリンゴのウサギさんか。


 俺たちはお弁当を食べながら、お互いのあれこれを語り合った。俺がどこから来たかとか、秋葉自身のこととか。

 秋葉は極度の人見知りということで、人と話すのが得意ではないようだ。


「私、どうしても自分から人に声がかけられなくて……。だから高校に入ってもずっと1人ぼっちだったの。鈴木君に声をかけられて本当に感謝してます」

「俺でよかったら友達になろう。今後ともよろしくな!」


 秋葉は嬉しそうな顔をした。


「うん!」


 そう言うとデザートのリンゴを美味しそうに食べていた。


 その後も秋葉に高校のことを聞いたり、色々なことを話しているとすぐに昼休みは終わった。


 そして午後の授業もそつなくこなし、とうとう放課後になった。

 待ちに待ったこの瞬間、俺に迷いはない。SF研究部へ行こう。

 一応、秋葉も誘ってみたが丁重にお断りをされた。何か習い事をしているのか放課後はすぐに高校から出てしまうとのことだ。

 笹川は先に行くと言い、俺より早く教室を出て行った。

 教室を出る前に秋葉と俺はサークルの連絡先を交換してさよならをした。


 さて、SF研究部へ行きますか。


 俺はSF研究部の活動場所であるDルームの前に到着すると、1度深呼吸をして扉を開けて中に入った。


「お疲れ様でーす」


 そこにいたのは佐々木部長、笹川、そして柚子先輩は……いない?

 その代わり、里沙がいた。しかも部長に渡しているものは、どこからどう見ても入部届けだった。


続く

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