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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
恋の刺客と愛の資格編
133/177

128 時を超えて

 公園の地面は意外と掘り辛かった。途中で小石が当たったり、やたらと土が固かったり。

 子どもの頃の俺らは、よく掘ることができたと感心する。

 思ったより深くまで掘ったところでガツンと明らかに、石ではない大きな何かに当たった。


「手応えあり!」


 俺がそう言うと、全員安堵の表情を浮かべた。

 由香自身も不安があったみたいだ。

 そりゃそうか。だって、満を持してやって来たは、タイムカプセルが見つからなかったでは話にならない。

 俺は焦る気持ちを抑えながら、穴からタイムカプセルを救出した。

 土にまみれたプラスチック製のそれは、当時の輝きを保っているかのように眩しく見えた。


「いよいよね……」


 里沙はタイムカプセルを見つめながら、ゆっくりとそう呟いた。


「誰が開ける……?」

「私が開ける!」


 勢いよく手を挙げたのは由香だった。

 俺は彼女にタイムカプセルを渡した。


「軽い……」

「思ったよりな」

「でも、この中には大切な重い思い出が入っているの」

「重い思い出って……。ダジャレになってるぞ」

「……」


 スベった。これは恥かしい。

 俺が悪いという雰囲気になってしまったじゃないか。

 由香は仕切り直すように咳払いをすると、タイムカプセルの蓋に手をかけた。

 そして、丁寧にゆっくりと開けていく。

 ゴクリ……。緊張の瞬間である。

 誰もがタイムカプセルに釘付けになる中、とうとう蓋が完全に開いた。


「あー! 私の入れた封筒だ!」


 いの一番に出てきたのは亜子が入れた封筒だった。

 亜子が封筒を手に取ると、封を開けた。

 そして、中から一枚の紙切れが出てきた。


「お兄ちゃんが……何でも……言うことを聞いてくれる券……?」


 読むのに一苦労するような拙い字でそう書いてあった。


「あはは! すごいのが出てきたよ!」


 亜子はお腹を抱えて笑っていた。

 おいおい、俺からしたら笑い事じゃないぜ。何を命令されるか怖くてしょうがない。


「いきなり変なのが来たな」

「えへへ、今度使ってみよー」

「いつの時代のやつだよ。流石に無効だろ?」

「ううん。よく見てよ」


 目を凝らすと、紙の端っこに小さな字で一生使えますと書いてあった。

 何ぃ!? 抜け目のない奴め。

 しょうがない、券が使用される日までに覚悟を決めておこう。


 それから次に思い出の品を取り出したのは、里沙だった。


「これは……!?」


 里沙は当時流行っていた少女向けアニメのおもちゃを手に持ち、まじまじと見つめていた。先っぽが花の形をした魔法の杖である。


「おもちゃなんて入れたっけ……?」

「懐かしい〜。私が里沙にあげたやつじゃん」

「あ……。色々と思い出してきたわ」


 そのおもちゃは由香が里沙にプレゼントしたもので、当時の里沙は泣くほど嬉しがってたはず。


「確か……フラワー・ピクシー・シャイン!」


 里沙は俺に向かって杖を振った。

 今しがた彼女の放った技は敵をやっつける時の必殺技。俺は敵役ということでよろしいか。


「うわー。やられた〜!」


 一応乗ってみたが、冬の寒い風が肌をかすめただけだった。


「お兄ちゃん何やってるの……。里沙姉も」

「何も見なかったことにしなさい!」

「えー。里沙姉もノリノリだったじゃん」


 亜子も由香もニヤニヤしながら「動画に納めるからもう一回」といってきた。

 二度とやるものか。だが、里沙は杖をまた構えた。


「いや! ノリノリかよ!」

「はっ……!」


 やっと我に返ったようだ。時に子ども心は恐ろしい。

 それにしても、里沙には魔法少女の才能があるな。いつぞやのコスプレといい、今回のおもちゃといい、皆んなに内緒にしているだけの可能性が出てきたぞ。


「私が入れたやつもそろそろ……」


 由香がゴソゴソとタイムカプセルから取り出したのは一枚の写真だった。

 俺たち全員がこの公園で遊んでいる何気ない写真だ。きっと、誰かの親が撮ってくれたのだろう。


「うわー。皆んな幼いね」


 まだ小学生だった頃の俺たちが無邪気に遊んでいる。そう、無邪気に。

 いや、この写真はあれだ。俺が無理矢理おままごとに参加させられている時の写真だ。

 確か……。


「この時は私がお嫁さんで宏介が旦那さんだったんだよね」


 由香は写真を見つめたまま、微笑んだ。


「それで里沙と亜子が子ども役だっけ。本当にそうなるといいな……」

「え? 最後が聞き取れなかった」

「ううん。何でもない。さ、次は宏介の番だよ」


 何と言ったのだろうか。そう言われると気になってしまう。

 さて、気を取り直して、俺はタイムカプセルからおもちゃを取り出した。

 当時大好きだった戦隊物のロボットだ。


「宏介もおもちゃを埋めたんだ……」


 里沙は魔法の杖を振りながらそう言った。

 子どもの考えることなんて皆んな一緒なんだ……って、むむ!?

 ロボットの中からカラカラと音がした。

 俺は確かめるためにロボットを上下に勢いよく降った。

 再びカラカラと明らかに何かが入っている音がした。

 そしてどこか開くところがないか触っていると、お腹の部分が開いた。

 中から出て来たのは鍵だった。


「おいおい何の鍵だよ」

「あー! こんなところにあったの!?」


 由香は鍵を見るやいなや叫んだ。

 どうやら彼女に関係するものらしい。


続く

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