20 幼馴染と図書館デート
里沙とは11時半に集合する約束をしている。
集合場所は家の玄関を出てすぐのところ。なんとまあ気の抜ける集合場所だ。
時間きっかりに玄関の扉を開けると、既に里沙がいた。
「遅い」
「時間ぴったりですけど!?」
「女の子とのデートだったら遅くとも約束の10分前にはそこにいなきゃダメよ」
「そうっすか……。それはすまん」
俺はなぜか謝るハメになった。
「でも、これはデートなんだな」
「ち……違う! もしもの話よ!」
こうして合流した俺たちはすぐに嵐ヶ丘駅前のプリンが美味しいと評判のカフェに向かった。
倉持曰く、自家製のミルクプリンが絶品らしい。
落ち着いた雰囲気のそのカフェは女性客が多いようで、男性客といえば彼女と一緒に来ているような人しかいなかった。
確かに、男1人で入るには勇気がいるな。
俺は昔ながらの鉄板ナポリタン、里沙はふわふわオムライスをメインに頼んだ。
そしてもちろん、デザートにはミルクプリンをつける。
ミルクプリンを食べる里沙の顔は幸せそうだ。
プリンも美味しいが、幸せそうな里沙の顔を見て、俺まで幸せな気分だった。
今日は俺の奢りだ。
というわけで2人分の会計を済ませ、颯爽と店を出た。
里沙も素直にご馳走してもらうといい、とびきりの笑顔でお礼を言ってきた。
嵐ヶ丘駅から、今回は電車ではなく、バスでの移動だ。
幸いにも市内にそこそこ大きい図書館がある。
何でも最近建て替えたばかりで綺麗だそうだ。
バスに揺られている途中、里沙は寝てしまった。
この短い間によく寝れるな。
隣同士に座っていたので、里沙の頭が俺の肩に寄りかかって来る。
ひょおおおお! 落ち着くんだ俺!
相手は里沙といえど、異性に密着されるとドキドキしますぜ。
目的地に着いたから里沙を起そう。
トントンと肩を軽く叩く。
「きゃっ!」
里沙は軽い悲鳴を上げながら起きた。
俺は痴漢じゃないですよ。
「着いたぞ」
「あ、寝ちゃった」
せっせとバスを降り、図書館の本館まで広場を歩く。
あ、そう言えば聞いてなかったな。
「お前って彼氏いないの?」
「へ!?」
里沙は突然の質問に戸惑っている。
「ど……どういう意味よ!?」
「だから、高校では清楚で美少女なお前に彼氏の1人ぐらいいてもおかしくないと思うんだが」
「いないわよ!」
「へー。じゃあ好きな人は?」
「い……い、いない!」
何をそんなに慌てふためいてるんだ?
「と……とにかく、自分磨きに忙しかったからそんな暇なんてなかったの」
「ほーん」
そんなもんか。男遊びしまくりだったら、それはそれで嫌だけどな。
ちなみに俺は、彼女いない歴=年齢だ。
図書館に入ると、手分けして星ヶ原について分かりそうな本を探すことにした。
このご時世、ネットがあるではないかと突っ込まれそうだが、検索してもヒットしなかったのである。
だから、ネットがあるのにこうして本で探さなくてはいけない。
おまけに親にも聞いたが、知らないと来た。
俺たちの調査は、そもそも星ヶ原が本当に存在すのかという所から始まる。
映画か何かに登場する架空の地名でした。というのだけはなしにしてくれよ。
俺は、地域に関する古い本や資料がある棚を片っ端から漁った。
さっと目を通しては戻しての繰り返しだ。
特に地名に関する本や古い地図の載った本には注意した。
しばらく探していると、遂に星ヶ原の文字を見つけた。
それは、地域の様々な温泉や銭湯を紹介してある本に書いてあった。
なになに……。池山温泉は星狩村から星ヶ原を抜けた山の中腹にあります。星狩村から歩けない距離ではありませんが、バスを使った方がいいでしょう。
やっぱり聞いたことがないな。でも、これは大ヒントだ。
温泉の本と地図をセットで持ち、集合場所で待っていると、手ぶらで里沙が戻ってきた。
「私は収穫なしよ」
「大丈夫。ほら、この本に大ヒントが載ってるぞ」
近くにあった席に隣同士で座り、机の上に本と地図を広げた。
温泉の本によると、池山温泉のある地域は俺たちの住む地域に区分されている。
そう遠くないはずだが……。
地図を確認すると嵐ヶ丘からずっと西にそれはあった。
「遠いな」
「うーん。どうやっていくのかしら?」
本の情報で星狩村にバス停があるということが分かっていたので、ネットで検索してみた。
ビンゴ! 嵐ヶ丘から1時間の駅で降り、そこからバスでさらに移動するらしい。
なるほど。星狩村のバス停の次が池山温泉のバス停か。星ヶ原にはバス停がないのか。
そういうこともあってネットで情報が出てこないほど、有名ではないということだ。
「時間はかかるけど、行けなくはなさそうね」
「そうだなぁ……。今度行ってみるか?」
「そうね。来週中に行くのはどう?」
「賛成。準備を整えて行こう」
「そうと決まれば、色々買出しに行くわよ!」
とりあえず、その温泉の本を借りるために図書カードを作り、貸し出しカウンターに並んでいた。
俺たちが並んでいる前で、ちょうどカウンターでやり取りをしている女子を俺は見たことがあった。
そう、そこにいたのは秋葉だ。
遠目で見ると、アニメの絵が表紙になった小説を借りているようだ。
へぇ。そんな本まで図書館にあるのか。
続く