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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
ワールドワイド・ファイブデイズ編
165/177

161 ワケあり

 牧は次にやって来た山内のことも睨みつけていた。

 怖っ。触れるもの皆傷つけるジャックナイフという言葉がぴったりだ。


「ひぃ! 牧君は会うといつもそうやって僕を睨むんだから」

「ははは! 挨拶代わりみてーなもんだ」


 彼なりのジョークだったみたいだ。それに、山内とは仲が良さげである。どうやら普通に人とコミュニケーションが取れるみたいで安心した。

 まあ、俺の誤解はゆっくり解いていけば良い。間違ってもタイマン勝負なんて受けた日には、吹っ飛ばされて終わりだろう。

 説明会の開始時刻ちょうどに奥居先生が講堂へ入って来た。少し重そうな段ボールを抱えてステージへ続く階段を上がっていく。転んでしまわないか見ていて心配だ。

 最終的に集まった生徒は俺と里沙、牧、山内、アンジェ、それから初めてみる二人の合計七名である。他クラスも混ざっての海外研修となると、新鮮な気分だ。


「はい。じゃあこれから説明会を始めます。あ、牧君! 学校でピアスはダメだよ」


 一瞬、空気が張り詰めた。牧は不服そうな顔をしている。


「これはお洒落でーす。別に迷惑かけてるわけじゃないんだから良いじゃん」

「規則なの。不必要なファッションは時として風紀を乱します。規則を守れない生徒は海外研修のメンバーから外れてもらうから」


 奥居先生からの厳しいお叱りの言葉。普段の彼女からは想像ができないほど、目が真剣だ。こんな一面もあるんだな。

 牧は「ちっ……」と舌打ちだけしてピアスを外した。彼にとっても海外研修に行けなくなるのは駄目らしい。


「というわけで、みんなも気をつけてね。海外研修は学校の代表として行くんだから、それなりの覚悟と責任を持ちましょう」


 分かりました。いつもと違う雰囲気の奥居先生が格好よく見える。小動物系のか弱い先生かと思っていたが、そうではないらしい。

 これがギャップ萌えというやつか、いや違うか。


「じゃあ本題に入る前に一人ずつ自己紹介しましょう。座ったままでいいからね」


 げっ。何も考えてないぞ。この人数ではすぐに順番が来てしまう。

 自己紹介は里沙から席順にということで、俺はめでたく二番目だ。


「関野里沙です。よろしくお願いします」


 里沙はとても簡潔な自己紹介をした。特に意気込みとか一言はなかった。

 なんだ。そんな簡単な自己紹介で良いのか。

 俺は里沙に続いて名前を言うだけにしておいた。助かったぜ。里沙に救われた。

 こうしてすぐに全員の自己紹介が終わった。

 牧の他に今日初めて見た生徒の名は、大本(おおもと)あゆみ、光村陸(みつむらりく)という名前だった。

 その後は順調に説明会が進んだ。台湾研修は合計五日間で、主に台玄市という首都を中心に活動を行うということだ。

 息抜きの観光もところどころに散りばめられている。ハードスケジュールではあるが、楽しそうな研修になりそうだ。

 一通り説明が終わった後は目標を書いたプリントを提出し、その代わりに研修についての冊子をもらった。

 そして、説明会が終わったのは17時過ぎのことだった。今からSF研究部に行っても仕方ないので、俺は家へ帰ることにした。


「鈴木。この後時間あるだろ?」


 無事帰れるわけなかった。牧は俺の前に立ちはだかり、帰宅を阻止してきた。沙は俺に手を振って講堂を出て行ってしまったし、逃げ道はなさそうだ。


「時間はあるけど……」

「ふん。さあ、俺とサシで勝負だ」

「ちょっ……いきなり話が飛躍しすぎだって。俺は学校を牛耳ってなんかいないし、最強でもない」

「あぁ!? ごちゃごちゃ言ってないで表でろよ」


 初対面の人にこんなに絡まれる俺ってある意味才能あるのかな。ああ、早く帰りたい。


「ちょっと! 何やってるの!?」


 俺と牧の間に突然大本が割り込んできた。


「ちっ。真面目な委員長の登場かよ」

「ごめんね、鈴木君」

「あゆみには関係ないんだけど」

「関係あります。この前もう暴力的なことはしないって約束したでしょ!?」

「そんな約束してねーよ。てかお前は俺の母親か!?」

「私は達徳の幼馴染み。あなたが暴走しないように見張る義務があるの」

「そんなの勝手なお世話だろーが。とにかく、俺とお前は関係ない」

「何よ、昔は何かあるごとに泣きべそかきながら私のとこに来たくせに」

「おい! 余計なこと言うな!」


 俺は二人の勢いあるやり取りに面食らっていた。夫婦漫才を見ている気分だ。

 それに、牧にも触れられたくない過去があるらしい。まるで、俺のよく知っている元不良のようだ。牧の場合は逆パターンだけど。

 さて、この勢いに任せてオレはおいとまさせていただこう。


「あの、鈴木君」

「ん、何か?」

「この後時間あるかな?」


 結局帰れないじゃん!

 そう来たか。まさか大本もそう来るとは。


「あるけど……。どうして?」

「ちょっと話したいことがあって」


 大本は神妙な面持ちでそう言った。


「はぁー、冷めた。俺は帰る」


 そんなのありですか。

 けっこう気分屋というか、わがままな野郎だぜ。


「おい鈴木、あゆみに手をだしたらぶっ潰す」

「え……? 二人はそういう関係?」

「ちげーよ。そんなんじゃないけど、とにかくぶっ潰す」


 牧はそう言うと、講堂から出て行ってしまった。

 ずいぶんと破天荒そうな男だ。それに、去って行く牧を寂しそうに見つめる大本の表情。これは何か分けありに違いない。


続く

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