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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
素晴らしき高校生活と恋の始まり編
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2 恋の天然水持ってきました

 俺の目の前にいる美少女は優しく俺に微笑みかけていた。


「久しぶりね。貴方もこの高校に通っていたの?」


 間違いない。俺の目の前にいる美少女は関野里沙本人だ。

 そう思うと少し緊張が解け、俺は言葉を発することができた。


「あ……ああ。いや、今日から転校してきた」

「今日から? まだ高校生になったばかりなのにおかしな話ね」


 俺は昔のようにしばかれるのかとビクビクしていたが意外にも落ち着いているようだ。


「親の都合でちょっとな」

「そうなの。それにしても懐かしいわ。昔は……」


 その瞬間、里沙の動きがピタリと止まった。

 完璧美少女崩壊の瞬間である。

 少し目を泳がせたかと思うと話題を変えてきた。


「それより、あなた何組なの?」

「3組だけど……。それにしてもお前キャラ変わったか?」


 そう言うと、里沙は焦り始めた。


「な……何のことかしら? 全く意味がわからない。私は昔からこうよ」


 明らかにキャラが変わっている。昔は泣く子も黙る乱暴な女だったのに、今や清楚なお嬢様キャラになっていないか?


「はぁ!? 昔はさぁ……」


 俺が昔の話をしようとしたら、里沙は腕を思い切りつかんできて俺を引っ張り歩き始めた。


「ちょ……どこに連れて行く気だ!?」

「いいからちょっと来なさい」


 里沙は小声でそう言うと、俺は人気のない体育館裏へ連れて行かれた。


 体育館裏と言えば、不良のたまり場かあるいは告白の場所か、何か起こりそうな場所ではあるな。

 こんな美少女と体育館裏で二人きり……。

 いや待て、相手はあの傍若無人な女だぞ。


 とにかく天変地異が起きても告白だけはあり得ない。

 俺もこの女が異性として好きかと言われれば好きではない。

 この美少女ぶりには少し心が揺らいだとしても、昔のトラウマが勝つ。

 ということで俺の頭の中にある選択肢は一つ、不良によるリンチだ。

 これから里沙の取り巻きが出てきて俺は抵抗することもできず……。

 考えるだけでも恐ろしい。


「はぁ……はぁ……」

「息を切らしているようだが、大丈夫か?」


 里沙は呼吸を整え一息つくと話し始めた。


「貴方に話しかけたことが私のミスね」

「は?」

「この高校に昔の私を知るのは貴方しかいないの!」


 里沙は声を荒げ、俺の胸ぐらを掴んできた。その目は涙で少し潤んでいた。


「落ち着けって! 一体なんなんだ!?」


 里沙は俺の胸ぐらを掴んだまま語り始めた。


「この高校ではおしとやかで清楚な私で通っているの! 貴方に昔のことを喋られたらお終いよ!! この美貌を生かして私はこの学校の頂点に立つわ!」


 なるほど。そういうことか。少し状況が分かってきたぞ。

 過去の里沙を知る人がいないこの高校で清楚なキャラを演じることにより、マドンナ的存在になろうとしているんだな。

 確かにモデルとして雑誌に載っていてもおかしくない可愛さだと思う。それは里沙を見た誰もが思うだろう。

 こいつはそれを分かった上で、計算の上で、清楚に振舞っているのか。何という腹黒な女だ。


「いいからとにかくその手を離してくれ! こんなところ見られたらそれこそ駄目だろ!」


 里沙はハッとすると俺の胸ぐらから手を離した。


「ふぅ……。その乱暴さは昔から変わっていないな」

「とにかく! 昔のことは宏介と私だけの秘密だから。喋ったら容赦しない!」


 全く。目の前にいる美少女から発せられている言葉とは思えないぜ。

 里沙は落ち着きを取り戻すと、その場を去ろうとした。


「おい、どこへ行くんだ」

「どこって……図書館よ。私は図書委員なの」

「あ、俺もちょうど図書館に行こうとしてたんだ。俺も連れて行ってくれ」

「はぁ!? 何で私が宏介なんかを連れて行かなきゃいけないの!?」


 俺はある名案を思いつき、思わず口元が緩んでしまう。


「な……何よ?」

「俺の言うことを聞かないと、ば ら す ぞ」

「……!」


 里沙は俺を睨みつけてきた。おお恐い。今にもボコボコにされそうだ。


「貴方、ろくな死に方しないわよ!」


 これはしばらくの間使えそうなネタだな。

 俺と幼馴染の美少女の間で二人しか知らない秘密。

 形はかなり歪だが、楽しい高校生活になりそうじゃないか。

 ふふふ。はははははは!


 昔は逆らえなかった里沙の弱みを握っている。

 そう考えるだけでワクワクが止まらなかった。我ながら俺も悪い性格してるな。

 どう仕返ししてやろうか。などと考えながら里沙の後ろを歩いていた。


 それにしても、後ろ姿だけで美人だな。そのオーラも半端ない。

 確かによくよく思い返してみれば、昔も可愛かったかもしれない。

 その可愛さが霞むほどの女番長っぷりだったというわけだ。



 さて、図書館に着いたわけだが……。なるほど、前評判通りの広さだな。これだけあれば俺のぼっちライフも充実しそうだ。

 できればもっと別のことで高校生活を充実させたいのだが。


「ここが図書館よ。もういいでしょ。本の整理をするから」

「サンキューな。俺も少し様子みたら教室戻るわ」

「いいこと!? 絶対の絶対に秘密よ」


 あえて返事をしないでいると腕を抓られた。


「いてっ……!」


 里沙は凄い形相で俺のことを睨みつけてきた。

 他の生徒に見せてやりたいぜ。


「分かったって!」


 俺が図書館全体を見て回ると、昼休み終了まで10分となっていた。

 そろそろ戻るか。


 俺が教室に戻ると少し教室がざわついていた。席に戻り聞き耳をたてると、どうやら俺と里沙のことみたいだ。


「あの転校生、いきなり7組の関野里沙と喋ってたらしいぜ」

「聞いた聞いた。しかも二人でどっかに行ってたらしいぞ」


 見られていたか。さっそく噂になっているな。

 ええい、思い切って話しかけてきてくれ。そして俺と友達になってくれ。



 5限目の授業は古典だった。おばちゃん先生が何やら外国語のような言葉を喋っている。昼食後にこの授業は堪えるぞ。


 授業が終わり休み時間になり欠伸をしながら席に座っているとあることに気づいた。

 さっきから里沙が廊下をうろうろしている。

 教室と廊下の間の壁には見晴らしのいい窓が付いており、そこから教室内の様子をうかがっているようだ。

 あいつ、何してるんだ? どこからどう見ても挙動不審の怪しいやつなんだが。

 その後、廊下を数往復してこちらの様子を伺うと次の授業の時間が来たので帰って行った。


 6限目を終えた後も里沙はまた廊下をうろちょろしていた。

 あいつ、本当に何をしているんだ? ひょっとして俺が秘密をばらしていないか見に来ているのか。

 それにしても、教室内がざわついているぞ。クラスの皆んなに見られている気がする。


 その時だった。とうとうクラスメイトに話しかけられた。


「鈴木……君だよね? 僕はこのクラスの委員長の山内聡四郎です。君は7組の関野さんとどういう関係なの?」


 イケメンだ。周りの女子たちから小声できゃーきゃーと黄色い声があがっている。


「えっと……。あいつは幼馴染だ。転校して離ればなれになってから久しぶりに再会したんだ」

「あ、そういうことなんだ。良かった。1年生には彼女のファンが多くてね。まだ入学して2ヶ月だけどもうファンクラブまであるんだ。彼氏がいるってなったら、怒るだろうね」


 大丈夫。俺は断じて彼氏ではない。

 というかたとえ彼氏であっても怒られる筋合いはないと思うぞ。

 あいつの彼氏になる奴は大変だな。

 本性といい、自動的にできる敵といい気苦労が絶えないだろうな。



 6限目で授業は終了だ。帰りのホームルームを終えると放課後となる。

 クラブ活動に行く人、帰る人、残って勉強する人などそれぞれの過ごし方がある。

 リア充であれば、友達と汗水流してスポーツに精を出したり、帰りに寄り道してカラオケやファミレスで話し込んだり、彼女と勉強を教え合ったりと薔薇色の高校生活が待っているんだろうな。

 実際にホームルームが終わると半分ぐらいは割と早めに教室を出て行った。

 俺はこの後、素直に帰るかどうしようか考えた。


 そして、せめてクラブ活動を見て回ろうと思い鞄に教科書をしまっていると、教室がざわざわと騒がしくなった。

 何かと思い顔をあげると、里沙が廊下からこちらを見ていた。


「あの二人ってやっぱり付き合ってるの?」

「そんなわけないでしょ」


 教室内からそんな会話が聞こえてくる。

 また変な噂が広がりそうだからその監視を辞めてもらえませんかね。

 俺は里沙を無視するように教室を出ると、里沙のいる所とは反対方向へ進んだ。

 玄関の所にクラブ活動の掲示板があったはずだからとりあえずそこに行きますか。


 ……。付けられている。明らかに俺の後を里沙が付けてきている。

 たまに振り返ってやると、隅っこで遠くを眺めるふりをしたり、壁の出っ張りや物の影に隠れたりしているがどう見てもバレバレだ。

 こいつ、これでバレてないと思っているのか? ひょっとしてド天然じゃないだろうか。

 今時こんなストーキングする奴がいたことに驚きだ。計算高い腹黒の女だと思っていたが、こんな一面もあるんだな。

 それにしても、何が楽しくて学年一の美少女にストーキングされなきゃいけないんだ。


 クラブ活動の掲示板の前まで来た俺は、しびれを切らし近くにいた里沙に話しかけた。


「おい。さっきから何だ?」

「あ……あら。偶然ね」

「何が偶然だ。バレバレだっつーの!」


 里沙はムスッとすると捲し立て始めた。


「いいじゃない! 貴方の行動が気になるのよ!」


 周りの連中は俺たちの方を見ていた。

 いや、その言い方は捉え方によってあらぬ誤解を招くぞ。

 こいつ、やっぱりド天然でどこか抜けているところがあるな。


 掲示板に貼り付けてある部員募集の紙をざっくばらんに見ている俺を里沙は、じっと見ている。

 掲示物に集中しようとしたが、何だかんだ美少女に見つめられるのは、照れるし緊張する。

 そして、周りの視線も俺たちは集めてしまっている。ああもう! いたたまれない!

 とにかく俺は文化部だ。運動は苦手だからそっちにしよう。

 えーと……。

 とりあえずこの場を立ち去るためによさげなクラブ活動を探した。


 なぜそれにしたかと言われれば偶然であるが、『SF研究部』の文字が俺の目に飛び込んできた。

 SFって言うとあれか。科学的な事とか宇宙の神秘とか。皆んなで星を見に行くなんて素敵なイベントがあるかもしれない。


 よし! ここに行ってみよう。

 場所は南校舎2階のDルームか。


 俺はそそくさとその場を立ち去り、颯爽とDルームの前まで来たわけだが……。


 なぜか俺の隣には里沙が立っていた。


続く

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