表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
恋の刺客と愛の資格編
127/177

122 愛を込めて

 里沙は深呼吸をしてこう言い放った。


「私の手の甲にキスをしなさい」


 彼女は俺の目の前に右手の甲を差し出してきた。

 そうきたか。靴にキスをしろと言われなくて一安心だ。しかし、どうにも恥ずかしいがな。


「本当にいいのか……?」

「もう後戻りはできないわ」

「ほっぺとかでも良かったんだが」

「こんなところでそれはダメよ!」

「こんなところじゃなかったら良いということで?」

「い……良いわけないでしょ!」


 里沙は顔を真っ赤にし、とても恥ずかしそうにしていた。


「ははは! ちょっとからかっただけだって」

「馬鹿っ……!」


 俺にからかわれてまだ恥ずかしそうにしていた里沙の手を取る。

 心なしか彼女の手まで、火照っているように温かかった。


「い……いくぞっ……!」

「っ……!」


 俺の心臓が強く脈打つ。手のひら越しに極度の緊張が伝わってないか心配だ。

 雪のように透き通った里沙の白い手が眼前に迫り、改めて彼女の美しさを思い知ることになった。

 俺の口と里沙の手の甲まで残り数センチ、もう後戻りできないという彼女の言葉が頭に響く。

 そして、とうとう俺は里沙の手の甲にキスをした。

 触れたのはほんの一瞬であったが、彼女と心の距離がさらに縮まった気がした。


「これで……いいのか……?」

「……」


 里沙は俯いたまま無言を貫いた。

 俺も彼女の様子につられて、しばらく何と声をかけていいか分からなかった。


「大丈夫か……?」

「手……」

「え……?」

「いつまで握っているの?」

「あ、ごめん」


 俺はお姫様の手を取る王子のように握っていた手を離した。

 その後もしばらく、彼女の手の感触が残っているようで不思議な気分だった。


「ありがとうございました! それでは、プレゼントをお渡しします」


 おっと、一瞬のうちにお姉さんの存在を忘れていたぜ。そういえばフィギュアが欲しくてイベントに参加したのだった。

 俺たちはフィギュアの入った袋を受け取り、お姉さんに手を振られながらその場を後にした。


「次はお土産を見に行こう」

「そうね……。さっきのだけど……」

「さっきのって……。キスのことか?」

「ええ。あれは主従の誓いみたいね」

「どういうことだ?」

「私が主君で宏介が家来ってこと。永遠に仕えなさい」

「急に何を言い出すかと思えば……。俺にそんな趣味はない」

「ふふふ。私には逆らえないわ」


 里沙の下僕。

 それも悪くない気がするが……。


「えー……。やっぱり俺は自由でありたい。それに永遠って一生従わないといけないじゃないか」

「当たり前よ」

「何だそれ。ある意味告白みたいだぞ」


 その瞬間、里沙は瞬間接着剤で固められたかのように歩みを止めた。

 そして、手をばたつかさながら慌てふためきだした。


「ちょっと……! やっぱり今のは、なしよ!」

「へー。家来じゃなくてもいいのか?」

「とにかく、私は何も言ってない!」

「はいはい。何も聞かなかったことにしておくよ」


 里沙はハァハァと息を荒げいた。ははは、よっぽど焦っていたらしい。


「ふぅ……。考えてみれば、宏介は昔から下僕みたいなものだったわ」

「おいおい、さらっと怖いこと言うなよ」

「不服かしら?」

「いえ、滅相もございません」


 嗚呼、やっぱり里沙には逆らえないなあ。

 昔のやんちゃな彼女も恐ろしかったが、今の清楚な彼女から漂う王者の風格も恐ろしい。むしろ今の方が雰囲気出ている気がするぜ……。

 お座りって言われたらお座りしてしまいそうな勢いだ。

 いっそのこと内田に習ってお姉様とでも呼んでみようか。


「さあ、お土産を買いに行こうぜ、里沙お姉様」

「何よその麻衣みたいな呼び方」

「それらしく呼んでみた」


 すると里沙はクスクスと上品に笑ってみせた。ついさっきまで息を荒げて慌てていたとは思えないぐらいだ。


「ふふ。宏介にそう呼ばれるとくすぐったくてしょうがないわね」

「どうだ? これからもずっとそう呼んでみようか?」

「やめて。宏介には呼び捨てにしてもらわないと嫌よ」

「なるほど、そうか」


 里沙の発言をそれとなく受けた俺だが、実は内心ドキドキしていた。というのも、「呼び捨てにしてもらわないと嫌よ」という里沙の言葉が心に響いてたのである。



 さて、ようやくお土産をみているが、亜子に何を買っていこうか迷うな。お菓子にしようか、ぬいぐるみにしようか、小物にしようか。

 イルカの形や貝の形をしたクッキーが可愛らしい。いや、ペンギンのぬいぐるみも捨てがたいが、亜子にとっては対象年齢外かもしれない。奥の棚に陳列されたパズルも綺麗で挑戦のしがいがありそうだ。

 俺はお土産の豊富さに苛まれて、いつの間にか里沙とはぐれていた。結構広いお土産コーナーで人も大勢いる。パッと目につくとこには、いないようだ。


「よっ! 楽しめたか?」

「わっ! びっくりした!」


 不意打ち気味に声をかけてきたのは佐々木部長だった。


「あれ? 柚子先輩は一緒じゃないんですか?」

「柚子はトイレにお手洗いだ。そっちこそ関野はどうした?」

「はぐれました」

「さすがおっちょこちょいコンビ」


 迷子じゃないからセーフです。俺と里沙は、はぐれたと思っていても必ず一緒になりますから。


「ところで部長、その袋はタツノオトシゴフィギュアですよね?」

「いかにもそうだ。鈴木もイベントに参加したのか」

「そうです……。部長はどこにキスをしたんですか?」

「む、それを聞くか。お互い秘密といこうじゃないか」

「えー。俺も教えますから部長も教えてくださいよ。二人だけの秘密にしますから」

「無粋な男はモテないぞ」


 気になる!

 気になりすぎておかしくなりそうだ。

 嵐ヶ丘高校の異常なほど早い情報を流す奴らもこんな気持ちに違いない。


続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ