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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
ワールドワイド・ファイブデイズ編
172/177

168 入国

「当機はこれより着陸態勢に入ります。シートベルトの着用をお願いします。また席を立つのはご遠慮願います」


 ようやくこの時が来たな。

 俺はアナウンス通りシートベルトを締め、着陸に備えた。

 離陸の時よりも圧倒的にふわふわとお尻が浮くのを感じ、下に降りているのを体で感じることができた。

 車輪が地面に着くと、飛行機は機体を揺らしながら徐々にスピードを緩めて行った。


「ん……? すごい揺れだったけど大丈夫か?」


 俺の隣で眠っていた牧が着陸の揺れで目を覚ました。


「着陸の揺れだ。降りる準備をしないと」

「なんだもう着いたのか」


 余裕たっぷりの牧とは反対に、光村はまだ下を向いて震えていた。


「おーい、着いたんだけど」

「え……。あ……あぁ。助かった……」


 助かったも何も、俺たちは危険になんて晒されていないが。


「ふぅ……。安心したらお腹空いてきた」


 光村は清々しい顔でそう言った。


「切り替え早っ!」

「俺たちはもう地上にいる。何も怖がることはない!」


 気持ちは分からないこともないけど、普段味わえない空の旅はとても楽しい。

 いつも空を飛んでいる姿を目で追うだけの飛行機に乗れたと思うと、感慨深い。


 飛行機から降りた俺たちは奥居先生のアテンドのもと、入国審査と荷物の受け取りを済ませた。

 俺はいま、日本ではない別の国にいる。だからといってレベルアップして強くなるわけではないが、違う体で動いているように感じる。


「とうとう台湾にきた」


 俺の隣を歩いていた里沙がそう呟いた。


「少し緊張するな……」

「そう? 日本と違う空気を感じられてとても新鮮な気持ち」


 俺たちは移動のためのバスに向かっていた。空港から台玄市まで距離があるため、乗り物で移動だ。

 バス乗り場は空港の建物の外にあり、ところどころで見かける案内の看板には日本語など書いていない。

 時折聞こえてくる誰かの会話は、おそらく台湾語だろう。さすがのアンジェも聞き取ることができていないようだ。


「えっと……バスはこのあたりのはず……」


 奥居先生は少し焦りながら周りをきょろきょろと見回していた。


「だ……大丈夫か……?」

「奥居先生ってたまに頼りない時あるから……」


 俺たちがひそひそと奥居先生を心配していると背の高いスーツを着たおじさんが声をかけてきた。


「やあやあ! 来たね来たね! 待っていたよ!」


 奥居先生はおじさんを見て、顔が明るくなった。


「こんにちは! よかったー! またバスが見つけらませんでした」

「奥居君はいつもそうだね。いや悪いことじゃなくて、そこがチャーミングなんだよ」


 奥居先生は顔を赤くして恥ずかしがっていた。


「もうやめてくださいよ。えーと……みんなに紹介するね。この方は姉妹校である桃桃(タオタオ)高校の教頭先生です」


 教頭先生でしたか。

 先生は俺たちに一礼すると自己紹介を始めた。


「僕は宮本哲二。もともと嵐ヶ丘高校にいたけど10年前こっちへ赴任してきたんだ」


 宮本先生の声は、綺麗な低音で心を落ち着かせてくれる。


「皆んなに会えるのを楽しみにしていたよ。ささ、バスに乗ろう。この続きは学校で」


 俺たちはバスに乗り込み、桃桃高校へ向かった。

 空港から高校まではバスでおよそ一時間かかる。日本で言う高速道路らしき道をずっと進んだ。

 途中バスの窓から見えた景色は、山や大きな工場らしき建物など、日本と大差ないように感じられた。


 バスの道中、2人シートの隣には山内が座っていた。

 飛行機の中では楽しそうにはしゃいでいた山内も、バスの中では大人しかった。

 というか、少し顔が青ざめているのは気のせいだろうか。


「うぅ……。お腹が痛い……!」


 これはまずい。山内のコンディションが最悪だ。


「トイレ寄ってもらった方がいいんじゃないか?」

「いや……! ここで皆んなに迷惑をかけるわけにはいかない」


 万が一の事態になってしまった方が迷惑だと思う。


「先生! 山内のお腹がピンチです!」

「あ! 鈴木君……!」


 しかたあるまい。これも山内のことを思っての行動だ。

 バスはサービスエリアに入り、山内はトイレへ駆け込んだ。戻ってきた彼の顔は激しい戦場から帰ってきたのかと思うぐらい凛々しかった。


「ふぅ……。鈴木君、ありがとう。君は僕の恩人だ」

「そんな大袈裟な……」


 こうして平和を取り戻したバスは再び桃桃高校へ向かって走り出した。


続く

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