35 その温泉は混浴でした
里沙は胸を撫で下ろし、顔を上げこちらを向いた。
「ねぇ……今のどういう意味……?」
「え……えっと……」
俺が言葉に詰まっていると、勢いよく扉が開いた。
「おーす! 来ているか!? あっ……」
長渕さんは俺たちの方を見ると、察したように扉を閉め部屋に入ってこなかった。
「ちょっと! 長渕さん! 誤解ですよ!!」
そーっと扉が開く。
「お邪魔じゃなかったか?」
「大丈夫です。な、里沙?」
「え……ええ。こんにちわ」
「おう! それは良かった。俺はてっきり……」
「それ以上は言わなくて結構です!」
「ははは!」
長渕さんが戻ってきてからすぐにチャイムがなった。
「お。来たな」
どうやら一条さんが来たみたいだ。
長渕さんは
「こんにちわ。一条です。とうとうこの日がやってきましたね。この日のために今日明日とお休みをもらってきました」
「どうも。張り切ってますね」
「はい。今日は天気もバッチリみたいです」
「晴れて良かった。雨だったら台無しだからな……。さて、少し早いが早速温泉へ行こうか」
時計を確認すると時刻は15時半だった。
風呂に入るには早すぎる気がする。
「本当にはやいですね」
「星ヶ原に行くのは21時頃だからな。早めに風呂と飯を済ませないといけない」
その後、長渕さんの車に乗せてもらって温泉へと向かった。
「さぁ着いたぞ」
温泉はそれほど大きくないようだ。
「思っていたよりこじんまりしてるんですね」
「ああ。ここは知る人ぞ知る秘湯と言っても過言ではない」
「こういうところ素敵ですね」
里沙と一条さんは目をキラキラさせていた。
「一条さんは来たことないんですか?」
「実は……。まだこちらへ赴任して日も浅いので来たことがなかったのです。だからとても楽しみでした」
「なんだかワクワクしますね」
「ええ。本当に!」
里沙と一条さんはすっかり意気投合しているみたいだ。
一条さんも20代に見えるが、年齢を聞くのは失礼だろうか。
建物に入ってすぐに受付があり、長渕さんが全員分のお金を払ってくれた。
「そんな! 私たちも払います」
「そうです!」
「私も社会人ですから出しますよ!」
全員で申し訳なさそうに異議を唱える。
「何、いいってことよ。ここはおじさんに任せとけ!」
長渕さんはそう言うと、楽しそうに脱衣所に向かった。
「あ、待ってください」
俺たちも慌ててついていく。
男子と女子に分かれそれぞれ服を脱ぐと、俺と長渕さんは一足先に温泉へ向かった。
「さあ、ここが入り口だ。露天風呂だぞ!」
俺はある違和感に気付いた。
「あれ? 入り口が一つしかないんですが?」
「お? 言ってなかったか? ここは混浴だ」
「聞いてないです!」
「大丈夫! 男ならこういう経験も必要だ!」
長渕さん! 恥ずかしいですけど、グッジョブ!
「きゃっ!」
里沙と一条さんのお出ましだ。
「ちょっと、混浴ですか!?」
里沙は慌てふためいている。
全員タオルを巻いておいて正解だったな。
「あれ? 知らなかったのですか?」
隣で一条さんが冷静にそう言った。
「今初めて知りました! 一条さんも知ってて平気だったんですか?」
「はい。私は特に。何なら全裸になってもいいかもしれません。ああ、その開放感と男性に見られているという背徳感がたまらない。ゾクゾクしますっ……!」
「おっと、未成年には刺激が強すぎるからその辺でストップだ」
色々と突っ込みどころが多すぎる……。
一条さん、あなたは警察としてその発言をしても大丈夫なんですかねぇ。
「い……一条さん? それは猥褻物陳列罪じゃないですか?」
「今日はオフの日なので! ふふふふふふ。鈴木君、どうかなぁ?」
一条さんはタオルをずらし、胸の谷間をアピールした。
すかさず俺は目をそらす。
うわあああああ!
俺には刺激が強すぎる!!
やばい人だ。この人、まさか痴女か!?
オフの日とか関係ない気がするし、完全に目がイってるのですが。
俺と里沙は一条さんの変態っぷりに少し引いていた。
「ははは! まさか婦警さんがこんな人だったとは」
「長渕さん、平気なんですか?」
「もちろん! 俺は嫁の裸以外に興奮しない!」
えぇ……。
何気にこの人も凄いこと言ってるよ。
まだ、温泉に浸かってすらいないというのにこの飛ばしっぷり。
果たして、無事に出てこれるのだろうか。
続く




