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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
恋の刺客と愛の資格編
135/177

130 開かない扉

次の更新は9/16(日)になります。

 結局、その後の片付けは、俺と由香班、亜子と里沙班に分かれて行った。

 各個人が分かれて行っても里沙と由香にとってここは人の家、どう振る舞っていいのか分からないはずだ。


「ここがそうなの?」

「ああ、ここが開かずの間だ」


 俺と由香はかつて開かずの間と呼ばれていた部屋の前に来ている。

 今思えばなんて事ないただの物置だ。

 子どもが入って万が一怪我でもされたら困るから、両親はお化けがでるぞなんて俺たちを脅していた。

 中学生になってからは、怖いというより興味がなかった。

 だから一度たりとも開かずの間に入ったことがない。

 そんな場所へ、今ようやく足をふみいれようとしているのだ。


「開けるぞ……」


 黙って由香が頷く。

 俺はドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を開けた。

 何も置かれていない三畳ほどの空間が現れた。


「普通だね……」

「ここは片付けられているな」


 何か出てこないか期待していたが、特に変わりのない狭い物置がそこにあるだけだった。

 とりあえず中に入ってみると、狭いおかげか、壁の圧迫感を覚えた。

 由香も俺に続き開かずの間に入り、扉を閉めた。


「他の部屋より暖かく感じるのは私だけ?」

「狭いから空気がこもるんじゃないか?」


 確かに他の部屋より空気が淀んでいる気がする。

 快適ではない空間を出ようと、ドアノブに手を掛けたがビクともしなかった。


「あれ!?」


 何回も動かそうとしたが、ちっとも動かない。


「どうしたの?」

「扉が開かない……」

「え!?」


 選手交代ということで由香が扉を開けようとしたが、これまたちっとも動かなかった。


「私たち閉じ込められちゃった!?」

「マジか!」


 開かずの間ってそういう意味!?

 入れないのではなく、出られない。

 そんなこと聞いてないぜ。


「スマフォで助けを……! ってリビングに置きっ放しだ!」

「私もだよー!」

「えええええ!?」


 終わった……。

 他の誰かに気づいてもらおうと扉を力強く叩いて大声を出してみたが、開かずの間に虚しく響いただけであった。

 なぜ修理されていないのか。これはちょっとした恐怖ですよ。


「誰かが気づくまでどうしようもないな」

「密室で宏介と二人きり……」


 由香は壁際に退きながら身を固めた。


「まるで俺が変態みたいなんだが」

「変態でしょ? だから私を襲おうと開かずの間に誘導したとみた」


 今度は俺に向かってドヤ顔で人差し指を向けた。

 残念だが、お前の予想は間違っている。


「全く……。とりあえず落ち着こうぜ」


 立ちっぱなしでは疲れるので、俺はその場に座り込んだ。

 由香は不服そうな顔で俺を見ていた。


「どうした? 座らないのか?」

「もうっ! 私の胸のドキドキを返してくれる!?」

「あいにく返す胸は見当たらない」

「カッチーン! もう怒った!」


 次の瞬間、由香は俺に覆いかぶさるように四つん這いになった。


「お……おい!」

「何? 文句でもあるわけ?」

「大ありだ。こんなところでやめるんだ!」

「こんなところじゃなかったらいいの?」

「うっ……! 屁理屈はいいからとにかく離れて!」

「嫌だ」


 とうとう頭がおかしくなってしまったか!?

 俺は何も言えずに、しばらく由香と見つめ合ってしまった。

 それから由香も何も言わず、俺の胸に頭をあずけてきた。

 彼女の重さと温もりが全身に伝わる。彼女から漂う甘い匂いが思考回路を鈍らせる。

 俺は宙に浮いたままの手をどこに持っていけばよいのか分からなかった。


「気は確か……?」

「……。うん」


 俺は平静を装っていたが、今にも飛び出しそうなほど速い鼓動が由香に聞こえていないか心配だった。


「バカ介……!」


 由香はそう呟くと俺から離れ、壁にもたれかかって座った。

 彼女が離れてもなお、感触は残り続けた。鼓動はまだ収まりきらない。

 その後、少しの沈黙が続いた。恥ずかしさで顔が熱い。真っ赤になっていないだろうか。


「ドキドキした?」


 由香は微笑み、俺にそう問いかけた。


「ああ、ドキドキしたよ」

「ししし、良かった。これでおあいこだね」


 してやられたな。

 由香にドキドキさせられてしまった。


「あ〜あ、閉じ込められたままでいいんだけどなぁ」

「えぇ!? このままだと餓死するぞ」

「本当に宏介は……。そういうことじゃないのに」


 俺には由香の考えていることがよく分からなかった。

 そして、そんな由香の発言を否定するかのように、開かずの間の扉が開いた。


「あ……! お邪魔しました」


 亜子が声を上げ、ゆっくり扉を閉めた。


「待て待て待て! 開けてくれ!」


 俺が亜子に懇願すると、再びゆっくり扉が開いた。


「お兄ちゃん、こんなところで何してるの?」

「閉じ込められてたんだ」

「うそ。だってここは開かずの間だよ」

「まさか中から開かないことを知ってたのか?」

「当たり前じゃん。もしかして知らなかったの!?」

「そのまさかだ」


 どうやら亜子は開かずの間のことを知っていたらしい。

 先に教えてくれよな。


「亜子、何があったかは想像に任せる」


 由香は誤解を招くような言い方をした。


「わあ! お兄ちゃんやっぱり……」

「何もしてないって!」


 まさか自分の家にこんな地雷が潜んでいたとは。


 開かずの間を後にした俺たちは片付けを続けた。

 これ以上変わったことは起きないでくれと切に願いながら。


続く

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