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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
素晴らしき高校生活と恋の始まり編
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24 雷雨の接近に伴い、2人の距離も急接近するでしょう

 里沙はベンチに座り、鞄から弁当を取り出した。

 季節は夏だ。弁当が腐らないように保冷剤の詰まった保冷バッグに弁当は入れられている。

 そこから、少し大きめの2段の弁当箱が取り出された。


「少ないかしら?」

「いや、動き回ることを考えたらこのぐらいがちょうどいいんじゃないか」


 里沙は箸を1膳だけ取り出した。


「あれ? 俺の箸は……?」

「わ……忘れた」

「マジ!? 近くにコンビニもないしどうしよう」

「しょうがないわ。一緒に使うしかないでしょ!」


 えええ!?

 これも間接キスじゃないか!

 ま、不可抗力だ。仕方ない。


 ベンチにナフキンを敷き、その上に弁当箱を1段ずつばらす。どちらも開けると、卵焼きやウインナー等のおかず、オニギリが2人分用意されていた。


 里沙はどれから食べるか聞くように俺を見てきた。


「お前のペースに合わせるから、好きなように食べてくれ」

「うん」


 まずは玉子焼きから。

 里沙は自分の分を食べ、もう1つの玉子焼きを掴むと俺の口元まで運んだ。

 何ですと!?

 箸を俺に渡して食べてもらうとか、そうするとばかり思ってたんだが。

 いつかも倉持に食べさせてもらったことがあったような。

 とにかく、予想外だ!


「何を躊躇しているの? 一思いに食べちゃって」

「お……おう」


 俺は玉子焼きを一口で平らげた。

 いい感じに甘く、少ししっとりしていてパサパサしすぎていない。

 やっぱり、里沙って料理が上手なんだな。


 その後も完食するまで里沙にあーんをしてもらった。

 何だか恥ずかしさで胸いっぱい、お腹いっぱいだ。



 弁当を食べ終わると周りの散策をすることにした。

 まずは池の周りからだ。


 周りを1周するのに5分もかからないその池は、鯉が数匹泳いでいるだけで特に変わったところはなかった。


 その後、俺たちは森へと足を踏み入れた。

 少し歩くと、右か左か、道が分かれていた。


「どっちに行こう?」

「右ね」


 右へ進みしばらく歩いた。

 周りには木が茂っており、夏だが少し涼しい。

 俺たちを歓迎するように蝉たちが大合唱をしている。


 そして、さらに進むと元来た道へと戻ってしまった。


「あ、この道はぐるっと1周するようになってるんだ」

「そうみたいね。本当に何もなかったわ」


 森の入り口のところまで戻ると、頭にポツリと嫌な感触がした。

 雨だ。


「うわ! 雨が降ってきたぞ」

「傘持ってないわ!」

「俺も!」


 ちくしょう。さっきまで快晴だったのに。

 いつの間にやら雲が出てきて、雨まで降ってきた。


 だんだんと強くなる雨足に、俺たちも雨宿りを急いだ。

 確か来る時に渡った橋の近くに雨宿りできそうな屋根のある開けた物置みたいなところがあったはずだ。

 というわけで走るぞ。


「走れるか?」

「ええ。早く雨宿りしないと」


 俺と里沙は走った。

 そして、その物置までたどり着くと、そこで雨の様子を伺うことにした。

 雨宿りできるのはいいが、ここに来るまでにずいぶん雨にやられた。


 俺と里沙は結構びしょびしょに濡れてしまっている。


「くしゅん!」


 あーあー。里沙がくしゃみをしたぞ。風邪ひいてないといいけどな。

 幸いタオルを持ってきていたのでそれでお互い雨を拭き取った。


「しばらく止みそうにないわね」

「ちょっと足止めだな」


 その後、雨が止むことなく、むしろ雨は強くなる一方だった。

 これが夏のゲリラ豪雨というやつか。


 終いには雷まで鳴り出したぞ。


 俺は暗くなった空を見上げていると、腰あたりに何か力が加わって引っ張られるのを感じた。


「ん? 何だ?」


 腰の方を見ると、里沙が俺の服を掴んでいた。


「どうした?」

「こ……怖い……」


 里沙はものすごく不安そうな顔で震えていた。


「怖いって……雷か?」

「うん……」


 意外だな。こいつにも怖いものがあったんだ。

 まさか雷が苦手とは、驚きだ。


 ピシャアアン! と雷の音も近くなってきている。

 

 その時だ。

 里沙が俺の背中に密着してきたのである。


 あの、里沙さん? いきなりどうしたんですか!?

 俺はその不意打ちに硬直してしまった。


「お……お、おい! いきなり気でもおかしくなったか?」

「……。ごめん……」


 里沙は俺の体から少し離れる。

 しかし、追い打ちをかけるように雷は鳴り響く。


「やっぱり怖い……。手……握ってもいいかな?」


 えええええええええ!?


「俺は構わんが……」


 あくまで怖がっている女子を邪険にすることはできないからであって、里沙だから繋ぐとかそういうことではない……はず。


「うん……ありがと……」


 里沙は俺の手をぎゅっと力強く握ってきた。

 しかも、指を一本いっぽん俺の指の間に入れてきた。

 俗に言う、恋人つなぎというやつだ。


 うおおおおおおおおお!

 頭が沸騰しそうになってきた。



 そんな状態でお互い無言のまま、その場で立ちつくしていたが、救世主が現れた。


 俺たちの前に車が現れたのである。

 目の前で止まると、運転席の窓が開き、中年のガタイのいいおじさんが話しかけてきた。


「よお! 坊主ども。大丈夫か?」


 助手席の方からは、さっきの婦警さんが手を振っている。


「あ、傘もなくて……。どうしようか困っていました」


「だろうな! とにかく乗りな!」


 俺たちはお言葉に甘えて車の後部席に乗り込んだ。

 ふう。マジで救われたな。


「ありがとうございます」

「なに、礼はいらんぞ」

「大丈夫でしたか? 豪雨になったので様子が心配になって見に来ました。私は運転ができないので、村長さんに頼み車を出してもらいました。すぐに見つかってよかったです」


 相変わらずの早口だ。


「お巡りさんも、ありがとうございました。あの……お名前は?」

「私は一条三和子と申します」

「俺はこの村の村長。長渕博だ」

「俺は鈴木宏介です。で、こっちが関野里沙と言います。今日は本当に助かりました」

「困った時はお互いさまよ! こんな村に高校生が勉強にやって来たって聞いてな。ほっとけなくなっちまった」

「そうなんですか。ありがとうございます。けど、特に成果はありませんでした」

「何!? この村に来たからには、ただで帰すわけにはいかん。俺の家で詳細を聞こうじゃないか。そして、分かることならたっぷりと教えてやろう!」


 そう言いながら長渕さんは車を豪快に走らせて、自分の家まで俺たちを案内してくれた。


続く

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