47 お見舞いビューティフルガール
起きたついでに熱を測ると、37度台まで落ち着いていた。
体もかなり楽になった。
このまま寝続ければ回復するかな。
もう変な夢を見ないといいけど。
俺は再びベッドに横になり、眠りに入ろうとした。
先ほどの妙にリアルな夢が俺の頭に強く残っている。
なぜあんな夢を見てしまったのか。夢とは記憶の整理だ。
普通、経験のない事は見ないはずだが……。
俺の深層心理が作り出した妄想が良からぬ反応をしているのか?
そうだとしたら、俺は相当モヤモヤしているらしい。
暗闇の中、天井を見つめながら色々と考えを張り巡らせていたが、俺の際限ないモヤモヤが空へと突き抜けるようだった。
翌朝、目覚めると体の怠さもほぼなくなり、昨日よりすっきりとしていた。
「調子はどう?」
母さんより先に亜子が俺の元へやって来た。
「だいぶ楽になった。もう治ると思う」
「本当!? 良かった……」
起きたのを察知した母さんもやって来た。
「今日は休みなさい。お医者さんに行くわよ」
「分かった」
俺と母さんは午前中のうちに医者へと向かった。
そう言えば、引っ越してきてから初めてこの地域の医者に来た。
医者の看板を見ると『秋葉医院』と書かれていた。
偶然……だよな……?
診察を終え、薬を貰い家に帰ると再び安静にしていた。
お昼ご飯もそれなりに食べることができて、もう明日には学校に行けそうな勢いだ。
そして、夕方頃、そいつらはやって来た。
「宏介〜。お見舞いよ!」
母さんが俺の部屋へ来訪者を通すと、その2人は心配そうに俺の部屋へ入ってきた。
「昨日より顔色は良くなったわね」
「大丈夫……?」
里沙と秋葉だ。
「だいぶ楽になった。明日は学校に行けると思う」
「思ったより元気そうで良かった。関野さんに聞いた時はかなり心配になったんだよ……」
「心配かけてすまん。まさか秋葉が来てくれるとは」
「私はいつでも宏くんの側にいるよ」
秋葉は鞄から授業で配られたプリントを取り出し、俺の机に置いてくれた。
「今日出た宿題置いておくね。来週までだって」
「助かる」
俺は横になった体を起こすと、そのままベッドに座った。
「起きなくてもいいよ」
「寝てばかりも疲れるからな。たまには気分転換だ」
「熱はどう?」
里沙は俺の目の前に来ると、昨日のようにおでこをくっつけてきた。
「熱は下がったようね」
「あ……ああ……」
冷静になって考えるとこの熱の測り方は色々とヤバい!
里沙の顔が俺の顔に直接触れている。
距離感が近すぎる。というか、密着している。
「関野さんって大胆だね……」
「そう? あ、でもさすがに家族と宏介以外にはしないわよ」
「へぇ……そうなんだ……」
目が笑ってないですよ、秋葉さん。
「胃腸風邪じゃないよね……?」
「ああ」
「良かった! 自家製のレモンピールを持ってきたの。たべれたら食べてね」
秋葉はビンに入ったレモンピールを机の上に置いた。
「いいのか?」
「うん。昔から私の家では、風邪をひくとこれを食べてビタミンを摂取するの」
「あ、そう言えば秋葉の親父って医者か?」
「そうだけど……? 嵐ヶ丘で『秋葉医院』って言う開業医をしてるの」
「あー」
ぴったんこ!
まさかとは思ったが、やっぱり秋葉の親父だったのか。
世界は狭い。
「ひょっとして行ってくれた?」
「おう。おかげですっかり良くなった」
「ありがとう。お父さんにも言っておくね」
「えー。何か恥ずかしいな」
「ふふふ」
お見舞いに来てくれた2人と会話をしていると、学校から帰ってきた亜子も俺の部屋へ来た。
「ただいまーっ! お兄ちゃん大丈夫!?」
亜子は勢いよく扉を開けると、里沙と秋葉を交互に見た。
「あ、またお邪魔しちゃったみたい? 玄関に見慣れない靴があったから、ひょっとしてとは思ったけど……。ごゆっくりー!」
「あ、待って! 宏くんの妹さん?」
秋葉が亜子を引き止める。
「そうです」
「私は秋葉奈美恵って言います。よろしくね」
「私は亜子です。こちらこそよろしくです」
自己紹介を済ますと、亜子はそろりと部屋から出て行った。
絶対にわざとだ。
里沙はともかく、秋葉を確認しに来たな。
「1回家に戻るわ。またすぐに来るから」
里沙はお手洗いに行きたくなったのか、家に戻っていった。
少しの間だが、俺と秋葉は2人きりになってしまった。
続く




