14 ロマンティックください
部長はホワイトボードを勢い良く叩くと、話し始めた。
「俺たちSF研究部は毎年、夏休みに合宿を行っている! 今年も思う存分かん……研究を楽しもうじゃないか」
今、観光って言いかけませんでした!?
「去年は山へ、自然と山の幸を楽しみに……いやいや、研究しに行った。今年は海へ、海水浴と新鮮なお魚さんを研究しに行こうというのが俺の案だが、どうだろうか?」
「賛成でーす!」
「俺も」
「私も」
笹川、俺、里沙、の3人は即答した。
ミーティング開始数分にして早くも決まりそうだ。
なんというか、適当だな。
「おお。意外とすんなり決まりそうだ……ん?」
だが、1人不満そうな人がいる。
柚子先輩だ。
「え〜! 今年こそサボチャン公園に行こうよ」
「駄目だダメだ。泊まり込みで行くところではないし、多数決で決定したんだ。合宿以外でなら行ってもいいが……」
「本当!? やったぁ! いつ行くの? 今週? 来週?」
柚子先輩は目を爛々と輝かせ、興奮している。
サボチャン公園か。聞いたことあるな。確か、数多くのサボテンが展示してある植物園のはずだ。
つまり、サボテン好きな柚子先輩はそこに行きたくて仕方ないんだな。
「やっぱ俺はいいかな……。去年の秋にも行っただろう?」
行ったことあるのかい! どんだけ好きなんだ。
「いいもん! 亮君以外の皆んなと行くから」
あの……行くとは言ってないんですが。遊園地とかなら喜んで行きますけど、サボテンはちょっと……。
俺はサボテンが少しトラウマになっていた。
その後、部長は夏休みの活動方針について教えてくれた。
基本的に高校での活動日は火曜日と木曜日の週2日だそうだ。
文化祭の準備をするも良し、ゲームをするも良し、漫画を読むも良し、ガールズトークするも良し。はたまた、どこかへ遊びに行っても良い。
俺たちはメッセージアプリのサークルでSF研究部グループを作り、夏休み中の連絡はそこでとることになった。
お気楽というか、何というか。まあ、楽しそうな夏休みになりそうだ。
夏休みを楽しむのはいいが、俺と里沙には課題がある。
そう、研究発表だ。
実はまだ何を発表するか決めていないのだ。
俺と里沙がどうしようか話し合っていると、部長がある案を持ちかけてきた。
「何だ、まだ決まっていないのか。それだったら面白い案件があるぞ」
「面白い案件……? 何ですか?」
「ちょっと待ってろ」
部長はそう言うと、扉付きの書棚から少し日焼けのしたボロいノートを取り出した。
ノートの表紙には、『研究発表事例1987年』と書かれている。
どうやら、先輩たちが過去にどのような研究発表をしたか記されたノートのようだ。
それにしても、古いな。そんなに昔からSF研究部はあったのか。その事実に驚きだ。
「これには初代SF研究部部長の研究発表も載っている」
「おお」
「それがこれだ!」
ノートの1ページ目にそれは記されていた。
『星ヶ原の言い伝えについて』
「ほし……がはら?」
「聞いたことないですね」
「実のところ、俺も知らない」
そして、そのタイトルだけ書かれたページをめくると、肝心の研究内容が描かれた次の紙が破かれている。
「あ! 破かれてますね」
「そうなんだよ。どんな内容か分からないんだが……これを見てくれ」
部長は破かれたページの少しだけ残っている部分を指差した。
そこには、その言葉だけ残されていた。
『30年に1度、夏の終わりに』
気になる。何を以って破いたか知らないが、破ったやつを恨むぞ。
「気になりますね」
「ああ。俺も最近このノートを見つけてな。気になってた。そこでだ!」
「あ!」
「そう、察しの通りこの内容について調べてもらうってのも全然ありだ。どんな運命か、今は2017年。ちょうどこの研究がされてから30年目だ」
おお! 何という偶然。それはワクワクしますね。
しかし、ある懸念が思い浮かんだ。
「ちょっと待ってください。初代部長の研究した年が、その節目とは限らないんじゃないですか?」
部長は一呼吸置くと、熱く語り始めた。
「全くお前ってやつは……。だからこそロマンがあるじゃないか! 本当かどうか分からない。そこに何があるか分からない。しょうもないことかもしれない。だが、それは経験して初めて分かることだ。少なくとも俺は、その行動の先に素晴らしい何かが待ち受けていると信じている!」
里沙は感心した表情で部長を見ていた。
「素敵ですね! ぜひ研究します!」
「そうか。関野はわかってくれるか!」
俺は、なぜか置き去りにされた気がした。
気になるのは事実である。
「俺も気になってます! 俺も研究したいです!」
「うむ。では、お前たち2人の共同研究ということで」
「え!?」
「何も複数人での研究はダメというルールはない。よかったじゃないか、夫婦らしくて」
「部長!」
こうして俺と里沙は一緒に研究をすることになった。
とりあえず7月が終わるまでに手分けして、その星ヶ原について調べられるだけ調べようということで落ち着いた。
夏の終わりとはいつだろうか。普通に考えれば9月半ばぐらいのはず。
とにかく時期は逃さないようにしたいな。
その後、いつものように部長とゲームをしていると、ある提案をしてきた。
「なぁ、鈴木。明日俺と一緒に行かないか?」
「どこにですか!?」
「『大木』に行こう」
「大木ですか。あそこってかなり濃ゆい町と聞きますね」
「そうだ。オタクの聖地だ。楽しいぞー」
部長は俺の隣でにやけながら、一緒に行って欲しそうにしている。
さては、俺をその世界に引き込もうとしているな。
嫌ではないが、どうするか迷う。
「そうですねぇ……」
「部長命令だ。一緒に行ってもらおう」
「あっ。ずるいです!」
「ははは! 明日の放課後、校門前に集合ということで」
そんなわけで、俺は未知の領域に足を踏み入れることになった。
部長が他の皆んなも誘ったが、拒否されていた。
さすがに女子たちは興味もないし、行きたくないらしい。
そして、最初の頃と違い、里沙も俺について回るということもなくなっていた。
少しは里沙に信用されてきたってことかな。
明日は俺と部長の楽しい楽しい濃ゆい町めぐりになりそうだ。
何気に部長とどこかへ遊びに行くのは、初めてだな。
続く




