55 大切なもの
今日は少し早めの更新です
秋葉は鞄から何かを取り出した。
「はい。これはこの前のお返しだよ」
「お返し?」
「うん。イヤホンジャックのお返し」
「別にあれぐらい何てことないぜ」
「いいから受け取って」
秋葉はリボン付きの袋を俺に渡してきた。
中には何が入っているのだろうか。
「開けてみて」
俺は丁寧に袋を開ける。中身を取り出すと、それはウィッチメントのマスコットキャラであるゴンスケのキーホルダーだった。
「キーホルダーだ!」
「どうかな……?」
「ありがとう。そうだな……。早速鞄に付けるよ」
俺は高校用の鞄にキーホルダーを付けた。
「気に入ってもらえて嬉しい。私も付けてるから!」
秋葉はスマートフォンに刺さったゴンスケを見せてくれた。
イヤホンを刺すところにゴンスケが代わりに刺さっていた。
へぇ〜。そうやって使うのか。
「これでお揃いだね〜」
「おう!」
イヤホンジャックとキーホルダーだが共通のキャラクターグッズ。
女子とお揃いなんて俺には何百年早い気がした。
「じゃあそろそろ帰るね」
「お、もう帰るのか」
「手伝いの合間に抜け出してきたの。そろそろ帰らないと」
「あ、そうなのか」
「今日はプレゼントも渡せたし、宏くんのお父さんにも挨拶できたし、幸せです」
親父に挨拶!? 後で何か言われそうだな……。
俺は秋葉をマンションのロビーまで見送りに出た。
家に戻ろうと、エレベーターの前に向かう途中、ソファー付近に何か落ちているのに気がついた。
近づいてみると、キーホルダーだった。
今日はキーホルダーに縁でもあるのか。
俺はキーホルダーを拾い上げた。
「へぇ〜。懐かしいな。ん……? 懐かしい?」
そのキーホルダーは見たことがあった。
可愛らしいお花のキーホルダー。
「思い出せ〜」
一人で呟きながら必死に思い出そうとした。
そして数秒間見つめると、はっきり思い出した。
「あ!」
思わず驚きの声を上げる。
これは、里沙が転校していく前に俺があげたやつだ。
母さんと一緒に買いに行って、当時は怖かった里沙に渋々渡したやつ!
こんなところで再会するとは。
ということは、落とし主は里沙だ。
あいつ、まだ持ってたのか。
嬉しいような、恥ずかしいような、そんな気持ちである。
「どうしたの? そんなにニヤニヤして」
「ん? いやあ……って里沙か!」
どこからか帰ってきた里沙に偶然出会った。
「そうよ。今秋葉さんとすれ違ったけど、ひょっとして遊びに来てた?」
「ああ……。親の病院が近くにあって、片付けの手伝いの合間を抜け出して来たってさ」
「ふーん、そうなんだ……」
里沙はロビーの扉の方を見つめ、何かを考えているようだった。
「あ! そういえば今ここで拾ったぞ」
俺はキーホルダーを持った手を里沙に差し出した。
「それは! 失くしていたと思っていたキーホルダー!」
里沙は飛びつくようにキーホルダーを受け取った。
「まだそのキーホルダーを持ってたなんてな。小っ恥ずかしい」
「か……可愛いキーホルダーだから気に入ってたのよ」
「そんなに気に入ってもらえるとはな」
「ふふふ。不思議なものね。これでこのキーホルダーを宏介に渡されたのは2回目。1回目は転校する時、2回目は転校した後。何か縁を感じるわね」
当時は嫌々だったが、今はわけが違う。
俺はようやく里沙に対して、心からのプレゼントという気持ちで渡せたような気がした。
「キーホルダーも大事に使ってもらえて、さぞ嬉しいだろうよ」
「もう絶対に落とさないから」
里沙はキーホルダーを家の鍵へと取り付けた。
「うん。これで良し!」
「そこに付けてたのか」
「そうよ、転校してからずっとよ」
「気づかなかったな……」
何回か里沙が鍵を使うところを見たことがあるはずだが、全く気がつかなかった。
里沙のことをもっと深く見ると、可愛らしい一面が次々と出てくるかもしれない。
そういうところを探すのも良いかもな。
「何よ。そんなにニヤニヤして」
「ん? 里沙も可愛らしいところがあるんだなって」
「べ……別に! これは……。ううん。何でもない」
「何だよ! 続きが気になるじゃん!」
無事、キーホルダーの持ち主も見つかり、俺たちは家へ帰った。
里沙と秋葉。
俺の心は彼女たちに支配されていることは、言うまでもない。
続く




