110 復活の魔法少女
次に内田が楽しそうに持ってきた衣装はナースの制服だった。
さっきの下着とは違い、ごく普通のコスプレだ。
これなら大丈夫そうだということで、早速、試着をすることにした。
試着室の前で待っているが、里沙が服を脱ぐ音、着替の音が妙に生々しい。
「はぁ……はぁ……。カーテンの向こう側で、お姉様が着替えている……!」
内田は息を切らし、興奮していた。
確かに考えてみれば……! って、駄目だ。余計なことを考えるんじゃあない!
「落ち着くんだ! 一歩間違えれば、犯罪者だぞ」
「お姉様に裁いてもらえるなら本望!」
などと、訳の分からないことを言っており、内田は別次元に生きているようだ。
そのセリフ、男の俺が言ったら確実にセクハラだろう。
「着替え終わったわ」
里沙はカーテンの向こう側から俺たちに報告をした。
しかし、一向に姿を見せない。
「どうしたー?」
「み……見せなきゃだめ? やっぱり恥ずかしい……」
ここに来て弱気な発言。執事の格好をして、萌えキュンポーズを経験した身からすると、気持ちは痛いほど分かる。
しかし、自信を持って欲しい。里沙なら誰が見ても、その美しさの虜になること必至。
「お姉様……。大丈夫! 私は決して笑わないから」
「でも、宏介が……」
「俺? 別におかしいなんて思わないさ。コスプレは好きだ」
里沙の問いかけに答えると、少し間が空いてからカーテンが開いた。
そこにいたのは超ミニスカートのナースだった。
短すぎないか!? 俺は、里沙の予想外の姿に釘付けになった。
「これ……。何でこんなに短いの……?」
スカートを押さえながらモジモジする里沙は、とても恥ずかしそうだった。
「そんなに短いとは思ってなかった! ごめんなさい!」
内田は、里沙に謝るとカーテンを慌てて閉めた。
そして、こちらに向かって振り返り、こう言った。
「次は鈴木の番よ。お姉様に一番似合うと思う衣装を持ってきて」
「了解」
よしきた。任せておいてくれ。
実は、先から考えていたコスプレがあるんだ。
そいつなら、ザ・大和撫子にピッタリだと思う。
俺はその衣装を見つけるべく、店内を回った。
途中、様々なコスプレが目に止まる。ああもう、気移りしてしまいそうだ。
メイドはもちろんのこと、警察官や魔女、セーラー服、貝殻の水着など、定番のものから際どいものまで何でも揃っている。
妄想を膨らませながら、お目当ての品を探す。
頭の中を駆け巡る煩悩の数々を抑えながら、やっとの思いで、その衣装を見つけた。
「あった。これこれ」
俺が手にした衣装は、巫女の衣装である。
自分で言うのも何だが、自信たっぷりに里沙のもとへ向かった。
「お待たせ。最高の衣装を持ってきた」
里沙と内田に向かって巫女の衣装を堂々と突きつけた。
「巫女さんね……。露出も少なくて良いかも」
里沙は巫女の衣装を見てホッとしたようだ。
下着設定の衣装とか、超ミニスカートのナースとか、まるで変態の衣装しか見てこなかった彼女にとって、さぞ安心感があることだろう。
「鈴木にしては中々のチョイスね」
内田も認める巫女衣装。
優勝のビジョンが見えてきた!
里沙は衣装を手に取ると、早速着替えた。
彼女の巫女姿は、想像通りの美しさだった。
これほど美しい巫女のいる神社なら、誰もが訪れたくなるに違いない。
セットで付いていた破魔矢は、まるで心を撃ち抜くキューピッドの矢だ。
「ど……どうかな……?」
「良い! お姉様! 私をお祓いして〜!」
内田は勢いよく里沙に抱きついた。
あまりの可愛さに抱きつかずにはいられないってことか。
これではお祓いどころか、内田が悪霊みたいになってるじゃないか。
「ちょっ……! 麻衣! いきなりどうしたの!?」
「はっ……! ごめんなさい。つい……!」
内田は我にかえったが、体は里沙に抱きついたままだ。
「いくら女子同士と言っても、こんなところじゃ恥ずかしいわ……」
「こんなところじゃって……。じゃあ、あんなところなら抱きついてもいいの!?」
「どんなところでもダメ!」
「ああん。お姉様のいけず!」
内田がようやく離れると里沙は咳払いをして、俺たちに告げた。
「オホン。この衣装で出場しようと思うけど、良いわね?」
「賛成だ」
巫女のコスプレを気に入ってもらえて何より。
里沙も自信を持っているようだから、このままの勢いで頑張って欲しい。
しかし、内田は首を縦に振らなかった。
「確かに素晴らしいコスプレ。だけど……」
「だけど……?」
「何かこう、圧倒的なインパクトがないの。このままでは、優勝は無理だと思う」
なるほど。意外にも冷静な意見である。
「その話、もう少し詳しく教えてくれないか?」
「うん……。絵に描いたような美しい巫女。それだけで票は得られそう。でも、ここはオタクの聖地。きっとアニメキャラのコスプレにしないと、負けは濃厚ね」
「つまり、投票者の好みに寄せていくということか?」
「そう。自分の好きなコスプレをするのは、大いに素晴らしきよ。優勝を狙うなら、手堅くいかないと」
俺が選んできた巫女は職業コーナーから持ってきた衣装だ。何かのアニメキャラというわけではない。
そうすると、アニメコーナーから選び直したほうがいいな。
「アニメキャラのコスプレ……」
里沙はどこか不安げだった。
「大丈夫、お姉様。破廉恥な衣装は選ばないから」
「本当ね……?」
と言っても、どういうコスプレにするかだよな……。
「アニメのことなら私に任せて!」
内田はそう言って、意気揚々とアニメコーナーへ向かった。
「大丈夫よね……?」
「ああ、さすがに本気の選択をすると思う」
それからしばらくして、内田の持ってきた衣装はウィッチメントのキャラの衣装だった。
「これで間違いないはず!」
「ウィッチメントのコスプレね……」
「!? どうして分かるの? このキャラは映画に出てきていないのに……」
「すっかり忘れてた。以前、漫画を読んだことがあったわ。ずっと心に引っかかっていたけど、はっきりと思い出した」
あ! そういえば、コラボカフェにも行ったじゃないか! 2人して忘れているとは何たる不覚。
まあ、内田のおかげで思い出せたということでご愛嬌。
これで、里沙もウィッチメントを忘れられなくなったはずだ。
「えー! これからは心に刻んでおいてね」
「さすがにもう忘れられないから……」
恒例のお着替えタイム。
里沙が扮する魔法少女は、イメージ通りだ。
内田は、里沙に一番似ているキャラを選んできてくれた。
「お姉様! さすが。後はキャラになりきれるかどうか……」
「うぅ……。演技は苦手……」
「頑張って! キャラを知っていることは武器よ」
「……。うん。麻衣のためにやってみる……!」
里沙の決意も新たに、衣装は決まり、レンタル費用は3人で割り勘して払った。
時間も丁度良く、様々な感情を抱きながら会場へ向かう。
魔法少女のコスプレね……。
里沙なら簡単に優勝をさらってくれると信じているが、どこか胸がざわつく。
続く




