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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
ワールドワイド・ファイブデイズ編
163/177

159 先生は国際派

誤字報告してくださった方、ありがとうございました。

個別にお礼ができなかったので、この場でお礼申し上げます。

 職員室へ到着すると、奥居先生はデスクに座っていた。

 書類とにらめっこしているところ申し訳ないが、話し掛けよう。


「奥居先生。ちょっと聞きたいことがあります」

「お疲れ様、鈴木君。何かな?」

「あの、海外研修ってあるんですか?」

「そうだね。でも、鈴木君は行かないんでしょ? 申込用紙貰ってないもんね」

「それが、海外研修について全く話を聞いてないんです」

「え……?」

「その日、ちょうど風邪で休んでた思います」


 奥居先生は固まった。彼女だけ時間が停止したかのような固まりっぷりだ。

 俺が声をかけると、はっとして慌ただしく出席簿と手帳を取り出し、照合を始めた。


「鈴木君、ごめんなさい……。忘れてました」

「今からでも参加できますか?」

「もちろん。私がなんとかねじ込むから大丈夫」


 助かった。何はともあれ参加できそうで良かった。

 とりあえずほっとした安心感で心は満たされたが、その後すぐに未知の世界への期待と不安が押し寄せて来た。


「ところで、どこの国へ研修に行くんですか?」

「行くのは台湾。姉妹高校があるから国際交流もできるんだよ」


 俺の初海外はお隣さんになるのか。

 飛行機に乗って海の向こうに行くなんて、考えるだけでワクワクする。

 船で世界を航海して回るのも良さそうだが、やっぱり現代は飛行機でひとっ飛びだ。


「鈴木君ってパスポート持ってる?」

「持ってないです」

「申請は時間かかるから、明日休んで親御さんと一緒に申請行ってきてね。出席扱いにしておくから」


 俺は急いで母さんに電話した。

 明日は暇なようで、申請に行けるとのこと。いよいよ俺もパスポートデビューか。


「国際交流って、英語話せませんけど大丈夫なんですか?」

「うん。現地通訳の人つけるから台湾語でも英語でも、何でもばっちり。それに……」


 奥居先生は、話を途中で止めて視線を俺から逸らした。

 その視線は職員室の入り口に向けられていた。どうやら誰か来たみたいだ。

 俺もつられて振り返ると、アンジェが職員室に入ってきたところだった。

 そして、俺と奥居先生のもとまでやって来た。

 アンジェは冬休みの間、アメリカに帰国していた。

 今日は欠席だと思っていたが、放課後に現れるなんていったいどうしたのだろうか。


「遅れてしまいマシタ。宏介もお久しぶりです」

「今日戻って来れたんだね」

「ハイ。飛行機の遅れも予定より短くなったので大丈夫でした」

「今日は始業式だけだから来なくても良かったんだよ。せっかく来てくれたから、進路調査渡しておくね。提出期限は今週の金曜日」

「シンロチョーサ?」


 アンジェは、頭上にはてなマークをたくさん浮かべていた。

 まだ分からない日本語もあるらしい。


「あ、ごめんね。えーと、This is a handout for career. Fill in a form with your path after you graduate from high school」

「分かりました。説明アリガトウゴザイマス」


 自然な会話の流れに違和感を感じなかったが、奥居先生が突然英語を喋り出したことに俺は驚きを隠せなかった。


「えええ!? 英語喋れるんですか!?」

「長いこと留学してたことあったからね。拙いながらも喋れます」

「俺にはかなり流暢に聞こえましたけど。よくそれで現代文の先生になりましたね」

「私は文学が好きなんです。でも、英語を話せるおかげでアンジェに会えたから良かった」


 一年生の担任で、英語を話せるのが奥居先生しかいなかったらしい。それでアンジェの担任として筆頭候補に上がり今に至るとか。

 ここにきて急に国際的な風が吹き始めた。俺もこの風に乗っかっていこう。


「宏介は海外研修に行くの?」

「ちょうど今その話をしてたところ」

「私も行くからよろしくネ」


 アンジェは高校からの推薦枠で行くことが決まったらしい。

 アメリカから日本に移り住んで台湾へ研修に行くとは、超国際派で俺には眩しすぎる存在だ。


「鈴木君、今週の金曜日の放課後に説明会を行うから参加してください。あと、私が研修のインストラクターなので聞きたいことがあれば何でも聞いてね」


 なるほど。奥居先生のポテンシャルは底が見えない。

 おっちょこちょいかと思ったが、英語が話せるというだけでさっきより数倍頼りに見える。


「じゃあこれを渡すから説明会で提出してください」


 奥居先生からまた、プリントを渡された。

 海外研修での目標と書かれたその紙が重くのしかかってきた気分だ。


「目標って……」

「海外研修へ行って何をしたいのか、何を学びたいかということを書いてもらいます」



 そりゃそうだよな。遊びで行くわけじゃないんだから課題ぐらいあるよな。

 進路調査も金曜日が提出期限だから明日はパスポートの申請と、頭をフル回転させるのに一日かかりそうだ。

 高校の数少ない枠で行くんだから、それなりの覚悟を持てということだろう。


「でも、何をするか分からないから目標が立てれません」

「あ、ごめん。えーとこのプリントも渡しておかなきゃ」


 最後に手渡されたプリントには海外研修の目的が書かれていた。「海外の文化に触れ、交流し、視野を広げる原体験とする」という何やら難しい言葉が使われていた。


「原体験って何ですか?」

「自分で調べましょう。すでに海外研修は始まっているのです」


 奥居先生はドヤ顔でそう答えた。

 どうやら俺は試されているらしい。いろいろ調べてそこから目標を立てろということですね、先生。


続く

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