118 一件落着?
ミヤト先輩は由香の爆弾発言を聞いて、後ずさりをした。
「なっ……! 羨ましい!」
由香はそんなミヤト先輩の様子を見てニコッと笑うと彼に質問をした。
「もう過激なことはしないって約束しますか?」
「します!」
「じゃあ、今日をもってあなたたちのファンクラブは解散で」
「ええええええええええ!?」
由香から突然の解散宣言を受けたミヤト先輩はじめファンクラブ会員は驚きの声をあげた。
由香よ、それはいくらなんでも残酷すぎやしないか。
「姫!? なぜそんなことを言うのですか!?」
「まだ続きがあります。今日をもってあなたたち一同は公認のファンクラブ会員です!」
「ええええええええええ!? 良いんですか!?」
「もちろん! その代わり皆んなで仲良くしてくださいっ!」
「はいいいっ!」
そういうことね。つまり、由香は過激なファンクラブをなくしたわけだ。
ん? 待てよ。こうなると、俺とミヤト先輩が一緒に属することになるが……。
「鈴木、何の縁があってかお前とは一緒のファンクラブ会員だ。よろしく頼む」
「は……はい……」
「そうだ! 俺はもう卒業が近いし、団長はお前がやってくれないか」
「俺がですか!?」
「賛成でーす!」
由香はミヤト先輩に賛成をした。
「ふっ。姫もそう仰られていることだ。頼んだぞ!」
「は……はぁ……」
どういうわけかファンクラブの会長にされたぞ。
由香の手前断るのも怖いし……。
名ばかり会長になってしまいそうだが仕方あるまい。
「宏介、何だか大変そうね」
「完全に嵌まったな。というか、里沙も由香ファンクラブの一員だからな」
「えっ!? 私も!?」
里沙は由香の方を見ると、由香は大きく頷いた。
「私の知らないうちに決めないでよ……」
「やだやだ! 由香も私のファンクラブ会員じゃなきゃダメ!」
「しょうがないわね……」
どっちが年上なんだか。
そんな俺たちに取り残された倉持は少し拗ねていた。
「私も入りたいなぁ……」
「おし、じゃあ倉持も入会で」
「本当!? やったー! 宏ちゃん大好き!」
倉持は嬉しさのあまり俺の肩をバンと力強く叩いた。
やれやれ。すっかり全員由香のペースに持ち込まれたな。
おかげで助かったけど。
「はーい! 皆さん帰りましょう」
由香の一声でその場は解散となった。
これにて一件落着だと思いたいが、腑に落ちない結末だ。
由香ファンクラブの会長に物申すつもりが、なぜか俺自身が会長になっていた。
何を言っているか分からないと思うが、俺も分からない。
などと、どこかのフランス人みたいなことを思ってみたりして。
翌日の昼休み、内田に呼び出された俺は進まない気を鞭打って屋上へ向かった。
この時期の屋上は寒い。冷たい風が体を芯から冷やしてくれる。
彼女は全く気にしていないようだが、そのスカートとやらは寒くないのか。
「話は聞いたわよ。黒坂由香ファンクラブの会長になったようね」
「だから誰に聞いたんだよ! まあ、事実だけど……」
「ここに来て裏切ってくれるとは、私は悲しいわ」
「裏切ったつもりはない」
「思いに対して行動が伴っていないわ。てっきりお姉様が一番だと思っていたけど」
「ああもう! 里沙も可愛いけど、由香も可愛いよ!」
……はっ!? 何ということを言わしてくれるんだ。
「あはは! 欲張りね。本人たちに聞かせてあげたいわ。きっとこっちが萌え死ぬような反応を見せてくれるはずよ」
「全く、変に乗せるのはやめてもらいたい」
「素直に生きるべきだわ。何はともあれ会長同士仲良くしないとね、漆黒騎士団団長さん」
「その呼び方はやめてくれ。中二病はミヤト先輩だけで十分だ」
ひとしきり会話を終えると、屋上から戻ることにした。
内田が歩いた瞬間、足を挫き俺に向かって勢いよく転んできた。
男っぽい性格と言ってもやはり女の子。怪我をさせないように俺がクッションになりながら一緒に転んだ。
痛みと共に彼女の柔らかい感触と甘い匂いも受ける。
不覚にもドキッとしてしまった自分が悔しい。なぜか負けた気分だ。
「ご……ごめん……」
内田は謝った。
俺は起き上がりたかったが、内田が退いてくれない。
痛みも引き、状況を把握したが非常にまずいことが分かった。
顔に接する感触がやけに柔らかいと思ったら彼女の胸部が当たっていたのだ。
意外と、何ていったら失礼だが、たわわな果実に顔が圧迫されている。
「ふが……ふが……」
俺は「退いてくれ」と言ったつもりだが言葉になっていなかった。
「きゃっ……!」
内田も状況把握をして、すぐさま起き上がった。
彼女の顔は耳まで真っ赤になっていた。そりゃあ俺も恥ずかしいから、尚更だろう。
「触ったわね……」
「触ってない! 不可抗力だ!」
「まあ、助けてくれたお礼に見過ごしてあげる」
「へい」
「……」
「どうした?」
「まだ時間があるわね……。ちょっと話しても良い?」
何やら真剣な顔をしているが、一体どうしたのだろうか。
俺と内田は壁際にもたれて座った。
「私は鈴木に感謝しているわ」
「怪我がなくて良かったな。感謝という意味では俺も……」
「そっちじゃないわよ!」
「なるほど」
「前に私が泣いたことがあったでしょ?」
「ああ、よく覚えている」
「昔いじめられてたことがあって……。私は人に否定されることがトラウマになっていたの。暗い人生を歩んできたわ」
「それは……すまなかった」
「ううん、仕方ない。それでね、お姉様を見て人生に光が差し、鈴木に会ったことでありのままの自分を再び出せるようになったの」
「俺と里沙のおかげなのか……?」
「そうよ。あれだけぶつかり合えたのは鈴木が初めて。最初はやってしまったと思ったけど、結果的には友達になれてお姉様とも仲良くなれて。私は幸せ者ね」
確かに酷い言われようだったが、内田は内田なりに悩んでいたんだな。
「それが俺でよかったかどうかは保証できないけどな」
「鈴木じゃなきゃダメよ。私の直感がそう言っているわ。あなたに出会えて良かった」
お日様の輝く青空の下、最初に内田と屋上で出会った時より彼女が爽やかに見えた。
ああ、青春ってこういうことか。これは友情に近い。男女間の友情は成立しないって言うけど、俺はそんなことないと思う。
内田は立ち上がり、スカートの誇りを払ってから屋上の扉に手を掛けた。
「話を聞いてくれてありがとう。戻りましょう」
俺も立ち上がり、一緒に屋上を後にした。教室に戻ると昼休みも終わりで、午後の授業が始まった。
昼食後の授業は眠いが、テスト間近のため気合いを入れている。
里沙の教えなど要らないと言えるほど頑張ってやる。自分自身の力でトップを目指したい。
放課後、笹川は一目散に俺の元までやって来た。
「今日は部活に来るよなー!?」
笹川の勢いに俺は驚いた。
「あ……ああ。行くよ」
「最近出席率悪いから、皆んな寂しがっているぞ!」
「そうか……。色々あったからなぁ」
「鈴木がいない時は里沙もいないことが多い。部内では怪しいって言われているんだなー」
説明すると長くなりそうだな。ふっ、何とでも言うがいいさ。
部活に行くと佐々木部長が開口一番、由香ファンクラブについて言及してきた。
「よっ。漆黒騎士団団長!」
俺は鞄を机に置きながらぼやいた。
「部長まで……。その中二病な呼び方はやめてくださいよ」
「なぜだ? かっこいいじゃないか」
サボテンと戯れていた柚子先輩がこちらに向かって手を振ってきた。
「由香から話は聞いたよ。あのファンクラブを締め上げているって」
「えぇ……」
まさか由香は有る事無い事を吹聴しているのではないだろうな。
「本当にお前はすごいよ。歌姫ファンクラブと言えば風紀委員会から一目置かれるほど風紀を乱すとされていたんだけどな」
「何ですかそれ。初めて聞きましたよ。それに、風紀委員会って有るんですね」
佐々木部長から聞いた情報の量が多すぎて何から聞けばいいのやら。
「もちろんあるさ。ちなみに氷の風紀委員長と呼ばれるほど風紀委員長は厳しいらしい」
「絶対に関わりたくないですね」
「お前の行動次第だな」
「大丈夫ですよ。もう過激なことはさせませんから」
「うむ。その心意気だ!」
佐々木部長は眼鏡をクイっと直して神妙な面持ちになった。
「ところで、アンジェちゃんはSF研究部に入ってくれそうか?」
「彼女ならまだ色々とまよっているそうです」
「ぜひともよろしく頼む! 俺は彼女を一目見た時から運命を感じていたんだ」
佐々木部長の発言を聞いた柚子先輩はサボテンのお世話をピタリと止めた。
そして、佐々木部長に反芻するように聞いた。
「運命を感じていたって……?」
ゲームをしていた秋葉と笹川も手を止め、その場にいた全員の視線が佐々木部長に集まる。
「海外のオタク少女なんて素晴らしいじゃないか! ぜひとも国際交流をしたい!」
「確かにコスプレ大会の時、亮君のテンションは凄かったもんね」
「そう言われると恥ずかしいな」
「尋常じゃなかったよ」
「あのエルフの完璧さといったらこの上なかった。惚れたね」
「ふーん……」
あ。SF研究部内に変な空気が漂う。
秋葉と笹川も「あちゃー」と言いたげな顔をしていた。
そんな中、ちょうど里沙が遅れてやって来た。
「お疲れ様です……。って何ですかこの雰囲気」
「お疲れ様〜。何でもないよ」
柚子先輩が笑顔で里沙に挨拶をした。
その笑顔が怖いのですが。
「ん? 何かいけないことでも言ったか?」
佐々木部長も変な空気に気づいたらしいが、本質までは捉えきれていないようだ。全く、あなたという人は。
とまあ、いつもの調子で部活を楽しむ。この安心感。ここはおれにとって第二の故郷だ。
続く




