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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
淡雪ウインターバケーション編
156/177

151 新たなる家族の一員

 親父は猫を見つめながら黙ったままだった。

 依然、険しい顔つきである。


「みゃ〜」


 猫の可愛い鳴き声が気まずい空気を和ませるように響いた。

 俺はその瞬間に親父の口元が緩んだのを見逃さなかった。


「親父、今笑わなかった?」

「む……! 笑ってない」

「嘘だ。猫の鳴き声に癒されたんじゃない?」

「気のせいだ」


 俺と親父が押し問答していると、母さんがその様子に耐えきれずにクスクスと笑い始めた。


「お父さん、本当は猫好きなんだから素直になったらどうなの?」

「お……おい! それを言うなよ」


 なんだ。やっぱり笑ってたんじゃないか。

 猫好きならば、なぜこんなに飼うこと拒否るのだろうか。


「猫好きなら飼ってもいいのに……。けち」


 亜子は頬を膨らませながら机にうなだれた。


「おほん! それなら飼い主が見つかるまでの期間限定だったらいいだろう」

「やった! ……え? 飼い主が見つかるまで?」

「そうだ。この毛並みの良さはどう見たって飼い猫だ」


 なるほど。確かにそう言われれば綺麗な毛並みだ。


「そっか……。そうだよね……。見つかるといいね、飼い主!」


 亜子は椅子から勢い良く椅子から立ち上がり、ずしずしと歩き始めた。

 俺は亜子にどこへ行くのか問いかけた。


「今からこの子の張り紙作る!」

「張り紙……?」

「うん! 飼い主探しの紙」

「そういうことか」


 こうして、飼い主が見つかるまでの間限定だが、猫の世話をすることが決まった。


「あ、写真は私が取るから紙のデザインはお兄ちゃんが作ってね」

「俺かよ!」

「だって私パソコン持ってないし」


 やれやれ、世話の焼ける妹だ。

 ま、それぐらいのことは任しておいてくれ。


「じゃあ俺と母さんで買い出しへ行ってくるか……」

「そうね、餌とか買いにいきましょう」


 親父と母さんはペットショップへ行くようだ。

 つい先程まで反対していたとは思えない行動力だ。


「実はお父さん、猫を飼ってたことがあるの」

「え! そうなの!?」


 亜子は驚き、親父を無言で見つめた。

 しかし、親父は何も言わなかった。

 代わりに母さんが口を開く。


「だから余計に大変さも知ってるのよ」


 なるほど。あれだけ反対したのには理由があったのか。

 親父はそのまま何も言わず、リビングから出て行った。

 買い物は二人に任せておけば心強い。


「みゃーお」


 猫は俺たちの家族会議など全く意に介していない様子で、ソファの上で丸くなっていた。

 その後、亜子がスマートフォンで撮った写真を俺のパソコンへ取り込み、張り紙を作った。

 問い合わせ先はどうしようか。電話番号書いてイタズラされても嫌だからな。

 フリーメールアドレスを取得し、それを問い合わせ先として張り紙に載せた。

 そして、デザインが出来上がるとプリンターで何枚か印刷をした。


「さっすがお兄ちゃん! もう出来ちゃった」

「俺にかかれば朝飯前だ」


 俺の部屋で張り紙の出来上がり具合を確認していると、扉の方からカリカリと音が聞こえた。

 何だろうかと気になって扉を開けると、そこには猫がいた。


「入りたいのか?」

「みゃー」


 俺の問いかけに返事するかのように猫は鳴いた。

 しかし、猫は部屋に入らず、その場を去った。


「何がしたかったんだあの猫?」

「さあ。私たちの様子確認かな」


 まさか俺の部屋に入るのが嫌になったのではないだろうな。

 そんな悲しいことあってはならない。

 俺がネガティブな思考を巡らせていると、亜子は「あっ」という顔をして、話し始めた。


「お兄ちゃん、あの子のこと何て呼んだ?」

「え、普通に猫って言ったけど……?」

「それ! あの子に名前つけてあげなきゃ!」

「あ! でも飼い猫だったら名前は既についてるはず」

「そんなの分かるわけないじゃん。鈴木家での呼び名を決めるの!」


 確かにあの子とか猫とか余所余所しい呼び方では、いつまでたっても仲良くなれそうにない。

 短い間だけど、俺たちの家族になるなら亜子の言う通り名前をつけてあげなければ。


「そうだな……。黒猫だからクロなんてどうだ?」

「ベタすぎるから却下します」

「じゃあニャン吉なんてどうだ?」

「お兄ちゃんには名前をつけるセンスがないの?」


 残念だが俺は名付け親になれそうにない。


「パッチリとしたあの黄色い目は月を見てるみたいだから、ツキミっていう名前はどうかな?」

「ツキミか……。しっくりきた」

「でしょ? ほら、私の方が圧倒的にネーミングセンスあるんだから」


 亜子はドヤ顔で満足げにそう言った。


「そうと決まれば、ツキミと遊んでくる!」


 亜子は部屋を飛び出すと、「ツキミー!」と家中に声を響かせた。

 張り紙はどうするんだよ。



 親父たちが帰ってくると、昼食の時間になった。

 ツキミも俺たちと一緒にリビングで昼食を食べている。

 金色に輝く缶からペットフード用の皿に移された肉らしき餌であるが、ひょっとして俺たちより良いものを食べてるんじゃないだろうか。

 昼食を食べ終わった後、親父は踏むべき手段を取り、マンションの掲示板、町内の掲示板と飼い主探しの紙を貼りに行った。

 飼い主が見つかると良いが、正直、このまま俺たちの家族の一員になるというのも悪くない。むしろ歓迎だ。

 さっきまで俺が座っていた椅子の上で丸くなっているツキミを見つめながら、俺は話した。


「ツキミの飼い主はどこにいるんだろうな」

「にゃあー」


 そんな俺の気も知らず、ツキミは可愛らしく鳴くだけだった。

 全く、可愛いやつだ。


続く

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