142 淡雪ウインターバケーション
思ったより狭い穴に手を入れて、くじを探る。
「さあさあ、選びたい放題だよ」
くじの箱を抱えた柚子先輩がウキウキな様子でそう言った。
俺たちは今、クリスマスプレゼントの交換会をしている。
とうとう迎えたクリスマスイヴ。冬休みに突入したが、こうして皆んなで部室に集まっている。
「よし! これに決めた!」
俺は勢いよく箱から三角形に折りたたまれた紙を取り出した。
「おっと、まだ開けちゃいけないぞ」
佐々木部長はメガネをクイっと、位置を直しながらそう言った。
紙を広げると番号が書いてあり、各自その番号が振り分けられた椅子に座るという仕組みだ。
机は隅に退けられ、椅子取りゲームのように、円状に椅子が並べられている。
肝心のプレゼントは自分の右隣の人に渡すことになっている。
「皆んな引き終わったなー! じゃあ紙を開けよう!」
佐々木部長の合図に従い、各自一斉に紙を開けた。
俺の目に飛び込んで来たのは、可愛らしい丸みを帯びた『1』だった。
一番最初に引いて一番か。我ながら幸先良いスタートを切ることができた。
それからすぐに皆んなでワイワイ、ガヤガヤ言いながら椅子に座った。
俺の右隣には佐々木部長が座っていた。
「ほほう。鈴木からプレゼントを貰えるのか。楽しみだ!」
「あまり期待はしないでくださいよ」
痛恨のミス。
運の問題だから仕方ないかもしれないけど、女の子向けのプレゼントを選んできてしまった。
「私の隣は鈴木かー。よろしくな」
俺は笹川からプレゼントをもらうことが決定した。
俺の正面には里沙が座っており、彼女から見て右に秋葉、左に柚子先輩といった塩梅だ。
佐々木部長のプレゼントが柚子先輩の手に渡るわけだが、本命のプレゼントを渡したのか気になるところだ。
「それじゃあ、これからプレゼント交換を行う! 各自不平不満はなしだ!」
俺たちは「はーい」と返事をした。輪の中には期待と不安が渦巻いている。
どんなプレゼントが貰えるのか、自分の選んだものは気に入ってもらえるか。
全員がそんな気持ちになっていたと思う。
俺は佐々木部長にピンクのリボンで飾り付けされたギフト包装済みの袋を渡した。
「お、小さい袋の割には重いな」
「気に入ってもらえたら嬉しいですが……」
それから俺は笹川からプレゼントを手渡された。
「しっかり味わってよ」
どうやら中味は食べ物のようだ。
笹川の選んだものということは、お菓子かな。
「さてと、行き渡ったな。よし! これより開封の儀を行う!」
笹川からもらったプレゼントを開けると、予想通りお菓子が入っていた。
長谷駅にある大人気ドーナツ屋のミニドーナツセットだった。
パッケージに印刷されたドーナツの写真を見て思わずお腹が鳴ってしまった。
「宏介、今お腹が鳴ったように思えたけど?」
すかさず里沙が突っ込みを入れてくる。
「笹川からもらったドーナツがあまりに美味しそうだったからつい」
その場にいた全員が声を上げて笑った。
笑われるくらいが丁度良いが、お腹が鳴るのってどうしてこんなに恥ずかしいのだろう。
「さあ、鈴木から貰ったプレゼントを開けるぞー」
佐々木部長が大きな声でわざとらしくそう言った。
そして、彼は袋を破き、中身を取り出した。
「お! 洒落たプレゼントじゃあないか」
俺が買ってきたプレゼントは、ハーバリウムと言い、水なのか薬品なのか液体の入った瓶に花が詰められた置物だ。
それはもう綺麗で、鮮やかに色彩を放っている。
クリスマスっぽく赤い花がたくさん入ったものを選んでみた。
他の皆んなも佐々木部長の周りに集まり瓶を覗き込んでいる。
「へ〜。きれい。宏介君ってこういうプレゼント選ぶんだ」
柚子先輩は赤い花を見つめながら微笑んでいた。
まさかこの花とも会話ができるなんて言わないでしょうね。
「ふむ。俺の中の乙女心がざわついたぞ」
「ええ……。まさか部長……?」
「ははは! 冗談に決まっている」
佐々木部長は俺にウインクして見せた。
心なしか星が飛んで来たように見えた。
それには一体どういう意味が込められているのだろうか。
「よし。こいつはあのサボテンたちと一緒に飾るとしようか」
「いいね。宏介君の買ってきた花があの子達と一緒に並ぶんだよ。なんだかワクワクするね」
柚子先輩にもハーバリウムは好評だ。
佐々木部長は瓶を落とさないように慎重に棚まで運んだ。
「うん! 様になってるよ」
柚子先輩も満足げだ。
ここまで気に入ってもらえるなんて、本当にハーバリウムを選んで良かった。
他の皆んなのプレゼントは何かと言うと、里沙はハンドクリーム、秋葉は少し高級なペン、柚子先輩は犬のぬいぐるみ、そして佐々木部長は謎キャラクターの目覚まし時計だった。
「亮くん何これー」
「ナイスガイな目覚まし時計だろ?」
柚子先輩の手にはヒゲを生やした卵のキャラクターが乗っていた。
そいつのお腹に時計が埋め込まれている。目覚ましを設定しておくと気持ちいいほどに大きな笑い声で起こしてくれる。
「なかなか良い時計ですね。慣れたら愛着がわきそうです」
「だろぉ? 我ながらいい買い物をした」
「そうかなぁ……。でも、大切にするね」
柚子先輩は複雑な顔をしていたが、佐々木部長から貰ったプレゼントだ。
きっと大切に使うはずだ。
続く




