22 幼馴染の手料理は宝石よりも美しい
ピンポーンとチャイムを鳴らす。
そう、俺と亜子は今まさに里沙の家の前に来ている。
「はーい」
インターホン越しに里沙の声が聞こえる。
「里沙姉来たよー」
「あ、今行くわ」
里沙はガチャリと扉を開けた。
そこにいたのは部屋着と思えないような清楚な服を着た女子だった。
何だ? 外出でもしようってのか?
引っ越してきてから初めて里沙の家に足を踏み入れるわけだが、同じマンションであるため家の造りは基本的に同じである。
リビングで勉強会をするかと思えば、俺たちは里沙の部屋に通された。
ピンク色のカーテン、可愛らしい柄のベッド等、その部屋はピンク色基調で、まさしくザ・女子の部屋という感じだ。
「な……何ジロジロ見てるのよ」
「いや、女子っぽい部屋だなって」
「里沙姉の部屋可愛いねー」
「そうかしら?」
里沙はちょっぴり嬉しそうだ。
「じゃあ、早速宿題を」
「そうだな。今日で終わらせるぐらいの勢いで頼む」
「里沙姉に教えて貰えば楽勝だね」
ローテーブルの上に宿題を広げ、俺たちは順調に宿題を進めた。
1時間ぐらい進めた頃だろうか、亜子が突然体調不良を訴えだした。
「痛た……。ちょっとお腹が痛くなってきたから今日はこの辺で帰るね」
「え!? 大丈夫?」
「うん。大丈夫だから。また今度教えてね」
そう言うと、亜子はさっさと家へ帰ってしまった。
やっぱり、ここ数日のアイスの食べ過ぎが良くないんだぞ。
「本当に大丈夫なの?」
「ああ。多分アイスの食べ過ぎが原因だ。すぐ治るだろ」
「そう……」
そう言って俺たちは宿題を再開した。
「うーん……。ここがわからない」
「どれ?」
里沙が俺の質問した問題を見ようと、問題集に少し顔を近づけた。
その拍子に俺と里沙の体が密着してしまった。
「この問題は……ってごめん!」
里沙はそれに気づくと、体をすかさず離した。
「おう。大丈夫だ」
俺は少し恥ずかしかった。しかし、こんなにも恥ずかしいというか、里沙を女子として意識してしまうのはなぜだろうか。
内心ドキドキですよ。
それからも対面に座ればいいものを、隣同士で勉強を進めた。
よく考えてみればまたまた女子と部屋で2人きり。
この前の秋葉の時といい、最近の俺は天に味方されているのか!?
時々、里沙の顔を見ると改めて美少女っぷりを認識させられる。
駄目だダメだ。もっと宿題に集中しないと。
「どうかした? 私の顔に何かついてる?」
「い、いや、何でもない」
「今、私の方をじっと見てなかった?」
「見てないぞ。気のせいじゃないか?」
ふぅ。色々と気を使うが、ここであることに気づいた。
亜子の言う通り、里沙の機嫌が直っている。
なぜ、もう機嫌が直っているのか分からないが、とにかくこれで一安心だ。
その後も順調に宿題を進め、お昼がやってきた。
里沙が時計を見ると、時刻は12時だった。
「あ、もうお昼ね。今から準備するから待っててね」
「おう。……ってどういうことだ?」
「そ…その……、私が作るってこと……」
里沙の手料理。想像がつかないが、素直に嬉しい。
「いいのか!? 何か知らんが、とても嬉しいぞ」
「ば……ばか! そんなに期待しないでよね」
あの里沙が料理か。
女子の作った料理を食べられるってのもそうだが、里沙の成長を感じて込み上げてくるものがある。
子を見守る親の気持ちというのはこんな風なんだろうか。
「準備できたら呼ぶから」
そう言って里沙はキッチンへと行ってしまった。
……。おい。落ち着くんだ俺。
今、里沙の部屋に1人で取り残されている。
この状況、何かヤバい気がする。
チラリと横を見ると、里沙がいつも寝ているベッドがある。
いいのか? 里沙といえど、あれほどの美少女のベッドがすぐ近くにあって。
俺は、凄まじいほどの背徳感を感じていた。
変に意識しては気がおかしくなってしまう。
ぐぬぬ。少しでも動こうものなら犯罪に値するような、そんな風だ。
色々な思いが頭を駆け巡り宿題にも集中ができない。
うおおおお! このまま耐えるしかない!
その場でじっと耐えること数十分。
里沙が部屋に戻ってきた。
「できたわ……って、どうしたのそんなに固まって?」
「いや、何でもない」
里沙は俺を怪しんだ顔で見てきた。
「まさか変なことしてないよね?」
「し……してない」
「ふーん……」
頼む。信じてくれ!
こうして、俺と里沙は昼ご飯を食べるためにリビングへ移動した。
リビングへ入ると、香ばしいかおりが漂ってくる。
テーブルの上を見ると、オムライスが並べられていた。
「おお! 美味しそうだ」
「私が作ったんだから当然でしょ」
そう言いつつも照れている。
俺と里沙は席に着くと早速食べ始めた。
湯気立ち、いい感じにふわふわでトロトロな卵を破くと、これまたケチャップのいい香りが鼻を満たす。
うん。美味しい! 家庭的な味で安心感がある。
「ど……どうかしら?」
「美味しいよ。すごく安心するというか……。里沙の料理だったら毎日でも食べさせて欲しいぐらいだ!」
「えっ!?」
里沙は顔を真っ赤にしている。
おまけに俯いてしまった。
そして、料理前に着たであろうエプロンのお腹部分を両手で握りしめている。
何だなんだ!? いきなり様子がおかしくなったぞ。
「ど……どうした!? お前も体調が悪くなったのか?」
「ま……毎日……食べさせて欲しい……」
あ、里沙の言葉の反芻を聞いて俺は気づいた。
料理を毎日食べさせて欲しいってドラマとかでよくあるプロポーズの常套句じゃないか。
とんでもない一言を放ってしまった。
昼ご飯を食べ終わると、勉強会は夕方ぐらいまで続いた。
亜子は戻ってこなかったので、ずっと里沙と2人きりで。
昔は里沙と2人きりになると、ビクビクと怯えているのが常だったが、今はもう安心だ。
むしろこんな美少女と2人きりでバチが当たらないよな?
そして、宿題は全部とまでいかなかったが、半分ぐらいは終わってしまった。
「今日はありがとう。かなり捗った」
「いいわ。今更お礼なんてなしよ。もうそんな仲は通り越してるでしょ?」
里沙のその言葉にドキリとした。そんな仲は通り越してる。
一体、里沙の心の中ではどんな認識なんだろうか……。
とにかく、里沙の機嫌が直った。というか、前にも増して良くなった。
亜子には感謝だ。腹痛はもう治ったのかな?
自分の家に帰ると、俺と里沙の心配を他所に妹がケロッとした顔でアイスを食べていた。
「あ……!」
妹はマズいという顔で俺を見ている。
「腹が痛いんじゃないのか?」
「あーあれね……気のせいだった」
なぜだか、俺は亜子にはめられた気がする。
続く




