162 ネガイゴト
俺と大本は高校を出た。
そして、駅前のカフェに向かった。道中、会話はそれほどなかったが、大本が牧の隣の家に住んでいること、同じ高校に通うと決めたことなど、いかに幼馴染みとして生きてきたか語ってくれた。
俺もお返しに里沙と幼馴染みであることを少しばかりエピソードを交えて話すと、大本は幼馴染み仲間として嬉しそうにしていた。
駅前のカフェについた俺たちは、飲み物を注文し席に着いた。大本はホットコーヒーを一口啜ると、開口一番に意外なお願いをしてきた。
「鈴木君、達徳と親友になってくれない?」
「え……!?」
「あ……嫌かな……?」
「その……嫌とかじゃなくて、突然すぎてどう答えていいかわからない」
大本は再びホットコーヒーを飲み、そのまま俯いてしまった。気まずい空気が流れる。
「今日の説明会で牧と山内が親しそうにしてたし、別に俺が友達にならなくても良さそうに思えるけど……」
「山内君とは数回話したことがあるだけで、そんなに親しくないの」
「そっか。それにしてもよくそんなことまで把握してるな。そこまで細かく観察してるなんて、ひょっとして大本は牧のことが好きなのか?」
「そ……そんなことないよ」
大本は顔を真っ赤にして否定した。耳まで真っ赤になっている。図星だな。
「確かに牧はイケメンだけど、あそこまでオラついてるとどうかと思う」
「達徳のことを悪く言わないで!」
大本はさっきまでと違い、声を荒げた。俺は戸惑ったが、謝るほかなかった。大本はハッとして逆に謝り返してきた。
「ご……ごめん。つい……。私は達徳のことが好きかどうか分からない。でも、彼にはもっと楽しそうに生きてほしい」
最強を目指すという目標もあって、成績も優秀。他人から見れば楽しそうな人生を送っていると思う。
「ほら、あんなだから友達と呼べる人がいなくて。だから嵐ヶ丘高校の裏番長なら気が合うかなって……」
なるほど。大本なりに牧のことを思って俺に頼んできたというわけか。
しかし、それには大きな語弊があるんだ。
「せっかくの頼みで悪いが、俺は裏番長でも何でもない。それは高校内で一人歩きしている噂話に過ぎない」
「でも、関野さんと付き合ってるならそれ相応の男だと思うよ」
「ああ、残念ながらそれも違う。俺たちは付き合っていない」
「そ……そうなんだ……」
「イメージと違ってすまんな。俺が牧とタイマンしてもすぐにやられる自信がある」
大本は明らかにショックを受けていた。あはは、悲しいかな。そこまで露骨にショックを受けられるとガラスのハートが割れてしまいそうだ。
いっそのこと俺も最強を目指してやろうか。昔の里沙のように傍若無人になってやろうか。
そんなことしても里沙に鼻で笑われるだけだろうから、悲惨なことになる前に思いとどまろう。
「まあ、牧とは一緒に海外研修に行くわけだから、仲良くなりたいという気持ちはある」
「本当!? だったら私からも言っておくからよろしくね!」
果たしてどこまで行けば親友という関係になれるか分からないが、俺は牧と友達になるという新たな目標ができた。
友達というのは狙ってなるものではないと思うが、大本がせっかく頼りにしてくれたのだからガツンと漢らしくいこうじゃないか。
その後少し雑談を交え、俺たちはカフェを出ることにした。
今日の相談のお礼とこれからの期待を込めてということで、会計は大本が全額払ってくれた。たかがコーヒーと侮ることなかれ。高校生にとっては何百円でも命取りになることがある。大本、奢ってくれてありがとう。
外はもう暗い。俺は大本を駅まで送って行くことにした。駅前は人通りがそこそこあって治安も良いが、見送りをするのが定石だろう。
「今日はありがとう。鈴木君も怖い人だったらどうしようかと思って少し緊張しちゃった」
「俺は別に普通の一高校生さ。取り柄も何もない……。だからこの海外研修で自分を少しでも変えられたらと思っている」
大本は緊張が解けたのか、最初より笑うようになっていた。俺も昔は初対面の人に対してガチガチに緊張していたはずなのに、今では普通に接することができるようになっていること実感した。
「よお。お兄ちゃんたちさー、金かしてくんなーい? そこのゲーセンで金使いすぎて、金無くなっちゃたんだよねぇ!」
何でこうなるの!
俺と大本は路地裏から出てきた三人の不良に絡まれた。いまどきゲーセンでお金を使い果たす不良ってどんなだよ。見たところ大学生だし、年下に対してカツアゲって恥ずかしくないのかな。
はぁ……。俺は恐怖ではなく、呆れて何も言えなかった。
「なんだその面は! 俺たちのこと馬鹿にしてんのか!?」
「へっへっへ! そっちの可愛い子貸してくれんなら逃してあげるよ〜」
不良たちが捲し立ててくる。大本は完全に怯えて縮こまっている。こうなったら彼女だけでも逃すとしますか。
「大本、先に帰っててよ。俺がなんとかするから」
「でも……」
「いいから、早く」
大本を離脱させようとすると、不良の一人が彼女の腕を掴んだ。大本が痛みに顔を歪めているのを見て、俺はとっさに不良の腕を払いのけた。考える前に体が動いたというやつだ。
「てめぇ! やんのか!?」
しまった。不良たちを逆なでしてしまったか。
奴らは今にも殴りかかってきそうである。痛いのは嫌だが、大本を救うためには我慢するしかない。
「おい! お前たち! そこで何してる!」
俺たちの後方から声が飛んできた。
誰かと思い振り返ると、そこには牧がいた。
続く




