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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
素晴らしき高校生活と恋の始まり編
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1 すれ違い to the paradise

 俺は生まれて初めて転校をした。

 高校に進学して2ヶ月、短い間でしたが前の高校さん、お世話になりました。今日から次の高校さん、よろしくお願いします。


 それにしても2ヶ月で転校って何だよ。せっかく友達もでき始めて青春謳歌待ったなしだと思ったのに。

 なぜこんなに早く転校したかといえば、親の仕事の都合でどうしても引っ越しをせざる得なかったのだ。

 色々と考え親とも話し合った結果、俺は高校を変わることにした。


『嵐ヶ丘高校』


 今度俺が通う高校だ。


 今まさに初めて校門の前に立っているわけだが、なかなか雰囲気の良さそうな高校じゃないか。

 とりわけ怖そうなDQNも嫌味ったらしいインテリ眼鏡もいそうにない。皆んな健やかな笑顔で登校している。

 ああ、ここでも早く友達を作って青春を謳歌するぞ。


 職員室に行き、担任の先生のところまで行くと彼女も今到着したようだった。


「おはようございます」

「おはよう!」


 俺より背の小さな、その明るい先生はこっちが応援したくなるぐらいの小動物っぷりだ。

 今でこそ普通に話せるが、転校の手続きやら何やらで初めて会った時はウサギのように怯えていたはずだ。


「今日からですね! 高校生活、充実させましょう!」

「はい。よろしくお願いします」


 挨拶を終えると、ちょうどホームルームのチャイムが鳴った。


「あわわ。遅刻ですぅ! 早く行きましょう!」


 大丈夫か……?


 すでにチャイムが鳴ったので廊下を小走りで教室に向かったが、教師としてこれはいいのだろうか?

 廊下は走っちゃいけません! ではないのだろうか。


 教室に到着し、先生が教室のドアに手をかけると、俺の心臓は跳ね上がった。

 よく考えたら、人生で初めての転校。見知らぬ人達。自己紹介で転けたら終わり。

 様々な要因が重なって俺は意外にも緊張していた。


 固くなった体を動かし俺はなんとか教壇に立つことができた。


「今日は転校生を紹介します!」


 静まれ、俺の心臓よ。そして頼むから出てくれよ、俺の声。


「それでは自己紹介お願いします!」

「ひゃい! す……鈴木宏介です! よろしくお願いします!!」


 何ということでしょう。見事に噛んでしまった。

 教室内からクスクスと笑い声が聞こえてきた。

 恥ずかしい! 今すぐこの場から立ち去りたい。


「じゃあ、鈴木君の席はあそこね」


 先生が指差す方を見ると、教室のど真ん中だった。

 窓際とか一番後ろの席とか、それっぽい席にならないんですか!?

 周りの視線を集めながら席に座ると、俺は恥ずかしすぎて周りを見ることができなかった。

 完全にやってしまった。

 しかし、こんなことで挫けていたら俺の高校生活がダメになってしまう。ここは休み時間に賭けるぞ。


 朝のホームルームと1時限目の間に少し休み時間があった。


「ねぇねぇどこから来たの?」

「スポーツとかやるの?」

「俺と友達になってよ」


 ……などという質問は全く来ない。

 今の所俺は完全に浮いている。

 席に一人で寂しく座る俺はさぞ儚げだろう。っていうかそんなに話しかけづらいオーラ出してるかな!?

 これでも清潔感には気を使っている方なんだが。


 はぁ……。転校生なんてこんなものか……。

 そういえば転校生で思い出したけど、あいつも転校して行ったんだよなぁ……。



 俺は小学生の頃に転校していった昔隣の家に住んでいた女の子のことを思い出した。思い出したと言っても、忘れようがないんだけどな。


 −−あれは小学校6年生の時だっけ。

 いつものように俺は、その女の子にしばかれていた。

 そう、いつものように。

 買ったばかりの漫画を別の友人に貸す約束をしていたので、その友人のところへ行くために家から出ると、女の子が待ち構えていた。


「ちょっと宏介! その漫画貸しなさいよ!」

「いて! 何も叩くことないだろ。これは他の奴に貸しに行くんだ!」

「うるさい!」


 そう言うと俺から漫画を奪い去り自分の家に帰ってしまった。


 これはあくまで一例であり、その女の素行は傍若無人そのものだった。

 男子からの評判は悪く、女子のリーダー的存在。

 まさに女番長となっていた。

 ある日のこと、その女の子はこれまた親の都合で転校して行ったのである。

 女子たちは悲しんでいたが、正直、男子の間では妙な安心感が生まれていた。

 昔から隣の家でよく絡まれていたので寂しくないと言えば嘘になるが、俺も少し安心していた。

 ま、どこかで元気によろしくやっているだろ。


 −−という思い出がある。他にいくらでも語ることができるエピソードはある。彼女が転校していくまでほぼ毎日顔を合わせていたので俺にとっては忘れたくても忘れられない、そんな強烈な彼女だ。



 そんなことを考えているとあっという間に1時限目がやってきた。

 やばい。このままでは、俺の休み時間の過ごし方が妄想とか睡眠とか、いかにもぼっちのそれになってしまう。


 その後そつなく授業をこなしていくと、昼休みがやってきた。昼食の時間である。

 高校生にとっては一世一代のイベントだ。

 しかも毎日やってくる。

 ここで友達と食べるかぼっちで食べるかで雲泥の差が生まれる。

 もちろん友達のいない俺は、ぼっち飯だ。お母さんお手製の愛情が籠ったお弁当を自分の机で一人寂しく食べるのだ。

 購買でパンの争奪戦? 食堂で皆んなと楽しく食事? 屋上で彼女と一緒にお弁当? いやいや、俺には夢のまた夢ですな。


 早々にお弁当を片付けると、特にすることのない俺は校内散策を始めた。

 美少女に案内をしてもらうという素敵なイベントはないんですかね。


 この高校には大きな図書館があると前評判で聞いていたので、まずはそこに向かうことにした。

 1年生の教室は東校舎の3階と2階にあり、俺の教室は3階だった。図書館は西校舎の1階にあったため少々の移動が必要になる。

 2階に渡り廊下があるため、そこを通ることにした。ガラス張りの渡り廊下は見晴らしが良く近代的だ。

 前の高校よりも建物が新しく綺麗でその点に関しては満足していた。



 東校舎の2階に降り、渡り廊下に行こうとする前にとてつもない美少女とすれ違った。

 そのキューティクル全開の美しい黒髪をなびかせ、すらっとしたスタイルの大和撫子は周りの目を釘付けにしていた。

 俺も目を奪われながらすれ違うと、ほのかに石鹸の香りが漂ってきた。

 完璧な美少女じゃないか!

 俺もあんな美少女と恋をしてみたいものである。


 美少女とすれ違ってから数歩歩くと後ろから突然声をかけられた。


「……すけ?」


 ん。何か聞こえたか?

 俺は後ろを振り向くと、今すれ違ったばかりの美少女の顔が目の前にあった。


「こうすけ?」


 俺に話しかけてきたのは、その美少女であった。

 しかし、なぜこの美少女が俺の名前を知っているのだ。

 俺は美少女に突然話しかけられたことで固まってしまった。

 そして何より、顔が近い。照れるじゃないか。


「やっぱり宏介だよね?」


 その美少女の顔をよく見ると、よく知っているあの女の面影があった。

 そう、その昔俺に傍若無人の限りを尽くし、転校していった幼馴染の『関野里沙』まさしく彼女だった。


 俺の体に雷が落ちたような電撃が走った。この感情は……? 恋……? いや、それは断じてありえない!


続く

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