48 密着 to the labyrinth
俺と秋葉の2人だけの空間は決して気まずいとかそういう雰囲気ではなかった。
秋葉は、おもむろに立ち上がると俺の真横に座ってきた。
「座ってもいいかな……?」
「もう座ってるだろ」
「えへへ。我慢できなくなっちゃった……」
秋葉は頭を俺の方に預けてきた。
俺は女子と部屋で2人きりのこの状況に緊張した。
「な……なぁ、風邪が移るぞ」
これ以上、秋葉に密着されると気がおかしくなりそうだったので、俺は秋葉を離そうとした。
「いいよ。風邪って移したら治るって言うし。宏くんにだったら移されてもいいかな……」
ドクン。
俺の心臓が強く脈打つ。
俺は秋葉を見つめながら思った。
秋葉ってこんなに可愛かったっけ……?
いや、確かに美少女だが、そういう意味ではなく愛おしいと言うか、抱きしめたくなるというか。
とにかく俺は、秋葉に少しときめいた。
「駄目だ! これ以上くっついていると気がおかしくなりそうだ」
俺は強引に立ち上がろうとした。
すると、秋葉は俺の腕を掴み、引き止めた。
「いいよ。気がおかしくなっても……。宏くんだったら何されても平気」
秋葉は目を瞑りながら、徐々に顔を近づけてきた。
ええ!? これってまさか……!?
このままいけば秋葉の唇が俺の唇に触れてしまう。
いわゆるキスってやつだ。
女子とキス。これが俺のファーストキスになるのか!
頭が沸騰しそうだ。それは決して熱のせいでなく、秋葉という女子によって起こされる化学反応みたいなものだった。
秋葉と俺の顔の間はわずか数センチ。
このままでは本当にキスしてしまう!
色々な思いが重なった結果、気づくと俺は秋葉を避けていた。
「どうして……?」
秋葉は俺を真っ直ぐ見つめながら、聞いてきた。
「すまん。やっぱりそれは駄目な気がする」
「そっかぁ……。宏くんがしたくないなら仕方ないなぁ。私はいつでも受け入れる準備ができてるから」
秋葉は、人差し指を自分の口に当てると、次は俺の口に押し当ててきた。
「これは私のわがまま。許してね」
その瞬間、俺の心の中で何かが弾け飛んだ音がした。
そして、身体中に電撃が走る。
この感情は……!? 俺は、今すぐにでも秋葉を抱きしめたくてしょうがなかった。
落ち着け!! これは一時の感情にすぎない。
この部屋の雰囲気がそうさせている。いわば、秋葉マジックにはまっているのだ。
ははは。魔法少女に心を操られかけているな。
里沙が帰ってきたのか、玄関の扉が開く音がして足音も聞こえた。
秋葉は、そそくさと元の位置に戻った。
里沙が部屋に戻ると、何かを察知したのか俺たちに問いかけてきた。
「ねぇ、何かあったの?」
俺はビクリと内心、どう答えようか非常に戦慄した。
別に悪いことは何もしてないが、里沙にそのことを知られると困る気がした。
「え……? 普通にお喋りしてたけど……?」
「そう」
秋葉によって、俺は救われた。
ふぅ。体がショートしそうだぜ。
「関野さんって本当に宏くんと家が隣同士なんだね」
「そうよ」
「嫉妬しちゃうな……。運命感じない?」
「どうかしらね……」
何だその返答は。
少し前なら、運命なんて感じないと即拒否だっただろう。
里沙よ。お前は俺のことをどう思っているのだ?
「そろそろ帰るね」
「そうか。今日は本当にありがとうな」
「どういたしまして」
「じゃあまた明日学校でな!」
「うん! じゃあね!」
秋葉は嬉しそうに帰って行った。
俺にも女子のお見舞いが来るとは、驚きだ。
感無量ってやつかな。
秋葉が帰った後も里沙は俺の部屋に残っていた。
今度は幼馴染と2人きりですか。
風邪は良くなっても、俺の心が熱暴走しそうだ。
続く