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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
淡雪ウインターバケーション編
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156 不思議な誘い

「そろそろお参りに行こう」


 俺は皆んなにお参りを提案した。


「詣でる? 詣でちゃう?」

「ああ、詣でる」

「さあ、ここからは神の御前よ。心清らかに行こうぞ」

「急にどうした?」

「ししし、神社っぽい感じで言ってみた」


 里沙と亜子は、由香の不慣れな言葉遣いにクスクスと笑った。俺もつられて笑った。

 それが果たして神社っぽいかどうかの判断は神様に任せるとして、俺たちは歩き始めた。

 地面に敷き詰められた石の音がじゃりじゃりと風情を煽る。

 人混みを抜けると、石造りの階段が現れた。頂上には鳥居が見える。ここを上がれば拝殿があるのだろう。

 俺たちは階段を上がり始めた。

 そして、中盤に差し掛かったところで亜子が騒ぎ始めた。


「あ! 今ツキミみたいな黒猫がいた」

「ん……? どこだ?」


 亜子が指差す方を見たが、猫など決していなかった。

 きっと何かの見間違いだろう。


「本当にいたのに」

「野良猫ぐらい、いてもおかしくないさ」

「あの猫、絶対にツキミだった」


 あれか、ツキミもこそっと家を抜け出して俺たちに着いてきたって言うのか。

 いくらなんでもそんなわけないよな。


「私も見たよ。あれは黒猫で間違いないと思う」

「やっぱり! 見間違いじゃないよね」


 どうやら由香も見たようだ。

 おおよそ、この神社に住み着いた野良猫といったところかな。

 神様が猫に姿を代えて、人間を見守っていると考えれば素敵な神社だ。

 俺たちが階段を上り切ると、そこには鳥居と狛犬ならぬ狛猫があった。


「きっと駒猫が化けて出たんだ」

「ホラーみたいなこというの辞めてよ」


 里沙がそう言うと、狛猫がウインクしたような気がした。


「あ、今ウインクしなかったか?」

「え!? 狛猫が? こんな冬に寒くなる要素は求めてないわ」


 里沙は狛猫と距離を取った。

 狛猫は凛々しい顔つきで、この神社を守っているようだ。

 じっと瞳を見つると、今にも動き出して何かを語り出しそうな感じがした。

 リアルに作り込んである。何もここまでリアル志向じゃなくてもいいのに。

 狛猫との睨めっこを堪能した後は鳥居をくぐって、拝殿へ向かった。

 賽銭箱の前は人でごった返していて、なかなか辿り着けそうにない。

 本坪鈴でガラガラと鈴を鳴らしたいが、あそこは争奪戦になっている。

 しょうがない、今回は諦めますか。


「鈴鳴らしたい。鈴鳴らしに行こうよ」


 俺が諦めた矢先、亜子がそう口走った。

 やっぱり言うと思った。さすが兄妹の血は争えない。

 それから由香も「私も鳴らす」と息巻いて亜子に続いて行った。


「迷子になるなよ」

「なるわけないよ! お兄ちゃん、私はもう子どもじゃないってば」


 怒られてしまった。

 妹のことが心配じゃない兄貴なんてこの世のどこを探してもいないはずだ。

 そして、これがフラグじゃないことを願おう。

 うちのわがまま姫たちにはいつも振り回されてばかりだ。

 二人が人波に紛れていくのを見送った後、残った里沙をちらりと見た。


「どうしたの?」

「里沙は行かないのか?」

「私はいい。あの二人はまだまだお子様ね」

「まあ自由奔放で元気があってなによりだ」

「亜子と由香って似てる気がする」

「似てると言うか、亜子は由香の影響をもろに受けているのは確かだ」

「ふふ。将来有望ね」


 お参りを済ました後は、拝殿から少し離れて休憩をした。

 無事目的を果たした俺たちはこの後どうしようか作戦会議を始めようとしていた。

 すると、俺は黒猫がおみくじ売り場の屋根に乗っかっているのを見た。


「あ! あそこ!」


 俺が指差した時、すでに猫はいなかった。見間違いだったのだろうか。


「何もいないよ」

「確かに猫が痛んだが……」

「ほら! お兄ちゃんもやっぱり見たんでしょ」

「ああ。すぐにどっか行ったけど」


 俺がキョロキョロと辺りを見回していると、次は里沙が反応した。


「きゃっ! 今、私の足元をすり抜けていったわ」


 どういうことだ。

 それが本当ならここにいる全員が今、猫の姿を捉えていてもおかしくはない。

 それなのに、里沙以外は猫を見ていないようだ。


「あっちの方に行ったと思う」


 里沙は、おみくじ売り場の奥、木々が茂って林になっている場所を指した。

 少し薄暗くて入るのが憚られる雰囲気だが、道はある。進んでいっても問題はないはずだ。


「行ってみるか」

「え……。行くの?」


 里沙は超絶嫌そうな顔をした。

 亜子と由香は「私も行く」と目を輝かせていた。


「里沙姉も行こう。いざとなればお兄ちゃんがいるから大丈夫」

「頼りない……」


 頼りなくて悪かったな。

 亜子と由香は笑ってるし、これを機に女子が皆頼ってくるような筋肉野郎を目指して筋トレを始めてやろうか。

 俺たち三人が足を進めると、里沙も渋々歩き始めた。

 木々の間に整備された道に入る時、少しだけ風が吹き抜けた気がした。

 さっきまであれだけ人がいたのに俺たち以外誰も歩いていない。


「急に静かになっちゃった」


 亜子がぽつりと呟いた。

 もしかして、何かの罠に嵌められて、異世界へ続く道を歩いているとか。


「ひょっとして立ち入り禁止だったかな」

「そんなことどこにも書いてなかったから大丈夫でしょ」


 由香は微塵も引き返す気がないようだ。

 彼女の足取りの軽やかなこと。里沙とは対照的である。

 まっすぐ続く道の先には陽の光が見えるから、また開けた場所に出ることは確かだ。

 これで何もないというのだけは勘弁してほしい。


続く

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