30 愛の架け橋
来る始業式。
俺は全然頭に入ってこない校長の話を受け流しながら、他のことを考えつつ式を乗り切ろうとしていた。
俺たち高校生にとっては、早く帰って何をしようかということしか頭にないだろう。
式が終わり、帰る準備をしていると秋葉が話しかけてきた。
「ねぇ……。鈴木君」
「ん? 何だ?」
「今日暇かな? よかったら私とデートしてくれない?」
「え!?」
ええ!? えええ!? 今デートって言ったよな!?
「俺の聞き間違いでなければ、デ……デートと聞こえたんだが」
「そうだよ……。女の子に2度も言わせないでよ……」
「お、お、俺は構わないが、どこへ行くんだ?」
落ち着け、動揺しすぎだ。
女の子の口からデートに行こうなんて、直接言われたのは初めてだからな。
普段、里沙とか、もちろん秋葉とも2人きりで遊んだことはあるが、はっきりデートだと言われると心持ちが違う。
平静を保つんだ。
「ふふ。高校の近くの公園だよ」
「そ……そうか。あ、でもお昼ご飯は……?」
「大丈夫、私がお弁当持ってきたから。今日は午前で終わりだから、鈴木君はお弁当持ってきてないでしょ?」
「その通り。助かる。ってかありがとう」
「えへへ。どういたしまして」
俺と秋葉は公園へ向かった。
ちょうど校門を出たところで里沙と倉持に遭遇した。
「宏ちゃんおひさー!」
「うっす。倉持も元気そうだな」
「もちろん! 私は年中元気だよ。……その隣の人は?」
「あ……あぅ……」
秋葉は俺の後ろに隠れてしまった。
「わ! ごめん! 私何かしちゃったかな?」
「いや。極端に人見知りでな。俺が代わりに紹介するが、同じクラスの秋葉だ」
「秋葉ちゃん! 可愛い苗字だね!」
秋葉は俺の後ろで恥ずかしそうにぺこりとお辞儀をした。
「そんなに照れなくなてもいいじゃない」
里沙がクスッと笑いながら秋葉にそう言った。
「あ、関野さん。どうも」
秋葉は俺の隣まで出てきた。
どうやら里沙は大丈夫みたいだ。
「え、何? もう知り合いだったの? ずるい〜」
「ふふふ。すぐに打ち解けられるわよ」
倉持は秋葉と握手をしている。
「よろしくね!」
「う……うん。鈴木君の友達に悪い人はいないよね」
「さっすが! 分かってるね!」
目的の公園は、駅とは反対方向だったためその場で別れた。
「あれ? そっちは反対だよ?」
「ああ、ちょっとな。こっちに用があるから」
「うん。私と鈴木君でこれからデートなの」
悪いことをしているわけではないが、その言葉を聞くと恥ずかしい。
「デートォ!?」
倉持は驚き、里沙は無言で俺を見つめていた。
あ、また里沙の機嫌が悪くなったな。
顔には出ていないが、例の雰囲気で俺には一発で分かる。
「ちょっと聞いた!? 里沙! 先越されてるよ!」
「べ……別に、いいんじゃない? 先越されたとかそんなのないから」
「あ、幼馴染の余裕ってやつ? 里沙も意外とやるね!」
「ちょっと! からかわないで。別に何とも思ってないんだから」
「本当〜?」
「本当よ!」
「まあ、でも学校中では里沙と宏ちゃんって付き合ってることになってるんだけどねー」
「もう……!」
そんな心臓に悪いやりとりを聞きながら、俺は秋葉の方をちらりと見た。
秋葉は少し儚げな顔をしながら俺を促した。
「そろそろ行こっか」
「そうだな。じゃあ、俺たちは行くよ」
「うん! またねー」
「それじゃあ」
倉持と里沙に別れの挨拶をすると、俺たちは歩き出した。
あ、次里沙に会ったらあの写真について聞かないとな。
嵐ヶ丘高校から歩いてすぐのところにその公園はあった。
どこかで見たことがあるようなその公園は、特に遊具はなく散歩コースやベンチが設置された地域の公園という感じだ。
俺たちはお弁当を食べるためにベンチに座った。
あれ? この景色、どこかで見たことがあるな。
俺が周りを見渡していると、秋葉嬉しそうに問いかけてきた。
「気づいたかな?」
「ああ。この風景って……」
「そう。ウィッチメントの第1話で出てきた公園だよ」
「やっぱりそうだよな」
「うん。ネットでは話題だよ」
確かに周りを見渡すとそれっぽい格好をしてカメラを構えている人がポツポツといる。
あの漫画のモデルか。不思議な感じがする。
それから、秋葉お手製の可愛らしいお弁当をいただいた。
そういえば里沙ともこんなことがあったな。
里沙のは家庭的な味で安心するが、秋葉の味付けはお店で出てくるような料理のそれだ。
俺は玉子焼きを始めに食べた。
最初の一口は玉子焼きという決まりでもあるのだろうか。
それにしても美味しい。
だし巻き玉子と言った方がいいかも。
「どうかな……?」
「うん。相変わらず美味しいよ」
「本当!? 他にもどんどん食べてね」
お弁当を食べ終わると、俺たちは公園の散歩をした。
俺たちが座っていた場所以外にもモデルとなった景色が公園内にいくつかあるらしい。
こういうのは、聖地巡礼というということを学んだ。
「ここが、2巻に出てきた噴水だよ」
「おお。ここか! 確かにこの噴水だ」
俺はスマートフォンを取り出し、写真を撮った。
「あ、せっかくだから一緒に写真撮らない?」
「そうだな。近くにいる人に頼んでみようか」
俺は近くにいた散歩に来ていたであろう中年ぐらいのおばさんに撮影を頼んだ。
おばさんは快諾して写真を撮ってくれた。
「うん! いい感じだね……。後でメッセージで私にも送っておいてね」
「おう!」
その公園にはちょっとした池もあり、そこに橋がかかっている。
ウィッチメントの作中では主人公が友達に魔法少女であることを告白する場所だ。
橋を渡りながら池を覗いていると、秋葉が話しかけてきた。
「ねぇ。こっちを向いて」
「ん?」
「この場所って、主人公が友達に秘密を告白した場所なんだよね」
「そうだな。名シーンだった」
さっきも思い出した通り、ここはウィッチメントのファンにとって神聖な場所だ。
「じ……実は私も秘密があります」
秘密……? 秋葉の秘密と言ったらコスプレ好きのオタク少女ってことだろう?
「まだ鈴木君に正式に話したことがなかったんだけど……。今日はその秘密を言おうと思ってます……。聞いてくれますか?」
秋葉は少し緊張しているようだった。
「もちろん。だけど、あまりびっくりするようなことは勘弁な。ははは」
秋葉は一呼吸置いた。
その瞬間、周りが急に静かになり、俺たちの周りだけ隔絶されたような気がした。
何だこの感じ。秋葉もいつもと雰囲気が変わったぞ。
俺も緊張してきた。
固唾を飲んで、秋葉から放たれる一言を待っていた。
池で鯉が跳ねたりしているが、それも気にならないほどの静寂さを感じる。
まさか、実は魔法少女です何て言わないだろうな!?
続く




