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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
恋の刺客と愛の資格編
109/177

104 ガチ泣き

次回から週に1〜2回程度の更新になります。

更新日の指定もありません。あしからず。

 俺が教室へ戻ると同時にチャイムが鳴った。

 セーフ! 遅刻は免れた。

 まだ昼休みの名残で私語が目立つ中、席に着くと、後ろの席の秋葉からこそっと話しかけられた。

 ちなみに、先生はまだ来ていない。遅刻である。


「どうだった?」

「最悪だった」

「何があったの?」

「うーん。話すと長いから後でな」

「へぇ。そんなに……。大変だったね」

「ああ。全くだ」


 しばらく秋葉と話していると、ようやく先生が入ってきた。


「遅刻〜」

「おそーい」


 等々、クラスからのヤジを受けながら先生は教壇に立つ。

 そして、頭をぼりぼり掻きながら悪びれる様子もなく授業を始めた。



 午後の授業が終わり、放課後になると秋葉は続きを催促してきた。


「それで、大丈夫だったの?」

「大丈夫……じゃないかな……」

「やっぱり。何かされたの!?」

「いや、そういうのじゃないけど……。まず、奴の正体は里沙のファンクラブ会長だった」

「関野さんのファンクラブ……? 本当にあるんだ」

「あったな。そして、例の噂によって勘違いした会長が暴走していたわけだ」


 とても手短にまとめたが、趣旨は伝わるだろう。


「そっかぁ……。じゃあ私と付き合えば解決だね♡ そうすれば噂も消えて、ウィンウィンでしょ?」

「ええっと……。その解決策はできないかな」

「ああん。宏くんに振られちゃった。でも、宏くんと話せるだけで幸せ……! はぁ、はぁ」


 秋葉は頬を赤らめ息を切らした。

 これはヤバい。今度は秋葉が暴走しそうだ。


「何かされたら言ってね。私がすぐに天罰を下すから」


 ヒェ。秋葉の目は本気だ。

 これ以上相談すると、世にも恐ろしい状況になりかねない。

 それに、女子に頼るのは情けないからな!!


「心配してくれてありがとう。だけど、自分の問題は自分で解決するよ」

「はぁい。宏くんかっこいいよ♡」


 先に部活へ向かった笹川に続き、俺と秋葉も教室を出た。

 そして、廊下に出るとすぐに内田の姿が目に入った。

 ストーカーのお出ましだ。ああ、気が滅入る。


「鈴木。待っていたわよ」


 鞄を背負うスタイルで、腕を組み、堂々と立っていた。


「俺は待っていてくれなんて頼んでないが?」

「私は鈴木に会いたかったの」


 秋葉は俺の制服の袖を掴むと、後ろに引っ張った。

 秋葉は俺を自分の後ろにやると、内田をまっすぐ見つめた。


「宏くんに迷惑かけないで」

「ふん! あなたは秋葉奈美恵ね。よく鈴木と一緒にいるみたいだけど、どういう関係なの?」

「私は……!」


 俺は秋葉の肩に軽く手を乗せ、早くも選手交代の合図をした。

 これ以上は、話がややこしくなりそうだ。


「大丈夫。先に部活へ行っててくれ」

「でも……」

「俺一人で何とかしたいんだ」

「宏くんがそう言うなら……」


 秋葉はこちらを気にかけながら、部活へと向かっていった。

 これで俺と内田の一騎打ち。


「それで、何の用だ?」

「今から私とデートしなさい」

「は!? 正気か!?」

「厳密に言えば、実地試験だから。お姉様を楽しませるデートができるかどうかテストしないと!」


 だめだこいつ。早く何とかしないと。

 全くもって言っていることの訳がわからないよ。


「意味がわからない。第一、内田と一緒に出かけたくない」

「正直ね。それに、私を振るとはいい度胸!」

「俺の品定めをするなら迷惑をかけずに勝手にやってるといい」


 俺は内田の言うことを聞かずに、部活へ向かうことにした。

 

「じゃあ、もう行くから」

「何ですって!?」


 俺は勢いよく歩き始めた。

 そして、彼女の横を通った瞬間、腕を掴まれた。


「何をする」

「行かせない。私と一緒に来て!」

「部活に行きたいんだが」

「なら今日は欠席!」

「行くったら行く!」

「そんなに私とが嫌なの!?」

「そうだ」

「……。そう……。そんなに私が嫌なんだ……」


 内田は俺の腕から手を離すと、先までとは一転、急に萎れてしまった。


「うぅっ……。ぐすん……」


 彼女の目から涙が一滴頬を伝ったかと思うと、顔に手を当て泣き出してしまった。

 マジで!? 俺が泣かせたってやつ!?


「ひっく……。うううっ……」


 声にならない声をあげ、泣いている。

 ……。なぜだか罪悪感が込み上げる。

 周りの冷ややかな視線が突き刺さる。

 泣くのは卑怯だぜ。こうなってしまうと、男はどうしようもない。


「その……すまん……。確かに言い過ぎた。デートするから。な、頼むから落ち着いてくれ」

「……。本当……?」

「ああ、本当だ」


 内田は、ハンカチを取り出そうとしたのかポケットに手を入れた。しかし、忘れたみたいだ。

 しょうがないな。幸い、本日出番のなかった俺の綺麗なハンカチを内田に差し出す。


「ほら、貸すよ」

「いいの……?」


 彼女はハンカチを受け取ると、涙を拭いた。


「その……ありがとう……」

「お礼は言うんだな。素直に受け取っておこう」

「当たり前でしょ。私だって血の通った人間なんだから。ハンカチは洗って返すわ」

「おう分かった。待ってるぞ」

「ふぅ……。それじゃあ行きましょう……」


 こうして、まだ調子の戻ってない内田と一緒に高校を後にし、デート? をすることになった。

 正直気は進まないが、あの涙は嘘じゃない。

 俺の中で、内田に対する同情が少しだけ芽生えたのかもしれない。


 校門を出る頃には、彼女の目の赤みは引き、調子もすっかり元どおりになったようだ。


「さあ、デートの始まりね。まずは、お姉様をどこに連れて行くの?」

「ええ!? 俺が決めるの!?」

「男性がエスコートしなきゃ」


 そうだなぁ……。出来るだけ疲れないところにしよう。


「映画でも観に行くか」

「映画……? 不合格!」

「なぜだ!?」

「じーっと映画を見てるだけでは、お姉様を楽しませるなんて程遠い」

「里沙ならきっと大喜びだぞ」

「どこに根拠があるの?」

「それは内田も同じだろ……」


 俺はとある案を思いつき、スマートフォンを取り出した。


「映画の予約でもする気?」

「違う。今から里沙も映画に誘う」

「馬鹿っ! 今すぐその手を止めて!」


 内田の制止を無視して里沙にメッセージを送る。

 もう勢いだ。俺の手は誰にも止められない。


『今から映画に行く。一緒に行かない?』

『行く。今どこにいるの?』


 早っ! 送ってものの数秒で返信が来た。


『校門前で待ってる』

『了解』


 俺はスマートフォンから内田の方へ顔を向けると、ニヤリと思わず顔が綻んだ。


「来るって。良かったな」

「あぅぅ……。そんな! お姉様と会うなんて……! 何て顔をすれば良いの!?」

「笑えば良いさ! ははははは!」


 内田は里沙が来ることを知ると、慌てふためき始めた。

 明後日の方向を見ながら、ブツブツと呟いている。


「どうすればいいの? お姉様と会うなんて絶対に緊張する……! ああ! どうしよう。どうするの私!?」


 内田はひとしきり悩んだ後、結論が出たようで、その場で固まった。

 そして、震え声でこう言った。


「私、帰る。家に帰ります」

「待てい! 今さらそれはないだろ!」

「だって! お姉様と会う覚悟ができてない!」

「里沙は女神か何かか!」

「そう! お姉様はまさしく女神様!」


 内田の帰宅を阻止しつつ里沙を待つ。

 本人の口から噂を否定してもらえば、騒ぎもおさまるだろう。


「お待たせ! ……って彼女は?」


 さあ、里沙お姉様のお出ましだ。

 当然、里沙は内田のことを聞いてくる。


「急に悪いな。こいつは、内田。俺たちと同じ一年だ」

「宏介の友達? 私は関野。よろしくね」

「あああ!! 眩しすぎます! お姉様!」


 内田は里沙を直視しないように目をそらし、悶えた。


「お……お姉様……?」

「ああ。里沙お姉様だそうだ」

「どういうこと? 私は彼女と初対面よ」


 悶えながら独り言を唱える内田を横目に会話は続く。


続く

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