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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
恋の刺客と愛の資格編
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115 ようこそ来訪者さん

 その日の放課後まで、結局アンジェとは話さずに一日を終えた。

 途中、彼女は俺と秋葉が気になるようで、チラチラとこちらを確認してきたが、クラスメイトからの質問攻めに手一杯であった。

 もどかしいが、仕方なし。秋葉の秘密を守ってやらねば男の恥。


「宏くん、部活行こっか」

「いいのか? アンジェに説明しなくて」

「今日はいいかな……」


 秋葉は少し寂しげな様子だ。


「ガチの外国人が転校してくるとはなー」


 笹川が相も変わらず、しょぼくれていた俺たちを励ますように会話に交じってきた。


「俺たちもびっくりしたよ」

「知り合いだったんでしょ? どこで知り合ったの?」

「ちょっとな、出先で知り合ったんだ。偶然な」

「むむむ。 怪しい!」

「何がだよ……!」


 ひとしきり、笹川とのコミュニケーションを終えたところで、部活へ向かうことにした。

 教室を出ようと、扉に手をかけた瞬間、アンジェが話しかけてきた。


「宏介! 奈美恵! ずっと話したかったよ!」

「やあ、どうも……」


 秋葉はササっと俺の後ろに隠れ、どこかの家政婦が柱の陰から事件を見るかのごとく、アンジェに警戒心を立てている。


「奈美恵? ドウシタノ? 私のこと嫌い?」

「ううん。その……恥ずかしくて……」

「オーエムジー! 恥ずかしがらないでください!」

「ううぅ……」


 秋葉が小動物のように縮こまっている。

 そして、俺の背中に顔を埋めた。


「一体どうしたのでしょうか……。土曜日はあれほど……」

「オホン! 昨日のことは、この後ゆっくり語ろう!」


 危ない! 教室で皆んなに聞こえるように話されたらお終いだ。


「そうだ! アンジェにぴったりな部活があるからそこに行こう!」

「部活? クラブのこと? それなら私はスポーツが……」

「とにかく行こう! やろうと思えばスポーツもできる。候補にでもしてくれ!」


 こうして、俺たちはそそくさと教室を後にした。

 笹川の「何をそんなに焦っているんだ?」という突っ込みを無視しながら。頼むから察してくれ!


 今のところ秋葉がオタク少女であるということを知っているのは、SF研究部のメンバーだけである。

 秋葉にとって、嵐ヶ丘高校内の聖地と言えば、SF研究部ということになる。


 アンジェを連れてDルームへ入ると、見慣れぬ顔に一同驚いていた。

 その中で一番驚いていたのは、やはり里沙だ。


「ア……アンジェ!?」

「あー! 里沙もいる!」


 アンジェは、とても嬉しそうにしている。彼女に対してのサプライズだ。


「なるほど。コスプレ大会勢というわけか」


 佐々木部長の口からコスプレ大会というワードが飛び出した。


「部長、ひょっとして来てましたか?」


 里沙は恐るおそる部長に確認をした。


「もちのろんよ! 俺がそんな楽しそうなイベントを逃すと思うか? そんなわけない! ということで、三人の勇姿は見届けたぞ!」


 来てもおかしくないですよね、佐々木部長ですから。

 それならそうと、大会終了後に声でもかけてくれれば良かったのに。


「三人とも可愛かったよ。まさか優勝した子がここにいるなんて信じられないけど」


 柚子先輩も一緒だったのですね。仲睦まじくて微笑ましいぜ。


「ありがとうございます! 私はアンジェと言います。以後、オミシリオキ!」

「俺はSF研究部の部長、佐々木だ! よろしく!」

「私は、椎名です。よろしくね」


 さて、そろそろ例の説明を始めようか。

 秋葉も俺にチラチラと視線を送り催促しているからな。


「アンジェ、さっきは急かして悪かった。一つお願いがあるんだ」

「お願い?」

「そう。秋葉がオタク少女だということは俺たちだけの秘密にしてもらいたい」

「秘密ですか? 可愛いのに、勿体無いです」

「いや、まあ、それはそうなんだが……。本人が恥ずかしすぎるらしい」

「シャイガール! そーなんですか! そうとは知らずにさっきはごめんなさい」


 アンジェは秋葉に一礼をし、詫びを入れた。

 日本の伝統技を習得されているようで。


「ううん。私の方こそモジモジしちゃってごめん」

「ああ! 奈美恵〜!」


 アンジェは秋葉とハグをし合った。

 これが海外流挨拶というやつか。


「じゃあ私は他のクラブも見てきますので! サヨナラ!」


 SF研究部一同でアンジェに手を振り、部屋を出て行くのを見送った。


「おおお……! 異文化交流をしてしまった!」


 部長はワナワナと手を震わし、感激していた。

 きっとこの部活に入っても彼女なら上手くやっていけるはず。

 入部届け、いつでも待ってるぜ!


「決めた。英語を教えてもらお……」

「ん? 何か言ったか?」

「何でもない!」


 笹川が何か呟いた気がしたが、気のせいだったかな?



 翌日、昼休みにそれは起こった。


 俺はいつものように、山内と一緒に二人で昼食を摂っていた。

 秋葉はと言うと、笹川とその友人たちと一緒に昼食を摂っている。

 クラスに馴染み、友達も増えたみたいで良いことだ。俺は寂しいがな……。


「今日もお腹ペコペコだよ」


 山内がフラフラと椅子を持って俺の席へやってきた。大げさなやつだ。

 かくいう俺も、お腹はペコペコである。

 よいしょっと……。鞄から弁当を取り出すと蓋を開け、今日のメニューを確認した。

 そして、箸をはこから取り出し、玉子焼きを掴んだ時、教室内が一瞬静まり返った。

 何事かと思い、クラスの視線が集まる先を確認すると、そこには由香が購買で買ったであろうパンを抱えて立っていた。


「いた! 宏介!」


 由香はズカズカと我らが教室に足を踏み入れて、俺の隣までやってきた。

 突然の上級生、しかも歌姫という存在に緊張感が漂っている。


「お昼、一緒に食べよっ!」


 由香は教卓の下に置いてある椅子を持ってくると、机にパンと飲み物を置いた。


「ひょっとして僕はお邪魔かな?」


 山内は気を使ってか、席を立とうとした。


「そんなことはない。な、由香?」

「うん! 今日は交流を深めに来たの!」


 由香はパンをかじる前に紙パックのジュースを一口飲んだ。

 そして、笑顔でパンの封を開け、パクリと口に運んだ。

 やはり女の子。一口が小さく、その仕草にドキッとする自分がいる。


続く

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