38 邂逅の夜に
長渕さんの家に着き、リビングに戻った。
「帰ったか。収穫はあったか? ……って、怪我してるな」
「すみません。転んでしまって」
「おーい!」
長渕さんは奥さんを呼び、里沙の怪我の手当てをさせた。
「大丈夫ですか? 転んだだけならいいですが。不良とかに襲われませんでしたか?」
「はい。本当に転んだだけです」
この村に不良はいないだろ。ってかいないで欲しい。
「はい! これでバッチリ!」
「ありがとうございます!」
これで応急処置は完了だ。
そして、時刻は18時。
いよいよ夜ご飯の時間だ。
「張り切って用意しちゃったわ」
「腹一杯食ってくれ!」
俺たちはテーブルの上に並べられたフルコースを堪能した。
長渕さんの言葉通り、もう食べきれなくなるまで食べると奥さんは満足そうに微笑んでいた。
「ごちそうさまです」
「ごちそうさまです。美味しかったです」
「ごちそうさまです。久しぶりに愛情がこもった料理をいただきました。私、こんな素敵な村をこれからも守り続けていきたいです」
俺たち3人は口を揃えて、お礼を言った。
それから、20時を過ぎると俺たちはいよいよ星ヶ原へと移動した。
今度は奥さんも同行している。
「自己紹介遅れたけど、私は恵子と言います」
俺たちは車の中で改めて、奥さんへ自己紹介をした。
池の近くに車を止めると、俺たちは外へ出て待機することにした。
「まだ早いな……。ちょっと様子を見てくる」
長渕さんは森へ向かい、他の皆んなでベンチに座った。
森は街灯もなく真っ暗だ。
明かりもなしだと危ないな。
かろうじて今座っているベンチのところに街灯があるぐらいだ。
「あの森で何かがあるのですね。ワクワクしてきました。待ちきれません」
「そうですね。私も何だかソワソワしちゃいます」
里沙と一条さんは期待に溢れていた。
かくいう俺も楽しみではある。
恵子さんを見ると、静かに涙を流していた。
「だ……大丈夫ですか!?」
「ええ……。ごめんなさい。感極まってしまって」
そう言うと、ハンカチを取り出して涙をぬぐった。
「何か思い出があるのですか?」
「あら? 夫からは何も聞いていないの?」
「はい。少ししか聞いてないです」
恵子さんは少し考えると、その思い出を語った。
「じゃあ私から話すわ……。30年前も夫と一緒にここに来たの」
「そうなんですか!?」
「ええ。当時は高校生だったの。夫と一緒に星ヶ原について研究していたわ」
そう言うと、恵子さんは俺たちを見て微笑んだ。
研究していた。
その言葉に俺は衝撃を受けた。
「どうしたの? そんなにびっくりして」
里沙が不思議そうに聞いてくる。
「長渕さんがSF研究部の初代部長なんですね!?」
「うふふ。そうよ」
「あ! そういうことなんですか!?」
里沙もようやく分かったようだ。
「何ですか? 何ですか? 私だけ置き去りにされている気がしてなりません」
一条さんは少しイジけていた。
でも、興味を持って俺たちの話を真剣に聞いている。
「あの人は何も話してなかったのね。当時SF研究部に所属していた部長である夫と私で共同研究をしていたの」
「偶然すぎますよ! 俺たちも嵐ヶ丘高校のSF研究部で星ヶ原について共同研究してるんです!!」
「うふふ。知ってるわよ」
俺は思わず興奮してそう叫んでしまった。
「つい……」
「それでね。その光景はあまりにも綺麗だったから、30年後また一緒に……見に……来よう……って」
恵子さんはまた泣き始めた。
30年前の約束をこうして果たしている。
素敵すぎます! 何てロマンチックなんですか!
「すごくロマンチックですね」
里沙も感動していた。
恵子さんは落ち着くとまた話し始めた。
「始めて貴方たちが来た日に夫は大喜びだったわ。もうこれは運命だって」
確かにここまで偶然が重なっていると、運命を感じてしまう。
来るべくしてこの日がやって来たと言っても過言ではない。
あと少しでそのあまりにも綺麗な光景を拝めると思うと、俺もソワソワしてきた。
「まだだった。やはり30年前と同じく21時過ぎだな」
俺たちは温かい目で長渕さんを見ていた。
「な……何だ? そんなにこっちを見て」
「村長さんってロマンチストなんですね。私感動しちゃいました」
「うふふ。この子たちに話したわ」
「何!? 恥ずかしいじゃないか!」
「いい話じゃないですか。俺たちも最高の気分です」
「ははは! 違いない! 我が後輩よ!!」
長渕さんは俺の後ろに来て肩をガシッと掴んできた。
「後輩よ! SF研究部を頼んだぞ」
「はい!」
俺は長渕さんから一子相伝の志を受け取った。
「後でじっくりSF研究部について話してやる。今日の夜は長いぞ」
「ぜひお願いします。あ、フライングで聞きますが、何で研究発表ノートが破けているんですか」
「ん……? そうなのか……?」
「それは貴方が破いたんでしょ」
「む……! 言うか!」
「もう……本当に。この思い出は渡さんとか言って破いてたじゃない」
「もしかして奥さんとの思い出をあまり知られたくなかったんですか? 可愛らしいところもあるんですね」
「う……。そんな目で見るな!」
一条さんはニヤニヤと長渕さんをからかうように見ていた。
長渕さんの意外な一面を垣間見たようだ。
そして、とうとうその時が来た。
続く




