23 白いワンピの超絶美少女
ある日の夜中、明日の小旅行に備えて準備をしていた。
そう、とうとう里沙と一緒に星ヶ原へ行く日がやってきたのだ。
ノート、筆記用具、カメラ、地図等々、必要なものをリュックに詰め込んだ。
記録するものは基本的に俺が持っていくことになっている。
里沙はお弁当を持っていくといい、俺の分まで用意してくれるという。
ちなみに調べることのできた範囲では、星狩村は観光地でもなくただの農村だということが判明している。
正直、ちょっとした冒険のようで俺はワクワクしていた。
翌朝、目を覚ますと爽やかな小鳥のさえずりが聞こえてきた。
カーテンを開け目にしみる朝日を自分と部屋に浴びせる。
よし! 本日も快晴! 相変わらず俺は晴れ男だ!
などと調子のいいことを考えていると携帯が鳴った。
里沙からメッセージが届いたようだ。
『さっきから外で待っているのだけど?』
げっ! 出発時刻から10分も過ぎている。
寝すぎてしまった。
そして、今度こそ本当に遅れてしまった。
俺は慌てて準備をして外に飛び出た。
「す、すまん! 寝坊した」
「遅い! とっくに約束の時間は過ぎてる!」
そこにいたのは、少し大きめの肩掛けバッグを掛けた白いワンピースの美少女だった。
「わっ! めちゃくちゃ可愛いじゃないか!」
「……! 褒めても無駄よ!」
「へい……。すみません」
昔だったら鉄拳が飛んできていたな。
それに、褒めても無駄よなんて里沙は言っているがお世辞でもなく、本当に可愛かった。
絵に描いたようなワンピース美少女じゃないか。
いや、ワンピースを着ることによって超絶が付くな。
というわけで、もう一度。
絵に描いたようなワンピース超絶美少女じゃないか。
嵐ヶ丘駅の改札前で、倉持に偶然出会った。
「あ、偶然だね! 2人してどこ行くの?」
「咲じゃない。宏介と一緒に部活の研究の現場取材に行くところよ」
「うっす。というわけだ」
「ラブラブだね〜」
「ちょっと咲! 変なこと言わないでよ!」
「そ……そうだ。違うぞ!」
「えへへ! 本当里沙と宏ちゃんって面白いよね!」
「もう……! そういう咲はどこへ行くの?」
「ちょっとねー。新しいスイーツ屋の開拓だよ」
「へー。美味しいところがあったらまた皆んなで行こうぜ」
「そうね。また3人で行けるといいわね」
「任せといてー!」
倉持は笑顔を振りまきながら、颯爽と俺たちとは反対の方向へ姿を消した。
こうやってスイーツ屋を探しているのか。
倉持も現場調査をしているというわけだ。
さて、俺たちも気合を入れますか。
「よし! 行くぞ!」
「張り切ってるわね……」
ホームで待つこと数分、電車が来た。
遅刻したが、いい時間に来れたな。
電車に乗り込むと思いの外空いていた。
2人がけのボックス席に座り、売店で買ったお茶を一口飲んだ。
里沙は飲み物を持ってないのか、羨ましそうにこちらを見ている。
「飲み物ないのか?」
「忘れたわ。喉が渇いたけど、目的の駅まで我慢するから大丈夫」
とか言いつつ、少し汗をかいて暑そうだ。
俺は里沙に手に持っていたお茶を差し出した。
「ほら。少しぐらいだったらいいぞ」
「本当に!? ありがとう」
里沙はお茶を受け取ると、美味しそうに飲んだ。
あ、これ間接キスじゃん!
里沙は何ともないのかな?
見た感じ気にしてない、というか気付いてなさそうだし、言わないでおくか。
その後はテレビの話など特にとりとめのない雑談をしながら過ごした。
電車に揺られることおよそ1時間。
俺たちは『稲垣』という駅で降りると、コンビニに立ち寄り飲み物を買った。
そして、バス停へと向かう。
乗り場の数は少ないわけではないが、人が少ない。
平日ということもあるかもしれないが、もう少しいてもいいと思う。
だが、この閑散として周りから切り離された感じ、嫌いじゃないぜ。
俺たちは目的のバス停に着き、時刻表を確認した。
10分後か。
電車に続きバスもタイミングがよかったな。
それにしても、田舎に向かうバスって本数が少ないのは仕方ないのだろうか。
星狩村に行くバスも2時間に1本なんだが。
ちょっと少なすぎやしませんかねぇ……。
バスが到着し乗り込むと、他にお客さんは数名程度だった。
稲垣駅からは俺たち以外、誰も乗車していない。
ふぅ。何というか、のんびりとした雰囲気で落ち着ける。
稲垣駅から星狩村までおよそ30分。
駅から離れると、すぐに高い建物はなくなり、民家や地元のスーパーなどが悠然と並んでいた。
さらに進むと川と田んぼが続くようになった。
いよいよ田舎だな。
星狩村に着く頃には、乗客も俺たちしかいなかった。
「次は星狩村役場前ー」
バスのアナウンスと共にブザーを押す。
「ご乗車ありがとうございましたー」
バスを降り、改めて周りを見渡すが田んぼと家しかない。
「星ヶ原ってここからどう行けばいいのかしら?」
「あ、そこにある交番で聞いてみよう」
俺たちは近くにあった交番へ入った。
「すいませーん!」
しかし、反応はない。
「すいませーん!!」
もう一度呼ぶと、奥から慌ただしく警察官が出てきた。
「はい! 何でしょうか?」
出てきたのは若い女性の警察官、つまり婦警さんだった。
背は俺よりも少し小さいぐらいで、あまり頼り甲斐がなさそうだ。
「星ヶ原ってどうやって行けばいいですか?」
里沙がそう聞くと婦警さんは慌てて地図を取り出し、案内を始めた。
「え、えとですね……。星ヶ原はこの交番の前の道を東へ真っ直ぐ進んでもらって、十字路に当たったら右折してください。少ししたら川があって、橋も架かってますのでそれを渡ってください」
何という早口。何とか聞き取れたが、凄まじいな。
そして、マシンガンはまだ打たれ続ける。
「橋を渡ったら、ずっと進んでください。しばらくすると山の入り口に差し掛かります。その手前ぐらいの野原と森と池がある辺りが星ヶ原になります」
「教えてもらってありがとうございます」
「どういたしまして。だけど、貴方たちは何をしに行くの? 本当に何もない場所ですよ」
「ええ。ちょっと部活の研究に行きます」
「はっ……! 若い男女が2人きりで人気のない森へ……。 怪しい!」
「何でそうなるんですか!?」
俺と里沙は婦警さんに教えてもらった通りの道を進んだ。
山の入口付近に着くと、小さな池があった。
ここが星ヶ原か。
うーん。これといって特別なものはないな。普通に自然豊かなのどかな場所だ。
何かが起こりそうなイベントスポットもなさそうだ。
池のそばには森へと続く道もある。
あと、ベンチもあり、ちょっとした公園みたいになっているな。
「そろそろお昼だし、弁当でも食べない?」
「そうだな。あのベンチに座って食べよう」
お腹も空いてきた頃だ。そろそろ里沙の手作り弁当を頂きますか。
続く




