146 クリスマスがやって来た
最近投稿ペースが落ちてますが、4月からは回復できそうです。
クリスマス当日。
とうとうやって来たかという嬉しさと不安を胸に秘めながら、俺は服を選んでいた。
こうしてクローゼットの中を眺めてみるとネイビーかカーキの服しか持ってないことを改めて実感した。
仕方ないのでネイビーのコートと黒のスキニーを選んだ。
差し色に白のセーターを着ておこう。
さて、服選びはバッチリだ。
後は里沙と一緒に出かけるだけ。
といっても約束の時間はお昼過ぎ。
今は朝日の差し込む午前七時。張り切りすぎだろ俺。
電気もつけずに服選びをする俺に小鳥たちが笑っているかのようなさえずりを聞いた。
顔を洗い、リビングへ行くと母さんが朝食の用意をしていた。
親父と亜子はまだいなかった。
俺はそっと椅子に腰かけた。
「あら、早いのね」
「うん。ちょっとね……」
「何よ。あ、今日はクリスマスだったかしら。ひょっとしてどこかに出かけるの?」
母さんのわざとらしい質問が飛んでくる。
「まあそんなところかな」
「うふふ。それなら早く朝ごはん作らないと」
「大丈夫。出かけるのは昼過ぎだから」
「ずいぶん気合いが入ってること」
そうさ。今日という日は気合いを入れておかないと恐い人がいるんでね。
結局デートプランを考えるために睡眠時間を削ってしまった俺は、ほとんど眠らなかったわけだ。
俺がトーストの匂いにお腹を空かせながら朝食の完成を待っていると、ドタドタと騒がしい亜子の足音が聞こえた。
そして、彼女はリビングの扉を慌ただしく開けた。
「おはよー! お兄ちゃんもう起きてる!?」
「おはよう。俺だって早起きするさ」
「今日は里沙姉とデートだもんね」
「おう。……って何で亜子が知ってるんだ?」
「えへへー。私と里沙姉はツーカーの仲なの」
「それかなり前の言葉よ。どこで知るのかしら」
「あ、お母さん。今日はお兄ちゃんと里沙姉がデートだって」
「そうなの。だからこんなに張り切ってるのね」
この後も二人の質問攻めによって朝の話題は持ちきりだった。
鈴木家の家庭は朝からなんとまあ賑やかなことだろうか。
朝食を済ませ、部屋に戻ったが何をして時間を潰そうか悩んでしまう。
はぁ。俺って無趣味だよな。新年の目標に趣味を見つけることって入れておこう。
来たる約束時間。
家が隣同士の里沙とは玄関前に集合するのが高齢者である。
約束時間の十分前、俺は玄関に出た。
「あ」
「よ、ぴったりだな」
俺の読み通り、里沙は早めの出動をしたようだ。
俺と同じタイミングで彼女も家から出てきた。
「そ……その。今日はよろしくね」
「こちらこそ」
妙にしおらしい里沙を俺は怪訝な顔で見てしまった。
「な……何よ?」
「何でもない」
「もう……変なの」
気を取り直して行くとしますか。
俺たちはマンションを出るとまずは駅へ向かった。
そして、嵐ヶ丘駅から長谷駅まで移動し、さらにそこから地下鉄へ乗った。
地下鉄では一駅分だけ移動し、すぐに降りた。
その後、地上に出てから少し歩くとお目当ての建物が見えてきた。
「意外と大きいのね」
「俺も初めて来たから少し驚いている」
俺たちがやって来たのはプラネタリウム。
巨大なドーム型に作られており、地球を彷彿とさせる。
決してどこぞのテレビ局に来たわけではない。
俺たちは建物の中に入り受付でチケットを購入した。
タイミングよく次の上映がまもなく始まるとこだった。
チケットを握りしめ、さっそく入場すると子供心がくすぐられた。
全面がモニターとなっている天井には席番号の案内が映し出されている。
椅子は一つずつ等間隔に間をあけて円状に設置されていて、それが何列にもなっている。
まさしく丸いというイメージだ。
「へー。こんな風になってるんだ」
俺は席に向かいながらポツリと呟いた。
「あ、私たちの席はここよ」
「お、けっこう後ろの方だな」
椅子に座るとふかふかで座り心地が良かった。
暗い室内にふかふかの椅子、まるで眠りに誘うかのよう。
待て待て、眼を覚ますんだ。頼むから寝るなよ、俺。
「見て、この椅子少し動くの」
里沙は椅子をこちらに向けてそう言った。
椅子は天井全体を見回せるように半回転する仕組みになっていた。
プラネタリウムが始まる前から色々と感心していると、上映開始のアナウンスがあった。
「お、始まるぞ」
「うん。静かにしなきゃ」
ざわついていた場内が一気に静まりかえった。
そして、一瞬にして真っ暗になった。
急に真っ暗になったので、目が慣れずにいた。
あのドーム型の建物の中に、まさに夜が表現されている。
優しい声のお兄さんが解説をしてくれるようだ。
俺は星について詳しいことを知らないが、解説を聞いてあの星がどうだとか分かったような気になる。
おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、オリオン座のペテルギウス。
これら三つを結ぶと冬の大三角。オリオンが二匹の犬を連れているようですね。
昔の人は何を想い、星座の名をつけたのでしょうか。
といった具合に語りかけるような口調で解説をしてくれる。
まるで子守唄のような爽やか優男ボイス。
このまま座り心地の良い椅子に沈み込んで、そのまま宇宙の彼方へ溶け込んでしまいそうだ。
そんな夢を見てみたい。
今ではないけど。
続く




