37 ゼロ距離の幼馴染
里沙は俺から少し離れたところで明後日の方向を見ながら温泉に浸かっている。
俺を一瞥すると、近づいてきた。
「ねぇ、さっきの話の続きなんだけど……」
「あ……ああ……」
タオル1枚の艶やかな濡れ髪の美少女がすぐ隣にいる。
俺は里沙の方を見たくても見れないでいた。
「秋葉さんに告白されて答えなかったのって、本当は他に好きな人がいるってこと?」
「実は……正直分からない。『好き』という言葉の後には必ずとある人物が浮かぶんだ」
「……。誰?」
「さぁな。そいつの正体は俺にもよく分からない」
「どういうこと? アイドルにでも恋してるの?」
「ああ、それに近いかもな!」
「もう! 真面目に答えてよ」
それは里沙のことだ。何て、やっぱり言えないか……。
「そういえば、かなり昔に一緒にお風呂に入ったよね?」
どうやら里沙も思い出したようだ。
「おう。俺もさっき思い出した」
「そう。あの頃はまだお互いにはだ……か……!」
思い出してはいけないことも思い出した。
顔を真っ赤にしながら里沙はこちらを見ていた。
「おい。変な想像はよすんだ」
「ばか! そっちこそ変な目で見ないでよ」
「あの頃は全く気にしてなかったじゃないか」
「今は違うの! 暑くなってきちゃったからもう出る」
里沙は俺から逃げるようにして、温泉から上った。
長渕さんも一条さんもまだ戻ってくる気配がなかったので、俺も後を追うように温泉から出た。
着替え終わり、ロビーに出ると里沙が椅子に座っていた。
その横に座り、2人を待った。
「お待たせしました」
「さぁ帰るぞ」
長渕さんと一条さんは同じタイミングで出てきた。
そして、温泉を後にして長渕さんの家に帰った。
長渕さんの家に帰り、リビングでしばらく話をした後、夜ご飯まで時間があったので、俺と里沙で星狩村を散策することにした。
資料用の写真とかいっぱい収穫あるといいな。
長渕さんの家から少し行ったところに、神社があった。
石畳の道の先にはちょっとした階段があり、猫が寝ていた。
「あ。猫がいるわ」
「本当だ。寝てるぞ」
シャッターチャンス!
猫と神社。いい組み合わせの写真が撮れたぜ。
お参りするためには、その階段を上がらなければならない。
猫を起こさないようにそーっと歩いたが、配慮もむなしく、目を覚ましてしまった。
そして、逃げるかと思いきや、里沙の足元に擦り寄ってきた。
「かわいい!」
里沙はしゃがみ、猫の頭を撫でた。
猫はお腹を見せなでて欲しそうにしている。
里沙は猫を懐柔するように優しくお腹を撫でた。
「にゃああ」
猫は気持ちよさそうに鳴いた。
パシャリ。俺はすかさずその光景をカメラに収めた。
うーん。ベストショットかな。
神社を後にすると、柿畑の並ぶ道へ入った。
柿の葉茶よろしく、この辺は柿の産地でもあるのか。
一応撮っておこう。
俺がカメラを構え、柿畑を写していると、隣で里沙が転んでしまった。
「きゃっ……!」
どうやら、道に転がっていた石に躓いたようだ。
「大丈夫か!?」
「痛い……」
幸い大事には至らなかったが、片膝を擦りむいていた。
「このぐらい平気よ」
里沙は立ち上がったが、やはり痛そうにしている。
「無理は良くないぞ」
「でも……。どうしようもないでしょ」
「ほら……」
俺は背を屈めた。
「何よ?」
「いいから、おんぶしてやる」
「そこまでしなくても大丈夫よ」
「いいから。怪我した女の子を歩かせるわけにはいかないだろ」
「……。ありがとう」
里沙は大人しく俺の背中にその身を預けた。
ずしりと体重がかかるが、思ったより重くない。
おっと。女子に体重の話はNGだ。
里沙の太もも裏に手をかけ、持ち上げると里沙は変な声を出した。
「ひゃんっ!」
「ちょ! 何て反応してるんだ!」
「変なところ触らないでよ!」
「触ってない!」
とか言いつつ、内心ドキドキですよ。
確かに変なところは触ってないが、こんなに密着してるなんて。
鼓動が伝わってないといいが。
女子の体ってこんなに柔らかいんだな。
何よりも里沙の胸が俺の背中を刺激する。
そして、里沙の香りが俺の鼻腔をくすぐる。
ヤバい! 自分からしておいてなんだが、これも刺激が強すぎる!
長渕さんの家までそう遠くないはずの距離が長く感じる。
途中、里沙は俺を抱きしめるように力を込めてきた。
「どうした!?」
「ん……。危ないから……。いいから、前見て歩いてよ」
こうして里沙を背負いながら、長渕さんの家まで戻った。
戻っている最中、里沙の口数は少なく俺に身を委ねていた。
周りに人もいないため、完全に俺たちの時間がそこには流れている気がした。
続く




