33 不意打ち思い出ピクチャー
9月9日を間近に控えたある日、それは起こった。
放課後になり秋葉と笹川と一緒に部活へ向かうと、見慣れない写真立てが棚に置いてあった。
近づいて中を確認すると、合宿の帰りに撮られた写真が飾ってあることが分かった。
「これは何ですか!?」
「ん? 鈴木と関野のラブラブ写真だが?」
「そういうことじゃなくて! 何で飾ってあるんですか!?」
「いい写真じゃないか。この部活の宝物だ!」
部長、完全に楽しんでますね。
幸い里沙は来ていなかったので、俺は写真を回収しようとした。
写真に手を伸ばした瞬間、別の何かが俺の腕を掴んだ。
秋葉だ。
「宏くん……。これは……?」
秋葉ってこんなに力があるのか。
思ったより強い力で腕を掴まれている。
「えっと……。これは不可抗力というやつだ。とにかく見なかったことにしてくれ!」
「それは無理だよ……。いい写真だね。ふふふ」
秋葉さん!? 目が笑ってないですけど。
秋葉は俺から手を離すと、その写真を見つめていた。
「いい写真すぎて、嫉妬しちゃうぐらい」
「そ……そうか……」
しまった。秋葉に見られたのは色んな意味でまずかったな。
里沙にも部長が送ったはず。
里沙は特に何も言ってこないので、俺も触れることなく過ごしてきたのだが……。
「お疲れ様です」
里沙が部活に来てしまった。
俺はすかさず写真を隠すように棚の前に立つと、里沙に挨拶をした。
「おう! お疲れ」
「……。何やってるの? そんなところに立って」
「ちょっと探し物をな」
隣で秋葉はニコニコしている。
そして、里沙に質問をした。
「2人って寄り添って寝るほど仲がいいの?」
うわあああああああ!
「……! まさか……!?」
里沙は気付いたようだ。
俺たちの方へ来ると、俺を無理やりどかし、その写真を確認した。
そして、その写真を見て顔を真っ赤にした。
「ははは! ついに見つかってしまったな」
「この写真って奇跡の1枚だよね」
「里沙も見せつけてくれるよなー」
柚子先輩と笹川も囃し立てる。
ひいいい! やめてくれ!
「……。そうよ! 私と宏介は仲がいいの。幼馴染だから」
「え!?」
予想外の回答に俺は困惑した。
皆んなも驚いているようだった。
そして、秋葉は相変わらずニコニコしている。
「やっぱりそうなんだ……。そんな友達がいるって羨ましいよ」
「でも、私だって撮られたくて撮った写真じゃないんだから」
さ、早く写真を片付けようか。
俺が写真に手を伸ばすと、また腕を掴まれた。
今度は里沙だ。
「何してるの?」
「写真を片付けようと思ってる」
「だったら私が片付けるわ」
そう言うと、里沙は写真を手に取った。
「部長、この写真私が預かってもいいですか?」
「もちろん。お前たちの写真だからな。あ、写真立てごとプレゼントしよう!」
「あくまで処分します」
写真立てから写真を出すと里沙はクリアファイルに写真を入れ、鞄にしまいこんだ。
「そんなに丁寧に扱って、本当に処分するのか?」
「もちろんです!」
ふぅ。これにて一件落着。
不意打ちを食らった気分だぜ。
秋葉はサボテンを愛でる柚子先輩を見て、不思議そうな顔をしていた。
そして、小声で聞いてきた。
「ねぇ、柚子先輩ってちょっと変わった人?」
「ちょっとどころではないぞ」
「そうなんだ。私も人のこと言えないかもだけど」
確かに、コスプレ喫茶で働いてた奴なんてそうそういないだろう。
柚子先輩は俺たちの視線を感じたのか、こっちを見てきた。
「あ、奈美恵ちゃんもサボテンに興味ある?」
「え……ええと……。少しだけなら……」
「本当!?」
秋葉は柚子先輩の洗礼を受けるはめになった。
さすがの秋葉も話を聞き終わる頃には疲れているようだった。
そういえば、SF研究部には何かの高校一が集まるってジンクスがあったよな。
秋葉は何だろうか。
高校一のオタク女子。それだと部長とかぶる。
高校一のコスプレ好き。それは高校一というか高校唯一かも。
うーん。考えだしたらキリがないかもしれない。
俺は考えるのをやめた。
そもそも自分が高校一の何だか分かっていない。
「部長、俺って高校一の何だと思いますか?」
「そんなの決まってる。高校一のたらし野郎だ」
即答された。
しかも、嬉しくない……。
「はぁ。そんな自覚はないですよ」
「ははは。尚更タチが悪いな」
「誤解です! 俺は何もしていません」
「全く。本当に罪な男だ。この前も言ったがいつでも相談に乗ってやるぞ」
「大丈夫です」
「そう遠慮するなよ! ははは!」
部長は楽しそに笑っている。
本人にとっては冗談じゃないのに。
ま、何だかんだ充実した日々を送れているので悪くないと思う。
そして、そんな日々を送りつつ、とうとう約束の9月9日がやって来た。
続く




