31 告白 to the scramble
秋葉は俺に近づいてきた。
近い。めちゃくちゃ近い。秋葉は俺に吐息がかかるくらいまで近づいてきている。
「ちゃんと言えなかった私の告白、聞いてくれますか?」
「うん」
そして、秋葉は満面の笑みでそう言った。
「ずっと鈴木君のことが好きでした! 私と結婚してください!!」
……? 俺はその言葉を理解するのに数秒かかった。
「は……はい……!?」
俺の勘違いでなければ今、秋葉にマジで告白された。
ってか結婚してくださいってぶっ飛びすぎだろ!
正気……だよな……?
秋葉に告白されたことは嬉しい。
まさか俺が女子に告白される日が来るとは思わなかった。
最初に話しかけたクラスメイトにこうして告白されている。
なんという奇跡。
秋葉よ。ありがとう。
「ありがとう」
「えっと……? その返事はいいの……?」
ああ。もちろんだ。
と言いたいところだが、なぜか次の返事ができないでいた。
正直、好きという感情が何だかわからないでいる。
なぜだ。なぜなんだ。
ちょっと前の俺なら即答していたはずだ!
困ったことに、俺の頭には里沙の顔が浮かんでいた。
一体どういうことだ。
「ねぇ……答えてよ……」
秋葉の声は少し震えていた。
「その……告白されて嬉しいよ。だけど……。今すぐに、いい加減な返事をすることはできない……」
「やっぱり私のこと嫌い……?」
「そんなことない。もちろん秋葉のことは好きだ。だが、それは恋愛感情かと言われれば分からない」
「そ……そっかぁ……」
秋葉は顔を下に向けてしまった。
「ごめん! 俺って最低だな……」
俺は秋葉を傷つけてしまったようで心が痛んだ。
「ううん! 宏くんは何も悪くないよ」
宏くん!? 俺のあだ名か!
「私の愛が届いてなかったってことだよね。私諦めないから。絶対に宏くんを振り向かせてみせる! だから、いつになってもいいから、返事待ってるね……」
その言葉に俺は戸惑っていた。
こんなにも一途な思いを向けられたのは初めてだ。
「ええと……。そんなにはっきり言われると恥ずかしいな」
「ふふふ。何かスッキリしちゃった」
秋葉の目は潤んでいた。
「大丈夫か?」
俺は秋葉にハンカチを渡した。
「ありがとう。そういうところだよ。宏くんの素敵なところって」
「え!?」
急に褒められて、顔が熱くなったのを感じた。
「今日は色々困らせちゃってごめんね」
「いや、そんなことないって。俺の方こそ曖昧な返事で悪いな」
「ううん。私の思いを聞いてくれただけでも嬉しい」
「秋葉が勇気を振り絞って告白してくれたんだ。絶対に返事はするから」
「うん! 私もいい返事がもらえるように頑張る」
その後、俺と秋葉は公園を後にした。
公園を出てからすぐに秋葉はある大胆な提案をしてきた。
「途中まででいいから、手をつないでもいいかな……?」
「お……おう」
ここでノーと言えるわけがない。
俺は秋葉と手をつなぎ、しばらく無言で歩いた。
そして、駅前まであっという間に着くと俺たちは解散した。
「ああ。やっぱり宏くんとずっと手を繋いでいたいよ。ずっと離したくない! ……なんて、思ったりしてます」
ぐお! なんて可愛らしい女子なんだ。
俺はどうしようもないぐらい複雑な気持ちだった。
そして、その晩はほとんど眠ることができなかった。
秋葉に告白された。告白された。告白された。
告白された、という事実が頭を支配していた。
しかもあんなに一途な思いを向けられている。
そんな女子の思いに応えなくてどうする!?
だがしかし……。
「好き」という言葉を聞いて思い浮かぶのは、なぜか里沙だ。
これは……俺が里沙を好きということなのか……?
確かに里沙は好きだ。でも、それは家族に向ける好きみたいな感情だと思っている。
あいつとは兄妹みたいな、そんな感じだ。
ううううううううう……。
うおおおおおおおおおお!
分からない!!
誰か恋の方程式を教えてくれ!!
そんな複雑な思いに悩んでいると、すぐに朝が来てしまったのだ。
俺はその日、里沙と登校する時間をあえて避けてしまった。
完全に意識しているということか?
心が渦巻く中、教室へ到着するとざわついていた。
俺は周りを見渡すとあることに気づいた。
みんな、ある1点を見ながらざわついている。
俺もその視線の先に目をやった。
その人物はいつか見たような美少女だった。
そう、秋葉だ。
三つ編みではなく、肩までかかるゆるふわな髪型になっていた。
そして、花のヘアピンを頭の横につけている。
おまけに眼鏡も外している。
これがイメチェンというやつか……?
続く




