147 オンリィ・サデンリィ・ショッピング
冬の星座について、話が終わると星々が次々に映し出されていく。
それはいつしか、満面の星空となって俺たちの頭上に現れた。
まるで本当にこの目で、生の星空を見ているようだ。
都会の明かりさえなければ、こんなにも綺麗な星空を見ることができるのか。
俺は見たこともない太古の光に想いを馳せた。
こうして初プラネタリウムは満足に終わった。
場内が明るくなり、椅子から立ち上がると伸びをした。
「綺麗だった」
里沙がまだ夢見心地な様子で呟いた。
彼女もきっと星に魅せられたのだろう。
「いつかこの目で星空の絶景を見てみたいな」
「そうね。そうだ、来年の研究は星についてなんてどう?」
「あー。いいかも。てかさ、来年も二人でやるのか?」
「え!? た、確かにそう言われてみれば……」
「俺はまた二人で研究してもいいけどな」
「ふふ、来年はレベルアップよ」
里沙は意気込んだ。
これは来年も色々とありそうだ。
「さあ、次はどこへ私をエスコートしてくれるの?」
「ちょっと買い物に行くぞ」
「買い物……?」
というわけで俺と里沙はプラネタリウムの最寄駅である伏部駅のもう一つ先、坂目駅へ電車で向かった。
そこから少し歩いたところにアパレル屋や雑貨屋などが揃った大きいビルがある。
休日ということもあり、人がごった返していた。
「すごい人……。何か買うつもり?」
「まあな。でも、俺自身のものは買わない」
「何よそれ」
「今日は里沙にクリスマスプレゼントを買おうと思ってる」
里沙は意表をつかれたのか、驚いた顔をした。
「私に!? 嬉しいけど、何か企んでる?」
「そんなわけないだろ。ほら、俺は里沙のことを幼馴染でかけがえのない友達だと思っている。そんな友達にプレゼントの一つや二つしたくなる時だってある」
「何よそれ」
さっきと同じセリフ。
しかし、今回はアクション付きだ。
里沙は俺の横腹を肘で軽く突いてきた。
「だったら私も今、宏介にプレゼントを買うわ。ほら、前に言ったでしょ。二人でクリスマスプレゼントの交換会をするって」
「そういえばそうだった」
「ね。そうと決まれば色々なお店を回るの」
「あ、お手頃なやつで頼む」
「そっちこそ」
里沙の声色はいつになく上機嫌に聞こえた。
加えて足取りも軽やかだった。
俺を置き去りにするかのような勢いで次々とお店を回る。
服、靴、雑貨、本等々。里沙の勢いはとどまることを知らない。
そうして、里沙のお目にかかったお店はアクセサリー屋だった。
「このピアスが大人っぽくていいわ。あ、こっちのは可愛い」
「ピアス!? 里沙って耳に穴開けてるのか!?」
里沙は不敵な笑みを浮かべながら髪を上げ、耳を出して見せた。
里沙の耳には小さいリボンをかたどったピアスがついていた。
「マグネットピアスよ。穴を開けなくてもつけられるピアスもあるの」
「なんだ。てっきり俺たちの何歩も先を行ってるのかと思った」
「もっとお洒落はしてみたいけど、穴を開けるのは痛そうで無理ね」
里沙はそう言いながらそっと自分の耳を撫でた。
針を耳に刺す瞬間の痛みなんて想像したくもない。
「じゃあこのピアスを買ってもらおうかしら」
里沙が目を輝かせながら手にしたピアスは、金色の細長いものだった。
なるほど。いま里沙が身につけているピアスより大人っぽい代物だ。
「分かった。買ってくる」
俺はそう言って里沙からお目当てのピアスを受け取ると、値札を確認した。
お値段なんと三千円。プレゼントにはいい感じの値段だが、こんなに小さい物が三千円か。
いつかこの価値が分かる時が来ることを願おう。
俺はピアスを購入し、プレゼント用の包装をしてもらい里沙に渡した。
「ありがとう」
「どういたしまして。さ、次は俺の番だ」
「何を選ぶか楽しみね」
「もう決まっている」
俺と里沙はビークスというブランドの店へ移動した。
服からアクセサリーまで何でも揃っている人気のブランドだ。
「さっきも来たお店だけど、いま流行りのブランドね」
「そうだ。欲しいのはこいつだ」
俺はそう言って、綺麗に並べられたスマートフォンケースを指差した。
「スマホケース? 服じゃなくて?」
「おう。最近スマホケースを落として割っちゃったからな。ちょうど欲しかったところだ」
それにしてもすごい数がディスプレイされている。
どれにしようか迷ってしまう。
「実は柄は決めてないんだ」
「じゃあ私が選んであげる」
「お。いいね。里沙のセンスを信じてるから」
「そうね……。どれにしようかな」
里沙はしばらく悩んでから、スケートボードが中心に描かれ、ペンキを撒き散らしたかのような模様が描かれたケースを手に取った。
「これがいいわ!」
「スケボーね。俺はスケボーやったことないけど」
「不服?」
「全然不服じゃありません。普段の俺なら絶対選ばないだろうな」
「だから面白いのよ。それじゃあ買ってくるわ」
里沙はスマートフォンケースを購入すると俺に渡した。
今度は割らないようにしっかり使おう。
プレゼント交換会が終了すると、時刻は午後五時過ぎだった。
お目当のイルミネーションがあるのは長谷駅。
電車で移動するため、駅に向かっていると盛大にお腹が鳴った。
「ふふふ。そんなにお腹すいたの?」
「恥ずかしい……」
「先に夜ご飯にしない?」
「そうだな。助かる」
俺たちは夜ご飯のお店を探して、少し散策してみた。
その途中、人気の少ない路地裏に入り込んでしまった。
まだ本日の営業をしていないような怪しいお店が並んでいた。
そこには物騒な雰囲気が漂っていて、嫌な予感がした。
続く




