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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
ヤンデレちゃんはあわてんぼう編
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138 病んでも戦はできる

最近忙しくて更新が不安定です。

合間合間を縫って書いてますが、どっぷりこの世界に浸る時間がなく、とても寂しいです。

週一更新を目標にしておりますので気長にお待ちいただければと思います。

 俺は一呼吸置いてから教室の扉に手をかけた。

 いつもより数倍、扉が重く感じた。

 右肩にかけた鞄を力強く抱えていた。

 別に割れ物とか爆弾が入っているわけではないが、体が勝手に構えている。


「グッモーニング! こんなとこでどうしたの?」


 アンジェの不意打ちに俺は驚き、飛び上がってしまった。

 彼女も今登校してきたようだ。


「お……おはよう……!」

「ゴメン。ビックリさせちゃった?」

「大丈夫だ。俺こそこんなところで何をやっているんだろうな。ははは……」


 俺の胸中など知る由もないアンジェははてなマークを浮かべていた。

 その後すぐに教室へ入り、自分の席へと向かった。

 秋葉は既に来ており、俺を見るや否や満面の笑みを浮かべた。


「何か嬉しいことでもあったのか?」

「えへへ。今日も宏くんに会えたことが何よりも幸せなの♡」


 なぜだ。最近の秋葉は以前にも増して積極的になっている。

 プレゼントを渡した日にはもうどうなってしまうのだろうか。

 俺は意を決して秋葉に手袋を渡すことにした。


「はい。これはこの前のお礼。良かったら使ってくれ」


 はぁ〜。心臓が喉から飛び出そうだ。

 女の子にプレゼントを渡すことって、こんなにも緊張するっけ?


「えー!? 宏くんが私に!?」


 秋葉は俺の予想の数倍驚いていた。

 以前もイヤホンジャックを渡したことだってあるのに。


「クリスマスプレゼントとして宏くんから貰えるなんて……。一生大切にするね!」


 そこまで喜んでもらえれば俺も嬉しい。


「ところで、交換会用のプレゼントは買ってあるのか?」

「まだ買ってないよ。あ、一緒に買いに行く?♡」

「それだとプレゼントの中身が分かって楽しみが減ると思う」

「そっかぁ、そうだよね。また宏くんのプレゼントを貰えるといいなぁ」


 秋葉は少しがっかりした様子だったが、すぐに何かを妄想し始めたのか元気になった。

 そして、俺が渡したプレゼントを手に取り見つめながら何かブツブツ独り言を喋っていた。


「ん? そんなに見つめてどうかした?♡」

「それはこっちのセリフだ。今、何か喋ってなかったか?」

「えへへ。バレちゃった」

「バレバレだ」

「うふふ。私の中の宏くんと話をしてたの」


 ええ……。

 秋葉の中の俺とは一体……?


「最近、よく考えちゃうんだよね」

「と言うと?」

「私と宏くんが結婚した後のこと」


 わーお。

 妄想がぶっ飛びすぎている。

 というか、妄想の世界に生きている。


「お……おう。もっと現実に生きようぜ」

「えー。現実世界には敵が多すぎるよぉ」

「敵って……。もっと平和に考えようぜ」

「分かった。宏くんのことだけ見て、宏くんのことだけ考えているね」

「それじゃあ何も変わってないぜ……」


 やれやれ。

 秋葉の世界には俺しかいないのか。

 彼女の妄想ワールドを覗けるのであれば一度見てみたい。

 そして、そこにいる俺には服ぐらい来ていて欲しいものである。



 その日の昼休み、そいつは唐突にやって来た。

 秋葉が弁当箱を開けてから数分、少しも箸が進んでいないようで、俺は心配になって彼女に話しかけた。


「どうした? 気分でも悪いのか?」

「うん……。全然食欲がないよ。何だか気持ち悪くなってきたかも……」


 秋葉が体調不良とは珍しい。

 私は風邪になんか負けませんという感じがしていたが、やはり血の通った人間、体調だって悪くなるか。


「風邪でも引いたんじゃないのか」


 俺は秋葉のおでこに手を当てた。


「ひゃん……!」

「あ、悪い」

「もう……。びっくりするよ」


 秋葉は、俺の手が急に触れられたことに対して驚いていた。


「熱はなさそうだな」

「何だろう、疲れかな……」


 俺と秋葉が原因不明の体調不良について悩んでいると、山内がやって来た。


「秋葉さん、体調が優れないなら保健室へ行くべきだよ」

「でも……。これぐらいなら……」

「無理は禁物。これは委員長命令!」

「うん。良くなるまで休んでくるね」


 ナイスだ、山内。

 秋葉には早く回復してもらいたい。


「鈴木君、秋葉さんを保健室まで連れて行ってあげてよ」

「お……俺!?」

「そう! これは委員長命令!」

「もちろん構わない」

「さすがは僕の順従なる下僕……ゲフンゲフン」

「んんっ!? 今、聞き捨てならないことを言わなかったか?」

「何でもない。ささ、早く連れて行って」


 こうして、俺は秋葉を連れて保健室へ向かった。

 保健室の扉を開け、「すみませーん」と声かけをしたが、返事はなかった。

 保健室の中を一周見回しても誰の姿もない。

 タイミングが悪かったのか保健室の先生は不在のようである。


「困ったな……。そうだ、先生が来るまで俺が待ってるから秋葉はベッドで休んでなよ」

「いいの?」

「秋葉を放っておくわけにはいかないし」

「宏くん……♡」


 幸い、三台ほど並んでいるベッドはどれも空いている。

 俺は保健室の先生の代わりに秋葉をベッドへ案内した。


「このベッドでいいか……」

「ここまで連れてきてくれてありがとう」

「ん、俺に協力できることがあれば何でも言ってくれ」


 ベッドに腰掛けた秋葉は俯き急に黙り込んだかと思うと、突然俺の腕を掴み、自分の体ごと俺をベッドに引きずり込んだ。

 ベッドに横たわる秋葉の上に向き合って重なる俺。


「宏くん……」

「あ、秋葉……!?」


 完全密着。

 彼女の体温、匂い、呼吸のリズムが伝わってくる。

 うおおおおお! 早く脱出しなければ!


 俺は体を起こそうとしたが、秋葉に腕を強く捕まれ起き上がれなかった。

 不意打ちのおかげでいつもの数倍力が弱まっている。


「逃がさないから……」


 体調不良の女子とは思えないし、目が本気だ。

 秋葉の力強い目線は、しっかりと俺の瞳を捉えていた。


続く

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