15 限定特典を手に入れろ
燦々と輝く太陽の下、俺は更に熱気に包まれた町へ来ていた。
そう、オタクの聖地である大木という町だ。
今日から学校も午前授業となり、昼飯を学校の近くで、しかも佐々木部長の奢りで済ますと、約束の通り遊びに来た。
長谷駅から地下鉄に乗ること数分、そこに聖地は存在する。
「ようこそ我らが聖地へ!」
部長がドヤ顔でそう言い放つ。
なんだここは。
一言で言うのならば、アーケード商店街か。商店街といえば、服とか食品の店とか生活に必要なものが売っているはずだが、ここは一味違う。
本屋、ゲーム屋、楽器屋、よく分からないアニメショップ等々、コアな店がたくさん並んでいる。
もちろん服屋とか靴屋もあるが、その中に平然とオタク向けの店も並んでいる。
「お……おお。すごいですね。いろんな意味で」
歩いている人もアニメのプリントTシャツを着た人やロリータ系のファッションの人、中にはコスプレをしている人もいた。
平日だというのに溢れんばかりの活気だな。
別に俺は、こういうのを毛嫌いしているわけではないが、間近で見ると少したじろいでしまう。
なんというか、俺とは住む世界が違うのだな。
部長に連れられ、少し歩くと美味しそうな匂いが漂ってきた。
「ん? 香ばしくて美味しそうな匂いがしますね」
「ああ。唐揚げ屋だ」
「唐揚げ屋!?」
「そうだ。そこの唐揚げ屋は人気のある専門店だ。食べるか?」
「そうですね。せっかくなので食べてみましょう」
お昼ご飯を食べ、そこそこお腹もいっぱいだったはずが、匂いにそそられて唐揚げを食べたくなってしまった。
それほどいい匂いがした。うん。きっと美味しいぞ。
唐揚げを購入すると店の前で立ち食いをした。
俺たちの周りにも食べている人がちらほらいて、中には外国人の姿もあった。
ほお。そんなに有名な店なのか。
ごくり。思わず食べる前から唾液が分泌されるほどだ。
思いっきりかぶりついてやろう。
サクッ。ジュワァ。ホフホフ。唐揚げの3拍子が揃っている。
当店自慢のにんにく醤油が効いた絶品の唐揚げだった。
「美味しいですね!」
「ここの唐揚げは間違いないな」
人気の理由が分かったな。美味しいし、癖になる味だ。
今度は是非お腹を空かせて来てみたい。
唐揚げを美味しくいただいた後は、部長お待ちかねのアニメショップ『アニメッカ』へと足を運んだ。
部長は入るや否や、積み上げられた漫画の本に飛びついた。
「おほー! これこれ!」
「楽しそうですね……。」
「楽しいを通り越して幸せだぞ〜。これが欲しかったんだ!」
部長は『ウィッチズ・ジャッジメント』なる漫画を手に取っていた。
「それってさっき通りかかった本屋の店頭にも並んでませんでした?」
「ノンノン。ここで買うことに意味があるんだ。ほら、そこを見てくれ」
部長はその本が積み上げられた台のすぐ隣に設置されたキャラクターの等身大パネルを指差した。
そしてキャラクターの絵に被さる形でこう書かれていた。
『ウィッチズ・ジャッジメント3巻お買い上げありがとルン⭐︎ アニメッカ限定特典もあるルン⭐︎』
そういうことね。ここで買わないともらえないものがあるのか。
それにしても、ルンてなんだ!?
「どうだ? 鈴木も読んでみるか? なんなら俺が1巻から貸してやるぞ!」
部長が迫る。
「い……いえ! 自分で買います!」
なぜか俺は、ウィッチズ・ジャッジメントの1〜3巻までを手に取っていた。
そして、ありのまま今起こったことを話すと、謎の不可抗力でレジに並びいつの間にか購入していた。
超能力とかそう言った問題じゃない。もっと不思議な何かだ。
部長にはめられた気がするのは俺だけだろうか……。
もちろん、アニメッカおまけ特典は俺にも付いてくる。
1巻の表紙に載っている、主人公らしき魔法使いの女の子が描かれた缶バッジを貰えた。
「なるほど。ベタだな。ま、初心者にはいいかもしれん」
部長は俺の缶バッジを見るとそう感想をつぶやいた。初心者てどういうことですか?
「ちなみに俺はこの魔法少女だったぞ!」
部長の貰った缶バッジには、3巻の表紙に載った女の子が描かれていた。
「こいつは俺のお気に入りキャラでな。感無量だ。鈴木と来て良かったぞ」
なぜか感謝を受けてしまった。どういたしまして。
アニメッカを出るとゲーム屋へ向かった。
ゲームぐらいだったら俺でも知っているぞ。男の子であれば流行りのゲームぐらいやっていたはずだ。
店に入ると狭い店内にゲームが所狭しと並べられていた。
「うお! 思ったより狭いですね。ってかすごい量ですね」
「ここに来れば、古きから新しきまで何でも揃っている」
店内を見渡すと、俺が生まれる前からある古いゲームや最新のゲームまで全て揃っているようだった。
中には、鍵付きの棚に入った貴重そうなゲームまである。
「今度部活でやるゲームを発掘しようじゃないか。これだ! と思ったゲームをお互い探そう」
「了解です。俺のセンスに任せてください」
俺と部長は店内で散り散りになり、お互いの好きなゲームを探し買うことになった。
棚に入ったゲームを見ると俺は驚愕した。
い……1万円!? 結構古いゲームなのにそんなにするのか。
どんなゲームか気になるが、さすがに買えないな。
気を改め、子供の頃によくやっていたゲーム機のソフトから面白そうなのを探すことにした。
そのゲーム機なら部室にもあるしな。
ゲームを眺めていると懐かしいソフトが目に入ってきた。
『ゾルダの伝説』
あー、親に買ってもらってよくやってたな。
ん? こっちはやったことがないな。
『ゾルダの伝説2』
シリーズ物だ。謎解き要素のつまったこのゲームなら部長と一緒にワーワー楽しくできそうだな。
これにするか……。
しかし、それはゲームを選ぶ以上に重要な選択となった。
ギュッ
「ん?」
ゲームを手に取ったはずなのに、誰かの手を掴んでいた。
いつかもこんなような展開があったな……。
「きゃっ!」
「わ! ごめんなさい!」
手を離し、横を見るとそこにいたのは、女の子だった。
それも普通ではない。変な格好をしていた。しかし、その格好に既視感を覚えた。
さっきの缶バッジに描かれていたウィッチズ・ジャッジメントの主人公だ。
いわゆるコスプレだが、こんなに間近で見たのは初めてだ。
ピンク色の髪をしているが、カツラだよな?
「あ、俺は買わなくても大丈夫なんでよかったら」
「い、いえ! 私も大丈夫です!」
そう言うと、その魔法少女は慌ただしくその場を去ってしまった。
今の魔法少女は一体何だったのだろうか。
何にせよその非日常的な触れ合いに少し心が躍った。
続く




