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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
恋の刺客と愛の資格編
122/177

117 中二病は暗黒期

 公園内を歩いて少しのところに目的の噴水はあった。

 花をかたどるように軽やかに水が踊っている。

 ちょうど噴水が落ち着いたタイミングで俺とは反対側に人がいることが分かった。

 その人も俺に気づきこちらを確認すると「あっ」という顔をした。

 そして、ゆっくりと俺の方へ向かってってきた。


 その人は嵐ヶ丘高校の制服を着ており、俺を呼び出した当の本人だとすぐに気づくことが出来た。

 少し長髪の彼の第一印象は不良っぽい。普段は実力を隠しているが、どこか余裕があり、本気を出すと滅茶苦茶強いという設定が似合いそうだ。

 一歩、また一歩とこちらに歩み寄ってくる。

 さあ、どうでる? 緊張の一瞬がやって来た。


「鈴木宏介で間違いないな?」

「おう! 間違いない!」


 少し強気でいってみた。


「俺は黒坂由香様が眷属、嵐ヶ丘高校三年のミヤト。お前のおかげで我らが騎士団に暗黒時代が訪れん」


 けんぞく……?

 きしだん……?


「くそっ……! 鈴木を見ると目が疼く」


 ミヤト先輩は右目を抑え、プルプルと震え出した。

 こいつはヤバい。俺とは住んでいる世界が違うらしい。


「あの……大丈夫ですか……?」

「うっ……! お前の声の瘴気に当てられて今にも暴走しそうだ」


 おーい。頼むからこっちの世界に帰ってきてくれないか。

 これはいわゆる中二病。高校生にもなって遅れてやってきたか。


「くっ……! 静まれっ!」


 ミヤト先輩はポケットからお菓子のミントタブレットを取り出すと、一粒口に入れた。


「はぁ……はぁ……。これがなかったら今頃お前は闇の中だ」

「……」


 返す言葉が見つからない。

 もう帰っていいかな?


「果し状を入れたのはあなたですか?」

「ふっ。いかにも俺だ」

「いったい何のために入れたんですか?」

「契約を結んでもらうためだ」

「契約……?」


 ミヤト先輩は制服の袖を捲った。

 すると、包帯の巻かれた腕が露わになった。

 あちゃー。完全にイかれてますね。


「これは我が黒炎の腕。この腕には悪魔が宿っている」

「は……はぁ……」


 彼はスルスルと包帯を解いた。

 そして、腕には炎の絵が描かれていた。

 黒と赤のマジックペンで書かれた絵は、お世辞にも格好良いとは言えない。


「どうだ、怖気づいたか?」

「……」

「ふっ。恐怖で言葉も出ないか。この腕に宿る悪魔に誓ってもらうぞ」

「何をですか?」

「金輪際、姫に近づかないということを」

「は?」


 何を言っているんだこの人は。姫って言うのは、つまり由香のことだろう。近づくなと言われましても無理なお願いだ。


「一から説明してもらってもいいですか?」

「俺たちとは次元が違うというわけか。仕方あるまい……」


 今すごく馬鹿にされた気がするのは気のせいだろうか。


「俺は由香様に仕える漆黒騎士団の団長だ」

「ファンクラブの会長ですね」

「今日は騎士団を代表して悪魔の契約を締結しに来た」

「俺に言いたいことがあるんですね」

「姫に近づかないということを誓え!」

「なぜですか?」

「穢れが移るからだ」

「穢れ……?」

「関野里沙という伴侶がいながら姫を誑かすお前が憎いっ……!」

「それは言いがかりですよ」

「何だと!? あろうことか、大衆の前でベタベタとお互いに体を密着させながら一緒に昼食を食べさせ合ったというのに!? それを言いがかりだと!?」


 嵐ヶ丘高校の情報網は訳が分からない。伝達スピードは早いし、説明するのに手間がかかりそうなほど脚色もされている。


「誰から聞いたんですか!? それは嘘ですよ!」

「何と罪深き男! 一刻も早く姫との繋がりを断たなければ!」


 もう駄目だ。埒があかない。


「帰ってもいいですか? 俺のことは何とでも言ってください。でも、巻き込まないでください」


 俺はミヤト先輩に背を向け、公園を去ろうとした。

 噴水の周りでは小鳥が羽を休めている。

 のどかな公園に中二病の男。何ともシュールな光景である。


「待て! まだ契約は終わっていない」

「契約とか言われても、俺にはそんなの結べません」

「よかろう。かくなる上は……!」


 ミヤト先輩はスマートフォンで時間を確認すると、辺りを見回した。


「よかろう。かくなる上は……!」


 同じセリフを放ち、再び辺りを見回した。


「あれ!? ルシファーの予言と違う!」


 またよく分からない厨二語が使われた。

 この人はどこを目指しているのだろうか。


 少し遠くが騒がしくなったと思ったら、こちらに向かいひとりふたりと誰かがやって来た。見た感じ三名以上はいる。


「おかしい。多すぎる」


 ミヤト先輩は目を凝らしてその影たちを確認した。

 そして集団が近づいて来た時、まさかまさかの登場人物に俺も彼も驚いた。


 先頭に由香本人、それから里沙と倉持、最後に男子二名と続いていた。


「援軍を召喚したはずなのに……!?」


 どうやら、ミヤト先輩の先ほどのセリフは援軍に対する合図だったらしい。

 でも見事に失敗しているし、なぜか本人までいるし、現場はカオスになりそうな予感。


「すみません、ミヤト先輩! 計画は失敗です!」


 ファンクラブの会員らしき男子がミヤト先輩に誤った。


「ふっ。その身が無事ならいいさ。ところで、そちらに在わするはゆ……由香様……!?」

「はじめまして。話はあなたのお仲間から聞きましたよ」


 由香は少し機嫌が悪そうだった。

 ミヤト先輩と由香が対峙する一方、里沙と倉持は俺の隣まで駆け足でやって来た。


「宏ちゃんごめん。色々あって」


 倉持はそう謝ったが、さしずめ果し状が気になって隠れて監視するつもりだったのだろう。


「私と咲でここに来ようとしたの。そしたら由香と偶然会って、一緒に来たらこの通りよ」


 里沙もややこしいことをしてしまったと言いたげな顔をしていた。


「ファンクラブがあるのは嬉しいけど、あまり過激なことをするなら私は認めません!」

「なっ……!?」


 ミヤト先輩は由香本人にファンクラブの存在を否定されショックを受けていた。

 当の本人にそんなことを言われたら、それはどれほど悲しいか。


「とにかく私と宏介と里沙は昔から仲が良いんだから、その関係にまで口出ししないでください!」

「はい……。申し訳ございません」


 ミヤト先輩はかなり萎れてしまった。まるで水分のなくなったレタスのようだ。


「鈴木、俺が悪かった。もうしないから許してください」

「はい。もう過激なことはしないでください。ファンクラブの存在自体は良いと思うので由香のことを応援してやってください」

「鈴木……! おまえってやつは……!」


 何も存在自体を否定することはあるまい。活動方法の問題であって、由香のことを好きでいてくれる奴らがいるのは嬉しい。


 由香は俺たちの様子に笑顔で答えてみせると、爆弾発言をした。


「ちなみに、私の公認ファンクラブもあります! もちろん宏介も会員です!」


 ちょ、ええ!? 今このタイミングでそれを言う!?

 果し状問題が終わったと思ったらまた別の問題が浮上しそうだ。


続く

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