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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
恋の刺客と愛の資格編
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119 恍惚サタデー

 ズッシリとした重みが俺の安眠を妨げる。


「お兄ちゃん起きてー!」


 布団の中が心地よい季節だというのに、ベッドで横になった俺の体の上に亜子がのし掛かり、邪魔をする。


「時間だよー!」


 眠気まなこを擦りながら眼前に迫った亜子の顔を押し上げながら体を起こした。


「わぷぷ……! やっと起きた!」


 そのまま亜子をじーっと見つめて頭が冴えるのを待つ。


「おはよう、お兄ちゃん。早くしないと遅れちゃうよ」

「今何時だ……?」

「7時」

「まだ寝れるじゃん!」

「もう! シャキッとしなきゃ!」


 今日は里沙と一緒に水族館へ行く日。

 集合時間までまだ時間があるが、なぜか俺より張り切る亜子に無理やり起こされた。

 とりあえずベッドから降りて寒さに身を震わせながら伸びをした。


 さてと、せっかく起こされたんだ。顔でも洗いに行きますか。

 顔を洗い覚醒しきった俺は着替えるために部屋へ戻ると、亜子が布団を被り寝ていた。


「何やってるんだ……?」

「眠たくなってきたから寝ているの」

「それは見れば分かる。なぜまだここにいるのか聞いているんだ!」

「部屋に戻るのがめんどくさい!」


 その布団は俺の聖地。鳥の巣と同じく誰かに荒らされては安眠ができなくなる。何人たりとも侵入は許されない。


「着替えるから部屋を出てくれないか?」

「はぁ……。お兄ちゃんの温もりが残ってて温かい」


 駄目だ。話を聞いちゃいない。

 亜子は猫のようにどっしりと布団の中で眠りに入ろうとしていた。

 俺は彼女を布団から引き離そうと、掛け布団を思いっきりめくった。


「ああーん! 寒いー」

「早く出て行くんだ。お土産が無しになるぞ」

「ごめんなさーい!」


 水族館のお土産無しという脅しのおかげで、亜子は部屋から一目散に飛び出した。

 やれやれ、朝から元気な奴だ。我が妹ながら感心するぜ。



 騒がしくも愉快な休日の朝を過ごした後はいよいよ出陣だ。

 最近買ったばかりのコートを羽織り、少し気合いを入れる。

 財布に入れたチケットの確認もばっちりだ。

 クローゼットの扉の裏に着いた姿見でもう一度今日のコーディネートをおさらいする。

 髪も乱れていないし、顔色も問題なし。

 気分はまるでファッションショーを間近に控えたモデルのようだ。


 玄関を出ると、同じタイミングで里沙も隣の家から出てきた。

 彼女の清楚な様にいくらか心ときめいてしまう。いつもよりほんのり赤い唇は化粧をしているのだろうか。


「宏介が早く出てくるなんて珍しい」

「俺も適応したんだよ」


 作戦成功。いつも約束の時間より早めに待っている里沙に合わせてみたが、ぴったしだったな。

 マンションをでると駅に向かい電車に乗った。

 水族館は長谷駅とは反対方向になるため、いつもと反対方向へ向かう電車だ。

 普段使うことがないため新鮮な気分だが、特に面白い景色が見られるというわけではない。

 暖房のおかげで少し暖かめの車内は眠気を誘う。

 亜子に起こされた影響が早くも出そうになったところで、隣に座っている里沙に話しかけられた。


「もうすぐテストね……」

「そうだな。今回も頑張るぜ」

「亜子も一緒にまた勉強会よ。今回も覚悟しておいて」


 里沙の目に灯ったやる気の炎は消えそうにない。

 こいつはまたスパルタ教育が繰り広げられそうだ。

 そして、話題はテストからとあるイベントに移った。


「テストが終わったらあっと言う間にクリスマスよ」


 クリスマス。

 年に一度やって来る誰もが知るイベント。サンタクロースは最初から信じていなかったが、赤い服の白ひげおじさんがどこからともなく登場するという妄想は今でも捨てがたい。夢があっていいじゃないか。誰だってプレゼントをもらったら嬉しいだろう。


 俺は去年テレビで見たコマーシャルを思い出した。「今年のクリスマス、誰と過ごしマス?」というセリフでもって有名な女優が視聴者に問いかける形式だ。

 洒落がきいててユニークだとちょっとしたブームになったが、当時リア充とかけ離れていた俺にとって嫌味にしか聞こえなかった思い出がある。

 きっと俺以外のモテない男子たちだって「リア充爆発しろ」と叫んだり、リモコンをテレビ画面に向かって投げたくなったに決まっている。


 それでクリスマスについてはできるだけ考えないようにしようと思っていた。

 ひょっとして今年は何か違うのか……?


「クリスマスがどうかした?」

「いつもどうやって過ごしているの?」

「特に変わったことはしていない」


 ぐすん。俺だって友達とパーティとかしてみたかったさ。


「そう……」

「何が言いたいんだ!?」

「ちょっと聞いてみただけ」


 俺は里沙から発せられる一語一句にドギマギしてしまった。

 今年のクリスマスこそは俺だって……!


 こうして遠いようで近いクリスマスに思いを巡らせながら煮え切らないでいると、電車は水族館に最寄りの駅へ到着した。

 駅自体も小さく目立ったお店もない。駅構内から出てみてもお店が軒を連ねているわけでもなく、いたって普通の街並みだ。

 少し遠くに水族館らしき建物が見える。綺麗に整備された歩道を親子連れやカップルが歩いている。

 水族館自体は人気があるようで、通りはそこそこの人で賑わっていた。

 俺たちも点在する看板に従い、群衆に紛れて水族館へと足を進める。駅を出てから里沙は水族館の話しかしてこない。楽しみで仕方ないようだ。


続く

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