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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
恋の刺客と愛の資格編
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105 似た者同士のメリーゴーランド

 俺は里沙に今まであったことを全て話した。

 まだ全てを飲み込めていないようで、内田のことを怪訝な顔で見ている。


「彼女がストーカーの犯人で、私のファンクラブ会長?」

「ああ。もう1回言うが、例の噂のせいで、俺が里沙にふさわしいかどうか監視をしていたらしい」

「そう……。何だか複雑な気分」


 相変わらず、慌てふためいている内田に対し、里沙は話しかける


「ねぇ。内田さん……?」

「は……はひっ!」

「ストーカーは良くないと思うわ」

「す……すみません! もうしません!」

「それに、私と宏介は付き合ってないから」


 その一言を聞いた内田は、ハッとして少し落ち着きを取り戻したようだった。


「本当に噂は噂なんですね」

「そうよ。確かに文化祭の終わりにお地蔵様のところへ行ったけど、私の勘違い。恋愛成就とかじゃなくて、ただ願い事を叶えたかっただけなの」

「そうなんですか……! なんてピュア! 素敵です、お姉様!!」

「あ……ありがとう……」


 内田の勢いに里沙は若干引き気味でお礼を言った。


「お姉様がそう言われるのであれば、私は信じます。もう鈴木のことは品定めしません」


 里沙の言うことであれば、何でも聞くのか。その点は、俺と一緒だな。

 あと、俺をお魚みたいに言うんじゃない!


「これで分かってもらったか? 俺に突っかかってくるのは御門違いだ」

「ふん! 私も清々した!」


 いがみあい。相反する俺たちは、お互いに顔を背けあった。

 はあ、悲しいかな。なぜ内田と話すとこうなってしまうのだろうか。

 俺だって、誰かといがみあいたいわけじゃない。

 そう思っていると、里沙が率直に聞いてきた。


「二人とも、なんでそんなに仲が悪いの?」

「それは……!」


 内田は里沙に仲の悪さを言及されると、言葉に詰まりながら、困った顔をした。

 どうやら、屋上での出来事を思い出しているようだ。


「さっきも話したように、考えてみると初めてあった時の態度が問題だったな。俺だって望んでいるわけではない」

「鈴木が反抗するから!」


 お互いに譲らない。そんな俺たちに呆れた里沙は、ため息をつき、俺たちを叱った。


「二人とも仲良くしなさい!」

「「はいっ!」」


 万事解決? 里沙の一言で、俺たちは仲良くすることが決まったわけだが、どうもぎこちない。


「ねぇ……鈴木……君」

「呼び捨てでいい」

「鈴木、今日は解散でいいかな?」


 内田はつくり笑いで俺に問いかけた。

 それを聞いた里沙が俺の代わりに答える。


「映画は行くわ。ほら、内田さん……下の名前は何て言うの?」

「麻衣子ですっ!」

「じゃあ、麻衣って呼んでいい?」

「ぜひっ! お姉様にそう呼んでいただけるなら幸せです!」

「ふふ、変なの」


 里沙は内田の悶える様子にクスリと笑った。


「ああっ! お姉様とこんなやり取りができるなんて……! 夢のようでゾクゾクします!」


 もしかして、変態か?

 俺たちはまだ彼女のことを知らなさすぎる。


「そろそろ行くわよ」

「はい、お姉様!」

「おう」

「えっ、鈴木も来るの?」

「行くだろ普通!」

「こら! 喧嘩しない!」

「「はいっ!」」


 またもや里沙に叱られてしまった。

 これではいつまでたっても仲良くなれない。

 落ち着け。落ち着くんだ俺。



 俺たちは駅前にある少し小さめの映画館に到着した。

 平日ということもあり、さほど混んではいなかった。学校帰りらしき学生で、俺たちもそうだが、少し賑わっているぐらいだ。

 入ってすぐのチケット売り場前で俺たちは立ち止まった。

 そして、里沙は俺たちに問いかけてきた。


「何を観る予定だったの?」

「実を言うとな、決めていない」

「ええ!? だったら、何で映画を選んだの?」

「うーん……。勢いかな」


 ……。俺たちの間に沈黙が流れる。

 最近流行の映画って何があったけ……。

 チケット売り場上部についているモニターで、上映予定の映画一覧を眺めるが、ピンとくるものがない。

 どれにしようか迷っていると、内田が一番に口を開いた。


「私が決めてもいいですか?」

「いいわ。あ、敬語は止めてね」

「そんな……!」

「いい?」

「はい。わかりま……分かった!」

「よろしい」


 だんだんと内田が躾けられていく、実は俺と気が合うのでは?

 最初の出会い方さえ間違わなければ良かったのに。


「あれなんてどう? 『ウィッチズ・エブリデイ〜魔法少女の休息〜』。見たかったの」

「ウィッチメントの番外編映画かな? そんなのやってたんだ」

「何? 鈴木も知ってるの!?」


 何を隠そう、俺もウィッチメントが好きだ。その名を聞けばピンとくるのは確かである。

 もしかして、内田もオタクだろうか。


「ウィッチメントは見ているからな。漫画もアニメも見ている」

「本当!? じゃあさ、絶対観ようよ!!」


 内田は、かなり興奮した様子で俺に向かってそう言った。そして続ける。


「面白さは私が保証するから! ウィッチメントファンなら観ないと損だよ!!」

「俺は構わないが……」


 ちらりと里沙の方を確認する。


「ウィッチメントって何?」

「最高に面白いアニメだ。観たらハマると思う。そういうのは苦手か?」

「ううん。苦手じゃない。それで決定ね」

「ありがとうございます! お姉様!」


 映画の上映開始まであと15分。来場したタイミングが良かった。

 チケットを購入し、売店で飲み物も買うと、早速スクリーンへと向かった。

 映画館独特の暗さ、匂い、静けさ。俺はこの雰囲気が好きだ。

 子供心が働くのか、妙にワクワクする。


 奥から里沙、俺、内田というように、俺が間に挟まれる形で座る。

 内田は俺がウィッチメント好きだと分かると、話したくてたまらないみたいだ。

 先程までの歪みはどこに行ってしまったのかというぐらい、急にフレンドリーになった。

 映画が始まるまでの間に小声で話しかけてきた。


「ねぇねぇ、どのキャラが好きなの?」

「そうだなぁ……。メリイちゃんかな」

「私も! あの子、最高の後輩キャラだよね」

「お? 分かってくれるか」


 メリイちゃんとは主人公の後輩であり、魔法少女の一人だ。

 少しお調子者だが、先輩思いの憎めない愛くるしい子である。


「へぇ〜。鈴木も分かるやつだったなんて」

「そりゃどうも」


 ウィッチメントのおかげで俺と内田は少し打ち解けた。まさか共通の趣味があるとはな……。

 そして、そんな俺たちの様子を見て、里沙は微笑んだ。


「良かったわね。何だか仲良くなったみたいで」


 内田は我に返ったような顔をすると、耳まで顔を赤くした。


「はっ……! 私は鈴木と馴れ合うつもりじゃ……!」


 どうやら、意地になっているところがあり、敵と仲良くしてしまったと気付き、恥ずかしかったみたいだ。


「いいと思うわ。今後も宏介と仲良くしてやってね」

「お姉様がそう言うなら……。仕方ないわね」


 こうして、出会って1日も経たないうちに、俺と内田の間で色々な変化が起こった。

 現在の状況は内田でさえ完全に飲み込めていないだろう。


 スクリーンの照明が落とされると、いよいよ映画が始まった。

 映画本編が始まる前に長ったらしい宣伝や注意の映像が流れる。

 これも含めて映画の良いところと言われれば同意しよう。


 さて、映画本編の内容は言わずもがな素晴らしい。

 タイトル通り、普段はあまり描かれることのない魔法少女たちの日常を中心に話が展開された。

 もちろん敵も出てきたが、全体的に落ち着いた内容のため、安心して見ていられる。心が浄化されるようだ。


 上映中、2人の様子が気になった俺は、様子を伺ってみた。

 内田は釘付けになっており、映画を十分に楽しんでいることは表情から見て取れた。

 一方里沙は、目を瞑っていた。

 うん? あまりにも感情が入りすぎて、思いを馳せるのに集中しすぎているのか、それとも……。

 映画中だ。話しかけるのは止めておこう。

 さあ、俺も映画に集中しますか。


続く

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