53 とある町の情報屋
「せっかくだから夜ご飯でも食べて帰るか」
「そうしよう」
俺たちは着替えることもなくそのままの格好でその辺の店に入ることにした。
時刻は20時すこし前。休日ということもあり、人はまだまだそれなりに歩いている。
「ところで、時間は大丈夫か?」
「大丈夫。うちは門限とかないから」
「俺も」
門限はないと言っても限度はある。
さすがに高校生が遅くまで歩いているのも駄目だろうから、夜ご飯を食べて解散だな。
女子を遅くまで連れ回す勇気は俺にはない。
秋葉の勧めで、オムライス屋さんに行くことになった。
途中、俺たちは仕事を終えた野間さんと再び遭遇した。
「あら。またまた偶然。ご飯は食べたか?」
「これからです」
「見たところ、ライブ終わりと言ったところだな。どうだ? 一緒にご飯でも」
「はい! 隊長!」
「ぜひ」
野間さんも加わり、オムライス屋へ入った。
中はいたって普通の洋食屋さんと言う感じで、メニューもオムライスばかりのシンプルな店だ。
「奈美恵ちゃんとここに来るのは久しぶりだな」
「はい。私もまた野間さんと一緒に来れて嬉しいです」
どうやら前は2人でよく来ていたらしい。
水を持ってきた店員も話しかけてきた。
「いらっしゃいませー! お久〜。奈美恵ちゃん、最近来ないからどうしたかと思ってたよ〜」
「あ、高橋さん! お久しぶりです」
可愛らしい制服を着た、野間さんと同じ20代っぽい女性だった。
「奈美恵ちゃんはバイトを辞めたからもうそれほど来ないさ」
「え!? 辞めちゃったの!?」
「これ、だよ」
野間さんは不敵な笑みを浮かべながら、人差し指を立て、俺の方を見てきた。
「あ! そういうこと!」
「そういうことだ」
「また後で詳しく聞かせてね〜」
高橋さんはそう言うと、厨房の方へ戻って行った。
またまた俺の加わる余地がないところで、話が勝手に進んで行く。
「オーダーを決めようか」
「私はいつもので」
「じゃあ、俺も一緒のやつで」
「む。早いな」
俺は秋葉と同じシンプルなオムライスを選んだ。
野間さんは、チーズのトッピングがされたオムライスを選ぶと注文をした。
高橋さんが注文を取りに来たのだが、明らかに注文表以外のメモ用紙も持っていた。
「……以上でよろしいでしょうか?」
「ああ」
注文の確認が終わると、俺と秋葉への質問タイムへ入った。
「私は高橋と申します。よろしくお願いします」
「鈴木です。どうも」
「それでは鈴木君と奈美恵ちゃんに質問なんですが、まず2人は付き合っているのでしょうか」
「付き合ってないです。バイトを辞めたのも宏くんに振り向いてもらうため、そっちに全力を尽くしたかったからです」
「ほほ〜。宏くんとは、そちらの鈴木君のことかな?」
「はい」
「ふむふむ。では、鈴木君。君の気持ちはどうですか?」
「ええっと……」
俺は言葉に詰まった。
何て答えりゃいいんだ。
「その……秋葉はとても素敵な友達だと思ってます」
「なるほど〜」
「私、絶対に宏くんを振り向かせてみせます!」
「ふーん。まだそういうことか……」
野間さんが俺の方をジト目で見ながら、そう呟いた。
その後も高橋さんの質問はいくつか続いた。
さっきからどこかのインタビュアーみたいだな。
「ふふふ。高橋の癖は相変わらずだな」
「これでも新聞記者志望ですから!」
高橋さんは質問を終えると、再び厨房へと戻って行った。
「聞いての通り、彼女は新聞記者を目指している。何より、裏では大木の情報屋と呼ばれていて、大木の全てを掌握しているという噂もある」
「怖っ!」
「ふふふ。その真相を知るものはいない。なぜなら……。いや、この先はよそう」
「一体何があるんですか……!?」
まさか、情報屋の雇った殺し屋に始末されるとか。
まさに黒幕といったところか。
待て待て、何の黒幕だよ。
新聞記者、早くなれるといいですね。
オムライスを食べ終わり、店を出た俺たちは間野さんと別れた。
彼女には、いつでもコスプレ喫茶に遊びに来てくれと言われた。
今度SF研究部の面々で来れるといいな。
こうして、俺と秋葉のライブ参戦は無事幕を閉じた。
俺は、秋葉と一緒に遊んでいると楽しいと感じるようになっていた。
続く




