表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
淡雪ウインターバケーション編
150/177

145 もう一つのクリスマスプレゼント

 どれくらいたったのだろうか。

 お風呂を出た俺は、うたた寝をしていた。

 俺を目覚めさせてくれたのは、スマフォの着信音だった。

 ちょうど着信音が鳴り止んだところで目を覚ましたため、急いで不在着信を確認した。

 履歴には黒坂由香の四文字が表示されている。

 俺はすぐさま彼女に電話をかけ直した。

 すると、ワンコールもしないうちに由香は電話に出てくれた。


「もしもし。私いま、宏介の部屋の前にいるの」

「こわっ! メリーさんじゃないんだから」

「部屋入っていい?」

「マジでそこにいるのか!?」

「マジ!」


 電話が切れると同時に俺の部屋の扉が勢いよく開いた。


「来ちゃった」

「おう。まあ入ってくれ」

「お邪魔しまーす!」


 由香は言われるまでもなく、椅子に座った。

 そして、肩の力を抜き一言。


「ふぅー。ちょっと休憩……」


 由香は深呼吸をして、萎むんじゃないかというぐらい息を吐いた。


「ずいぶんお疲れのようだな」

「ううん。疲れてはないけど」


 由香はいつになくそわそわしている。

 どう見てもいつもと様子が違う。


「あ……あのさ。亜子と一緒にクリスマスケーキ作ったから後で食べてみて」

「おお! ありがとう」

「普段料理なんてしないからさ。宏介の口に合うかどうか分かんないけど」

「それは亜子も同じだ。ご飯前に食べるから」

「食後のデザートじゃなくて?」

「たくさん食べるため最初に食べるんだ。せっかく作ってもらったのに、少しだけじゃもったいないと思う」

「うん! 不味いなんて言ったら許さないんだから」


 由香は満面の笑みでそう言った。

 幼馴染と妹が作ったケーキだぜ。

 誰もが羨む手作りケーキに不味い要素なんてあるはずがない。


「じゃあ私はこれで帰るね」

「じゃあ。メリークリスマス」

「メリークリスマス! この挨拶、外国っぽい」

「外国っぽい……」


 俺は由香の言った一言を復唱した。

 アンジェの影響を受けているのかもしれない。

 当の本人は冬休みの一時帰国中だが。

 俺は由香を玄関まで見送ると、亜子の部屋に向かった。

 扉をノックして亜子の返事があったことを確認し、彼女の部屋に入った。


「どうしたの?」


 亜子はベッドで俯けになりながら足をパタパタとさせ、スマートフォンを弄っていた。


「ケーキを食べようと思って」

「あ、由香姉から聞いた? 私たちの自信作なんだよねえ」

「今から食べるぞ」

「夜ご飯食べられなくなっちゃうかもよ?」

「それでもいいから食べに行くんだ」

「気合い入ってるー! 冷蔵庫に入れてあるから食べに行こ」


 俺たちはリビングへ向かい、夕食が整いつつあるテーブルの上に由香と亜子が作ったケーキを置いた。


「なに、あんた達もうケーキを食べるの?」

「うん。お兄ちゃんが私たちの作ったケーキだからお腹いっぱいになる前に堪能したいんだって」

「おい、言うなよ」

「あら、妬けちゃう」


 亜子はドヤ顔をしていた。

 俺をからかった彼女自身も満更ではなさそうだった。

 鼻歌を歌いながら母さんがナイフを持ってくると亜子に渡した。


「はーい。ケーキ入刀でーす」


 亜子はそう言ってケーキの真上にナイフを持っていった。

 しかし、そこで一旦手を止めてこちらに目配せをしてきた。


「どうした?」

「一緒にケーキ入刀しないの? ほら私の手を握って」

「するかっ! そういうことは結婚式でやるもんだ」

「じゃあこれが私とお兄ちゃんの結婚式ね」

「あのなぁ……」


 結局、亜子はぶつくさ言いながら一人でケーキを切り分けてくれた。

 カカオの香りが甘美な世界へと誘うチョコレートケーキだ。

 待てよ。よくよく考えれば本日二度目のケーキタイムじゃないか。

 最初はショートケーキで今回はチョコレートケーキ。なんて贅沢な一日なんだろう。

 甘いもの好きな倉持に自慢してやろうかな、ははは。


「どう? 美味しい?」


 チョコレートケーキを口に入れた瞬間、亜子はそう聞いてきた。


「美味しい! お前たちは天才か!?」

「でしょ〜! 将来はパティシエの道が見えてきたんだって!」


 お世辞でもなんでもなく心からの声だった。

 濃厚なチョコだが甘すぎず、後味もさっぱりしている。

 俺はすぐに一切れを食べ終えた。


「おかわり!」

「はい! どうぞ!」


 結局俺はワンホールに対して半分も食べてしまった。

 これじゃあご飯が食べられない。


「すまん、母さん。作ってくれたおかずはまた後で食べに来る」

「無理しなくていいわ。宏介以外の皆んなで分けるから」


 母さんは呆れたと言わんばかりに笑いながらそう言った。

 亜子は満足げな表情を浮かべていた。

 ケーキを食べ終えると、俺は部屋に戻った。

 そして、すぐさま由香に電話をかけた。


「もしもし。あ、由香? ケーキ美味しかった」

「本当!? 良かった……」

「半分も食べてしまったさ」

「食べ過ぎでしょ」

「それだけ美味しかったてこと」

「えへへ! またいつでも作ってあげるからね」

「マジか! 楽しみしておく」


 電話越しに聞こえる由香の声はとても元気だった。

 歌といい、料理といい、神様は由香に才能を与えすぎじゃないか。

 嫉妬してしまいそうな彼女の才能に俺は憧れているのかもしれない。

 本当にいいお姉ちゃんを持ったという、そんな気持ちだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ