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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
恋の刺客と愛の資格編
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124 もどかしい距離

 俺たちはカラオケに到着し、受付を済ました。

 高橋さんがいるかと思ったらいなかったので少し残念。今日は休みかな。


「行くよいくよー!」


 張り切る亜子に先導され、部屋まで向かう。

 フリードリンク二時間コース。歌う時間はたっぷりあるわけだが、何を歌おうか。


 部屋に入るやいなや亜子は電気をつけ、空調のスイッチを入れた。そのまま流れるように選曲用のタブレット型リモコンとマイクを充電器から外した。何だこの手際の良さは。こいつ、慣れていやがる。


「これで選ぶの?」

「うん! お兄ちゃん、里沙姉に教えてあげて」


 テーブルの上に置かれたタブレットを前に手こずる里沙を手伝う命が、亜子から俺に下された。


「ほら、備え付けのタッチペンを使ってこうやって……」


 タブレットはそれほど大きくないので、必然的に俺と里沙の距離は近くなる。


「えっと……? 見辛いわ……」


 里沙はタブレットを覗き込んだ。彼女の顔と俺の顔は、お互いの髪の毛が触れ合うまで近づいた。

 良いのか? この距離は良いのか!? 里沙はタブレットに釘付けで、ちっとも気にしていない。


「このランキングってところを見れば今流行りの歌がすぐ選べる」

「へぇ……。あっ、これなんか良いんじゃない?」


 そう言って里沙が選んだのは、最近話題の歌手と歌手がデュエットで歌う曲であった。


「いきなり一人じゃ恥ずかしいから宏介も歌って」

「俺も!?」


 いきなりの提案に戸惑っていると、「はい、お兄ちゃん」と亜子からマイクを渡された。

 確かに曲は知っているから歌えるが、一緒に歌うとなると話は別だ。何てことないはずだが、無駄に緊張する。


 曲の出だしは里沙からだ。室内に彼女の音程バッチリボイスが……ってあれ?

 里沙の歌はお世辞にも上手いとは言えなかった。

 俺は亜子のチラリと見たが、彼女も「あれ?」と言いたげな顔をしている。

 めちゃくちゃ下手というわけでもないが、リアクションが取りにくい。

 でも彼女の歌声は心地良く、安心する。


「宏介! 始まってるわよ!」

「あ……すまん」


 俺が物思いにふけっていると、いつのまにか男性パートに入っていた。

 少し出遅れたが、何とかリズムに合わせて歌うことができた。


「お兄ちゃんって意外と歌上手いんだ〜」


 亜子がそう言ってくるた。ははは! カラオケって楽しいところだな!

 俺の隣で歌っている里沙は、亜子に「私は!? 私は!?」と目で聞いていた。


「うーん……。里沙姉はあんまり上手くないかも……」

「え!? 本当に!? やっぱり私は下手なんだ……」


 里沙は歌を中断して落ち込んだ。


「でも、里沙姉の声っていつまでも聞いていられるよ。すごい下手でもないし。私は好き!」


 亜子に褒められた里沙の顔は一気に明るくなり満面の笑みを浮かべた。

 そして、俺にも感想を聞いてきた。もはや歌どころではない。


「俺も好きだよ。里沙の声って安心する」

「ふふ。歌はこれから練習して上手くならなくちゃ。今度、由香と一緒に特訓するわ」


 里沙は満更でもなさそうだった。しかし、特訓はしない方がいいと思う。このままギャップ萌えを狙う路線で行って欲しい。だって完璧美少女の歌が実は下手でしたなんて、ほっこりするだろ?


 俺たちのデュエットが終わり、お次は亜子がマイクを握った。

 お、彼女の歌は結構いい感じだ。歌い慣れている様子で熱唱をしている。


「亜子も上手いわね。また置いていかれた気分……」

「そんなに気にしなくてもいいと思うけどな。カラオケなんて楽しんだ者勝ちだ」

「歌が上手い人が羨ましい……」

「大丈夫だって。里沙は今のままの方が可愛いさ」

「そ……そうかな……」


 里沙は照れ臭そうにして、歌っている亜子の方へ視線を移した。


「はい、次は里沙姉の番」

「また私!?」


 亜子は歌い終わったらすぐに里沙へマイクを突き出した。無論、次の曲は入っていない。


「お兄ちゃんより里沙姉の歌が聴きたい!」

「亜子ったらわがままね」


 おい、俺の歌も聞いてくれ。ツッコミを入れたくなったが、里沙の歌を聴きたいという意見には同意であるため、俺は何も言わなかった。


 里沙が次の曲のサビに入ろうとした瞬間、部屋の扉が開いた。

 店員さんが食べ物を持ってきたようだ。


「お待たせしましたー。ご注文の品です」

「はーい。ありがとうございます」


 どうやら亜子がいつのまにかフライドポテトを頼んでいたようだ。

 これに対して里沙は苦笑いをしながら固まっていた。

 ああ、店員さんが入ってきて恥ずかしかったのか。気持ちは痛いほど分かる。


「あ、鈴木君じゃん! お久しぶりー。元気してた?」


 料理を運んできた店員さんは高橋さんだった。やっぱりいるじゃないか。


「お久しぶりです。帽子を被っていて、誰だか気づきませんでした」

「今日は厨房メインで入ってるの。毛髪混入防止の意味も込めて、帽子の着用が義務づけられてます! あ、駄洒落じゃないよ」

「な……なるほど……。相変わらずお忙しそうですね」

「ほんっとにね〜。最近、ライターのバイトも始めたのよ」

「凄まじいバイタリティですね。お仕事頑張ってください!」

「うん、夢に向かって頑張るよ! ところで……」

「何でしょうか」


 高橋さんは里沙と亜子をそれぞれ一瞥した。そして、ニヤリと笑った。


「今日は奈美恵ちゃんと一緒じゃないんだね……」


 高橋さんはそう言って帽子のつば持ち、クイっと直し、「ごゆっくり〜」と素早く部屋を出て行った。


「知り合い?」


 里沙はマイク越しにそう聞いてきた。いつの間にか、彼女の入れた曲が終わっていた。


「おう。ちょっとな、色々あって」

「気になる! 気になる!」


 亜子は勢いよく立ち上がり、興味津々の様子だ。


「まあ、色々あったんだ」


 俺がそう答えると、里沙はジト目で俺を見た。


「またそうやって蚊帳の外にして……」


 どうやら文句有り有りでご立腹のようだ。


続く

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