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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
素晴らしき高校生活と恋の始まり編
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25 ハートキャッチ幼馴染

 相変わらずの雨だ。

 俺と里沙と一条さんは、長渕さんの家のリビングでお茶を出されていた。


「ここまでしていただいてありがとうございます」

「私までいただいちゃって、すみません」

「それは長渕家秘伝の柿の葉茶だ。じっくり味わってくれ」


 甘いのか酸っぱいのかよく分からない味がしたが、健康に良さそうだ。

 あんな葉っぱでもお茶にできるんだな……。



 一息つくと、早速本題に入った。


「私たちは、星ヶ原の30年に1度起こると言われている何か、について研究しています」

「ほほう。それを知る者が村の部外者にいたとは」

「実は以前、部室でそれについて書かれたノートを見つけたんです」


 俺が星ヶ原について知ったきっかけを話すと、村長さんは何かピンときたようだ。


「む! ひょっとして嵐ヶ丘高校の生徒か?」

「そうです!」

「なるほどな。ははは! そういうことか。ちょうど30年前か……。俺も高校生だった頃だが、そいつらは、わざわざこの村に来て色々調べていたな」

「知ってるんですか!?」

「ああ」


 よっしゃ! 早くも解決だ。


「内容について知っているのは、俺とその嵐ヶ丘高校の生徒だけだろうな」

「え!? そうなんですか!?」

「私も知らないです」


 一条さんも知らないみたいだ。


「ははは! 簡単に教えるのも面白くないな……。自分たちの目で見て確かめることだ!」


 焦らされた。

 秘密にされればされるほど気になるのが人間の性ってもんだ。


「……だってさ、里沙」

「そうね……。ヒントだけでも教えてもらえれば……」

「いいだろう。2つ教える!」


 ごくり。一条さんも含め、俺たちは固唾を飲んで言葉を待った。


「一つ、それはおそらくこの地名の由来だ。一つ、9月9日にそれは観測できる。30年前もその日だった。以上」


 俺は、長渕さんの言葉を一字一句逃さないようにノートに書き留めた。


「また9月9日に、ここに来ます!」


 里沙はやる気満々でそう言った。


「おう。ちなみに泊まり込みになると思うから俺の家に泊まらせてやろう!」

「ええ!? いいんですか!?」

「遠慮するな。これも何かの縁だ。池山温泉もツアーに入れておこうか」

「何だか楽しくなりそうですね!」


 一条さんも参加する気満々だ。


 地名の由来か……。『星ヶ原』、『星狩村』。2つに共通するのは、『星』だ。

 それに泊まり込みということは、夜中にかかるということだな。

 その日だけ、星に関する特別な何かがあるのか……?

 うん。きっとそうに違いない。



 その後、俺たちはどこに住んでいるかとか、村の特徴とか、お互いを知るために基本的なことを話し合った。


「ところで、宏介と里沙はアベックなのか?」

「アベック……?」

「おっと、古かったか。2人は恋人同士か?」

「「違います!」」


 俺と里沙はまた同時に否定した。


「息ぴったりじゃないか……。お似合いだと思うがなぁ」


 誰かに会うたびに言われている気がする。

 まさか今日初めて会った人にまで言われるとは。


 しかし、ここ最近の行動を思い返してみるとすごい事してるよな。

 里沙も知ってか知らずか、よく分からんな。

 よっぽどの天然か……。



 さて、雨も止んだし帰りますか。

 長渕さんと一条さんに見送られながら、バス停に向かう頃にはすっかり夕方だった。


「もうこんな時間ね……」

「ああ。バスがあるといいな」

「ふふ。さすがにあるわよ」


 バス停に着き、時刻表を確認すると終バスは19時だった。

 おおう。早い。これは、夜中にかかったら帰れないな。


 少しするとバスが来た。

 当然といったら怒られるだろうが、他に乗客はいなかった。

 俺たちは、一番後ろの席に座った。


 そして、お決まりのように、里沙は俺にもたれかかって寝てしまった。

 ふぅ。里沙の寝顔の写真を撮ったのはここだけの話である。



 こうして小旅行は終わりを迎えた。

 後は、9月9日のレポートをまとめれば俺たちの研究は上出来じゃないか?


 家に帰ると、夜ご飯を食べ風呂に入った。

 部屋に戻りくつろいでいると、ただならぬ気配を感じた。

 どこだ? 誰かに見られている気がする。

 ……。よく見ると、部屋の扉が少し開いている。

 そして、隙間から誰かの目が見える。

 ススス……。扉がゆっくり開く。

 亜子か。


「お兄ちゃん、里沙姉とどこに行ってたの?」

「どこだっていいだろ? それになんで里沙と出かけてたことを知ってるんだ?」

「やっぱり里沙姉とだったんだ」


 しまった。


「へぇ……。それで、どこ行ってたの?」

「ちょっと部活の用事でな。田舎まで行ってた」

「2人で?」

「そうだけど……」

「ふーん。やるじゃん」

「それだけだ。他に面白い話はないぞ」

「……。本当にぃ〜?」

「本当だ!」


 弁当の件とか、雨と雷の件とか、話すと面倒だからな。


 妹は後ろに回していた左手を前に持ってくると何か紙を持っていた。


「じゃーん! 水族館のチケットがここに2枚あります!」

「へぇ。友達と行ってきたら?」

「私はただの魚に興味ありません! ってことで、お兄ちゃんと里沙姉で行ってきてよ」

「なぜそうなる。それに、そもそもどうやって手に入れたんだ?」

「雑誌の懸賞で当たった。お兄ちゃんと里沙姉のことを思って応募したんだから」


 余計なお世話だ。


「ここに置いておくから! 行ったらどうだったか、ちゃんと私に報告すること!」


 亜子は勢いよくチケットを机の上に置くと、部屋を出て行った。

 嵐みたいなやつだ。

 

 とりあえずチケットは引き出しの中にしまった。

 そのうち誘うか……。



 その晩、俺は物思いに耽っていた。


 最近里沙と一緒に出かけるのが普通みたいなところがあるよな。

 冷静に考えれば、周りに勘違いされて当然かもしれない。


 転校してきてそろそろ2ヶ月経つが、里沙も昔とは完全に変わりきった。

 俺を恐怖の支配下に置くこともなくなったし、別人のようだ。


 そして里沙との色々な思い出が頭を駆け巡る。


 里沙とはただの友達……。たまたま家が隣同士で、他の人よりちょっと親しい幼馴染。

 それ以下でもそれ以上でもない。

 うん! いい友達じゃないか!

 ずっと良い関係が続くといいな。

 ……。ずっと……?


 あああ! 変に意識してしまう!

 そもそも俺に、清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!

 里沙は恐ろしい女番長のはずなのに!

 なのに……。

 この2ヶ月間、接してきた清楚な美少女も紛れもなく里沙だ。


 里沙の顔を思い浮かべる。

 もどかしいというか、この言葉で言い表すことのできない気持ちはなんだろうか。

 全く、困ったな……。


 俺の心は完全に里沙に狂わされていた。

 そして、この感情の正体が掴めないでいる。


続く

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