62 恋の導き手
料理が運ばれてくるまで、相変わらずいつもの調子で倉持は聞いてきた。
「それで2人はどこまで進んだの?」
「進んだ……?」
俺と里沙は倉持の質問の意味が理解できずに首をかしげた。
「だーかーらー! キスぐらいはしたの!?」
「は!?」
2人同時に店内へ響き渡るぐらいの声で叫んだ。
亜子と同じようなことを聞いてくるな。
ひょっとして亜子も将来は倉持みたいになってしまうのか……?
しかし、倉持みたいな妹だったらお兄ちゃんは大歓迎だ。
むしろこのままそうなってくれるのを願うのもアリだな。
「するわけないじゃない!」
里沙は取り乱しながらそう答えた。
「マジ〜!?」
「マジよ」
倉持は信じられないという顔をしながら俺の方を向くと、ムッとした顔になった。
「ちょっと宏ちゃん! もっと勇気を出さなきゃ」
「待て待て。俺と里沙は付き合っちゃいないし、そういう関係でもないぞ」
「まだそんなこと言ってる。もう付き合っちゃいなよ」
俺は思わず里沙の方を見た。
「な……何よ!? 付き合わないわよ」
ガーン。ふ……振られた……。
「あはは! 里沙も素直じゃないね」
笑い事じゃないぜ……。
俺も秋葉みたいにガンガン行くべきだろうか。
里沙はカルピスを飲み干すと、そそくさとドリンクサーバーへおかわりを注ぎに行った。
「ふーん……。宏ちゃん、前と違って完全に里沙のこと好きでしょ?」
「え……?」
「宏ちゃんが里沙を見ている目で分かるよ」
ばれてしまった。
さすが倉持というべきか。
「どうだかな」
「ばればれだよ」
グサっと倉持の視線が俺に刺さる。
「もう焦れったいんだから」
「あ、ところで……」
里沙が戻ってくると、適当に話を繕った。
俺たちが少しソワソワしたのに気づいたのか、里沙は怪しんでいる。
「何話してたの?」
「ちょっとな……」
「ん。私に言えないことなの?」
「そんなんじゃないよ。里沙はどの角度から見ても可愛いなって」
「それは褒めてるの? ふふ」
「そうだ。本当にお前は可愛いよな」
俺も倉持に勢いに任せ、便乗して里沙を褒める。
「どういう意味よ?」
「どういう意味って、そのままだけど。里沙と幼馴染で俺は幸せ者だよ」
「そ……そう」
里沙は少し嬉しそうに、前髪をクルクルと指で弄っていた。
その後、食事を済ませて倉持と別れると家に帰った。
マンションのロビーへ入ると、いつものようにエレベーターへ2人で乗り込んだ。
エレベーターは上昇を始めてすぐに、電気が消えて止まってしまった。
「きゃっ!!」
「うわ! 停電か!?」
真っ暗だ。何も見えない。
このままエレベーターが落ちてしまうのではないかと恐怖を感じた。
「怖い……」
里沙は震えた声でそうつぶやいた。
「きっとすぐに復旧するから大丈夫だ」
自分にも言い聞かせるつもりで里沙を励ました。
ようやく目が慣れてきた頃に機械音声のアナウンスが響いた。
『停電いたしました。間もなく予備電気による復旧を行います』
ふぅ〜。助かった。
しっかりと非常事態に備えられていることに感心だ。
すぐに電気が付き、エレベーターは次の階で止まり、扉が開いた。
よし、脱出完了。
「はぁ〜。怖かった……」
「ところで、さっきから俺の手を握っているのは気づいているのか?」
里沙はハッとした顔で手を離した。
「ご……ごめん。無意識のうちよ……」
困った奴だ。
別の意味でもドキドキしてしまう。
手汗とか大丈夫かな。
その後、無言で階段を登り、家の前まで来ると、お互いにそっけなく挨拶を交わして家に帰った。
ちなみに家の中はまだ復旧しておらず真っ暗で、妹が騒ぎ立てていたことは言うまでもない。
続く




