113 世界コスプレ大会決勝
「可愛かったぞー!」
「さいこー!」
Bブロック出場者たちが退場する中、観客から声援が送られた。
結果が出ると嬉しいものである。
俺が何かやり遂げたわけではないが、里沙が勝ち上がってくれて本当に嬉しい。
心の中の俺が飛び跳ねている。このまま優勝まで突き抜けて欲しい。
しかし、秋葉のことも考えると、感情が心のダムによってせき止められもする。
やはり、何とも表現できない複雑な気持ちである。
さて、次はCブロック。秋葉の登場だ。
今までと同じように大会は進み、秋葉のアピールタイムとなった。
秋葉は笑顔を振りまきながら前に出てきた。
人見知りのはずが、慣れた様子でいられるのは、コスプレに魔法でもかかっているせいか。
これが俺たち以外の誰かに見られたら、「あぅぅ……」と小動物のように鳴き、逃げ去ってしまいそうだ。それはそれで、可愛らしいがな。
「うおおおおおお! 秋葉ちゃーーーーん!!」
等々、野太い声援がいくつも上がった。
どうやら、秋葉のファンが何人かいるようだ。あれか。コスプレ喫茶時代に定着したファン層か。
秋葉は、声援に応えるように手を振り、セリフを喋った。
「今日は来てくれてありがとう! 私が魔法使いなのは、クラスの皆んなには内緒だルン!☆」
出ました、名ゼリフ。
色々と危険なセリフのようだが、お構いなしだ。人差し指を口に当て内緒のポーズを取っているが、可愛らしさなのか、あざとさなのか、どちらか分からない。
秋葉のアピールを恥ずかしいやら、感心の気持ちやらで眺めていたわけだが、途中で彼女と目があった。
それから、俺に向かってウインクを飛ばしてきた。
ははは。ノリノリじゃないか。オタク少女秋葉として調子が出ており、見ているこっちも楽しくなる。
そんな秋葉の様子を見て内田は、俺に問いかけてきた。
「ねぇ……。今、鈴木に向かってウインクしたけど、私の勘違いかな?」
「その推測は正しいはずだ。絶対に目が合った」
「ふぅん……。鈴木と秋葉さんってどういう関係なの? その……ストーキングのおかげで仲がいいのは分かってたけど……」
「どうって……。とても仲の良い友達……だな」
「果たして男女の友達同士で手を握り合うの?」
ドキッ。
内田の問いかけに対し、心が敏感に反応した。
今までの秋葉との思い出が、走馬灯のように頭を駆け巡った。
「何て説明したらいいのか……。色々あったが、とにかく頼もしい友達だ。内田も仲良くしてやってくれ」
「何か隠してる……。私のスト……洞察力が黙っちゃいないわよ」
今、内田は、明らかにストーキング力と言いかけた。
もはやネタだな。そっちの方が気楽で助かる。
そして、俺はこれ以上何も言わなかった。
「あー、無視したー。いつか聞き出してみせるから!」
「いつかな」
俺たちが会話をしている間も、秋葉はステージ上で頑張っていた。
スカートを振り振りしながら、魔法少女を演じる。
「皆んな、またね! 決勝で会えると嬉しいな!」
秋葉も最高のパフォーマンスを発揮する結果となった。
Cブロックの勝者はもちろん彼女である。
残りのD、Eブロックも審査が終わり、予選が終了した。
そして、間髪入れずに決勝戦を迎えた。
それは、AからEブロックの勝者5名で行われる。
進行や審査方法は予選と同じだが、各々がより気合の入ったパフォーマンスをする必要があるだろう。
「さあ決勝戦です! 早速出場者の皆さんに登場してただきましょー!」
エルフから始まり、魔法少女が2名、続いて格ゲーの女悪魔キャラが出てきた。
最後に登場したのが、Eブロック勝者のモンスターである。
実は、予選の時から気になって気になってしょうがない。
内田曰くアニメのキャラで、愛され役らしいが、どう見ても得体の知れない怪物である。
被り物と見紛うほどのメイクは、本気の証だ。あれが特殊メイクというやつか。
他の勝者が何だかんだ正統派なコスプレなのに対し、彼だけ異質な存在である。
驚くべきは、まだ一言も喋っていないということだ。そういうキャラなのだろうが。
さて、決勝戦が始まった。各々がアピールタイムをこなす。さすがにここまでくれば、表情に緊張が現れている。
ああ、これは誰が優勝してもおかしくないな。激戦となった決勝戦も全員のアピールタイムを終え、投票タイムとなった。
里沙に投票を……。と、思うが、秋葉もいる。
俺の手はスイッチを持ったまま固まっていた。投票しないという手は卑怯だろうか。
「ただいま投票中です! 会場の全員が押すまで終わりません!」
何という鬼畜仕様。二者択一を迫られた俺は、必死に手を動かした。
うおおおおおおおお! ポチッと勢いよくスイッチを押し、里沙に投票した。秋葉よ、ごめんなさい。俺は、心の中で必死に謝りつつも当初の意志を貫いた。
「さあ! 結果発表の時間です!」
思わず固唾を飲む。あのスクリーンに映し出される名前は誰か。
期待と不安の波が押し寄せてきた。様々な思いが渦巻く会場もザワつき始める。
「栄えある優勝者は……! この方っ!」
メイドの掛け声と共にスクリーンに名前が映し出された。
『1番アンジェ・ジャーマノート』
負けた。里沙も秋葉も優勝は出来なかったか。
エルフのコスプレイヤーは完璧だったから負けても悔いなしだろう、と言いたいが、心のどこかにポッカリと穴が空いた気分だ。
「あああ! お姉様じゃない!」
内田も悲しそうな顔で唸った。
悔しいが、結果を受け止めるしかない。里沙と秋葉はもっと悔しいだろう。
彼女たちに何と声をかけたらいいのか。
表彰式を迎え、トロフィーとサイン色紙がエルフに贈呈された。
会場に響く惜しみない拍手と一緒に俺たちも拍手を送る。
エルフの優勝を称えた拍手だが、里沙と秋葉の健闘に対してという意味も込めた。
どちらかというと、後者の意味の方が大きいかもしれない。
続く




