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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
素晴らしき高校生活と恋の始まり編
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40 背中合わせの温もりを

 長渕さんの家に帰ると、時刻は日を跨ごうとしていた。

 星ヶ原でかなりの時間を費やしたからな。

 実際朝まであの光景を見ていてもいいぐらいだ。


 車から降り、玄関へ入る前に一条さんはお礼を言うと帰って行った。

 さすがに一条さんは帰るのか。

 少し寂しい気もするが、そりゃそうか。


 リビングに戻り荷物を片付けると、すぐに俺たちは布団の敷いてある部屋へと案内された。

 テーブルと掛け軸だけがある畳の部屋だった。

 その部屋が客間らしい。


 長渕さんが扉を開き、中へ入ると俺たちは思わず顔を見合わせた。


「さすがにどうかと思ったが、仕方ない。俺たちは気にしないからな!」


 そこには布団が敷かれており、ここまでしてくれるのはありがたい。

 だが、長渕さん。さすがにこれはまずいですよ。

 敷かれていた布団は1枚だけだった。


「長渕さん……? これは一体……?」


 里沙は固まりながらそう問いかけた。


「冗談はさておき、すまん。本当に布団が1枚しか無くてな」

「大丈夫です。俺は布団が無くても寝れますから」

「と言ってもクーラーつけないと暑くて寝れないだろう。布団が無くて風邪をひかないといいが……」

「心配に及びません。ここまでしていただいてるのですから、それだけで満足です」

「すまんな……」


 長渕さんが部屋を後にすると妙な静寂が響いた。

 里沙はこちらを見ること無く黙々と荷物を弄っていた。

 そして、パジャマを取り出すとこちらをチラリと見やった。


「着替えるから、部屋から少し出てって。絶対に覗かないで」


 そういえば着替えないとな。

 絶対に覗かないでと言われれば覗きたくなるのが落ち。

 どこかのお笑い芸人よろしく、これはフリなのか!?

 まあ、俺に覗く勇気などないが。


 里沙が着替え終わると、交代で俺が着替えた。

 それからすぐに電気を消して寝ることにした。

 里沙は布団に入り、俺は部屋の隅で畳の上に寝転がった。


 眠いはずなのに中々寝付けない。

 クーラーの送風音だけが部屋に響いている。

 うっ……。布団無しで寝るのはきついかも。

 俺はとうとうクシュンとくしゃみをしてしまった。


「寒いの……?」


 里沙も同じく寝付けなかったのか、俺のくしゃみに反応した。


「そうだな。思ったよりヤバいかも」

「交代しよっか?」

「それは大丈夫だ」

「でも、風邪を引いたらいけないわ。やっぱり……!」


 里沙は布団から立ち上がり、俺のところまで来ると手を引っ張った。


「いきなりどうした?」

「い……一緒に寝るわよ!」

「は!?」


 思わず聞き返す。


「だから……風邪をひくといけないから布団に入りなさい。離れて背中を向けて寝れば問題ないでしょ」

「離れて背中を向けてって……。それでも大丈夫か?」

「大丈夫よ」


 こうして俺は里沙と同じ布団へ入った。

 うおおおおおおおお!! 余計寝られない!!


 確かに背中を向き合って寝ているが、予想以上に狭く、少しでも動こうものなら触れ合ってしまうぞ。

 里沙は同じ姿勢を保つことが難しくなったのか、少し動いた。

 そして、背中同士が当たる。


「きゃっ」

「わっ」


 やっぱり接触は避けられないよ。

 俺たちは何も言わず、いや、何も言えないまま無言の時を過ごした。

 一旦離れたものの、また温かい感触が俺の背中に当たる。


「気にしたら負けよ」

「お……おう」


 お互い開き直り、体が少し触れ合うぐらいは気にしないことにした。

 ……。と言ってもこの状況。気にするなという方が無理である。

 里沙の体温や呼吸のリズムが直接伝わってくる。

 それは、里沙にとっても同じだろう。

 加えて、いい匂いもする。同じ人間から発せられているとは思えない。

 俺とは根本的に何かが違うのか。

 まだまだ夜は長い。気がおかしくなりそうだぜ。


「まだ起きてる?」

「ああ」

「今日のことは皆んなに内緒よ」

「そ……そうか?」

「うん。2人だけの秘密。本当は星ヶ原のことだって発表したくないぐらい」

「なぜだ?」

「なぜかしらね。どれだけの人が発表を見てくれるか分からないけど、あまり人に踏み入って欲しくない思い出なのかな……」

「確かに……」


 あの美しい思い出は胸の奥にそっとしまっておきたい。そんな気持ちも分かる気がした。


続く

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