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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
淡雪ウインターバケーション編
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152 大晦日の一ページ

 大晦日がやって来た。

 とうとう今年が終わる。

 この一年間を振り返ってみると激動の一年だった。

 ツキミのこともあり、今年の大晦日は非日常感が増していた。

 年が明けるから特別何かが起きるなんてわけもないが、なぜかそわそわしてしまう。


「お兄ちゃん! 誰かから連絡あった?」


 亜子はツキミの飼い主から連絡が来ていないか相当気になるようで、数時間に一回のペースで俺のところへ聞きに来る。


「あのな……。ツキミが来てまだ数日、そんなに早く連絡は来ないだろ」

「だってー! 気になるじゃん」


 亜子は落ち着きのない様子だった。


「ひょっとして飼い主見つかって欲しくないんじゃないか?」

「え、う……ううん。そんなことないよ」


 亜子は目を泳がせながらそう答えた。

 どうやら図星のようだ。


「俺はツキミにずっといて欲しいけどな」

「本当に!? そうだよね。お兄ちゃんもそう思うよね」

「ほら、やっぱり飼い主見つかって欲しくないじゃん」

「あ、お兄ちゃんのいじわる!」

「ははは、俺もその気持ちは嘘じゃないから」


 亜子は嬉しそうに、軽やかにベッドへ腰を下ろした。

 そして、足をパタパタさせながら俺に問いかけて来た。


「ツキミってすごく可愛いよねー」

「おう。嫌なことが全てすっ飛ぶくらい可愛い」

「じゃあさ、私とどっちが可愛い?」

「え? 何って?」

「だから、私とツキミどっちが可愛いかって聞いてるの!」


 突然なんだその質問は。

 動物的可愛さと、妹的可愛さではベクトルが全く違う。


「どっちも可愛いよ」

「どっちかはっきりさせてよ。曖昧な男は嫌われるよ〜」


 どう答えるのが正解か分からない。

 悪いがここは逃げるが勝ちだ。


「どっちがなんて優劣をつけたくない。ところで、宿題は片付いたのか?」

「あ! そうやって曖昧にしようとする!」


 亜子は頬を膨らまし不服そうな顔をした。

 その時、救いの手を差し伸べるかのように里沙から電話があった。

 俺は急いでスマートフォンを手に取り、電話に出た。


「もしもし」

「もしもし、宏介? 張り紙を見たのだけど」

「え!? もしかして猫の飼い主って里沙!?」

「残念だけど違うわ。飼い主は見つかった?」

「そうか……。まだ見つかっていないな」

「そう。じゃあ私や家族の知り合いにも聞いてみる」

「それは助かる」

「それで、本題なんだけど……」


 まだ本題に入っていなかったのか。

 俺は里沙からどんな用件が飛び出すか、ドキドキして待ち構えた。


「さっき由香から電話があって、明日初詣に行くから宏介と亜子も集合だって」

「年明けっぽいな。どこに行くんだ?」

「風来神宮って聞いたわ」

「名前は聞いたことある」

「私も初めてよ。駅からバスで15分ぐらいで着くみたい」

「そんな近かったのか」

「午前十一時に駅のバス停集合よ」

「了解。亜子に伝えておく」


 俺は電話を切ると、亜子に初詣へ行くことを伝えた。


「初詣行くの!? しかも里沙姉と由香姉と!?」

「明日な。予定は大丈夫か?」

「うん! あの二人と行くなら私はインフルエンザになっても行く!」

「いや、そこは休んどけよ」


 亜子は鼻歌を歌いながら俺の部屋から出て行った。

 そして、彼女と入れ替わるようにツキミが俺の部屋に入ってきた。

 ツキミは、椅子に座る俺の膝の上に座ってきた。

 猫の重さと温かさが伝わってくる。


「みゃーお」


 ああ、そんな瞳で見つめないでくれ。

 ツキミの無邪気な瞳に吸い込まれてしまいそうだ。


「ツキミは何を考えているんだろうな」


 そう言って撫でてやったが、答えなど返って来るはずがない。

 ツキミはしばらく俺の膝から退くことはなかった。

 むしろ構ってくれと言わんばかりのスリスリ具合だ。


「何ニヤついてるの?」


 不意打ち。

 全身に電撃が走るぐらい驚いた俺は、首が吹っ飛びそうな勢いで顔を上げた。

 声の主は里沙だった。その後ろには亜子もいた。


「び……びっくりした……」


 ツキミも驚いて俺の膝からスルスルと降りていった。

 それから部屋の隅へ行き、里沙のことを見つめていた。


「ノックしたけどお兄ちゃんが返事してくれなかったから勝手に開けちゃったよ」


 全然気づかなかった。

 それだけ俺はツキミに夢中だったということか。


「亜子に誘われて猫を見に来たの」


 里沙はツキミの所まで歩み寄りしゃがんだ。

 そして、ツキミを撫でた。

 ゴロゴロと音をたてながら、気持ちよさそうに撫でられるがままだ。


「可愛い。絵に描いたような黒猫」

「でしょ? ツキミっていうの!」

「こんなところに迷い込むなんて不思議ね」


 亜子も里沙と一緒にしゃがんで、ツキミのことを見つめた。

 猫はいいよな。愛されキャラで、その上自由気ままに生きられて。

 ツキミは二人の間を抜け、再び俺の膝上へやって来た。


「宏介のところがいいの?」

「みゃー」


 ツキミは里沙の問いかけに反応した。


「なんかお兄ちゃんに懐いてばっかりなんだよね」

「ふふ。嫉妬してるの?」

「してないもーん」


 亜子はそっぽを向いた。

 里沙はくすくすと笑っていた。

 その後二人は、俺の膝上からツキミを抱き上げたり、一緒に写真を撮ったりと一しきり楽しんだ。


「里沙姉、プリンあるけど食べる?」

「え、食べる!」


 そういえば昨日、亜子が買って来てたな。

 俺はまだ食べてないけど。


「それじゃあお邪魔したわね。また明日」


 二人は部屋から出て行った。

 突然現れてすぐに去っていくのは、まるで季節外れのゲリラ豪雨みたいだ。

 ツキミは二人について出て行ったのか、いつの間にか部屋からいなくなっていた。


続く

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