102 ずっと見てるよ
次の更新は3/14(水)です。
誰かの視線を感じながらの登校を終え、教室に入り席に着き辺りを見回した。
さすがにここまで来ると視線は感じない。一つはっきりしていることは、そいつの正体が嵐ヶ丘高校の生徒だってことだ。
「宏くん、最近悩み事でもある?」
「ちょっとな……」
秋葉の察する力は目を見張る。
「私には隠しごとをしない約束でしょ?」
あれ? そんな約束したかな?
してないような気がするが……。何か解決の手がかりになるかもしれない。
「実は、最近誰かに見られている気がするんだ」
「うん。私はずっと宏くんのことを見てるよ」
秋葉は俺の目を見つめながら真剣な声色でそう言った。
マジですか。秋葉の思いはやっぱり重い。
でも、今回はそうじゃなくて、別の誰かだと思う。
「そ……そうか……。でも、秋葉じゃないと思うんだ」
「誰!? もしかしてストーカー?」
「それが分からないから悩んでいるんだが……」
「そういうこと……。分かった! 私が犯人を探し出してあげる」
秋葉といい、里沙といい、俺の周りにはたくましい女性が多いな。
男として情けないが、頼りになる。
「たぶんこの学校の生徒だと思う」
「すぐに見つけ出すからね。でも……」
「でも?」
「見つけ出したら、ご褒美が欲しいな♡」
「ご褒美……? よく分からないが何でも聞いてやる」
「本当!? やったぁ。えへへ。任せておいてね」
秋葉は嬉しそうな顔をすると、教室を飛び出していった。
ホームルームまで時間があるとはいえ、もう探しに行ったのか。
行動力ありすぎじゃないですか。俺も見習いたいぜ。
ホームルームの直前になると秋葉は戻ってきた。
「ただいま。まだ見つからなかったよ……」
「早速探しに行ってくれたのか。ありがとな」
「ううん。大丈夫だよ」
「そうだ。早速お礼に……」
この前コンビニで買ったチョコが鞄の中に入っているはず。
俺は、チョコを一つ取り出すと秋葉に手渡した。
「ありがとう……! 一生大事にするね」
「食べてくれよ。溶けてしまうぞ」
「せっかく宏くんに貰ったんだから、食べるなんてもったいないよ」
秋葉はチョコを大事そうに鞄へしまいこんだ。
そいつにチョコとしての使命を全うさせてやってくれないか。
午前中の授業が終わり、昼休みになった。
12月初めのテストに向け、授業の内容も濃くなっている。頭を使いすぎて、腹ペコだ。
弁当をいつも以上に早く食べると、俺と秋葉は、ある作戦に出た。
俺が一人で校内をぶらつき、視線を感じたら、サークルのメッセージで秋葉に居場所を伝えるというシンプルな作戦だ。
とりあえず図書館に向かってみるか。なぜそこを選んだのか分からないが、直感だからと言うのが一番だろうか。
図書室に入り、適当に面白そうな本がないか探索していると、本を整理している里沙に遭遇した。
そういえば図書委員だったな。
「あっ。宏介じゃない」
「よう。お仕事ご苦労様」
「冷やかしにでも来たの?」
「里沙がサボってないか見に来たんだ」
「何よそれ。ほら、これでも読んでなさい」
里沙が手渡してきたのは、分厚い歴史の本だった。
ずっしりとした重さが歴史の濃厚さを物語っているが、ちっとも読む気にはなれないね。
「返却します」
俺は、目の前の棚にその本を差し込んだ。
「違う! そこじゃないわよ」
「あ。すまん」
俺がいい加減に戻した本に手をかけた瞬間、例の視線を感じた。
俺の中の野生の勘が働いている。そのままの姿勢で周りを見渡すが、里沙しか確認できない。
「また? どう見たって私と宏介以外見えないけど?」
「うーん……。やっぱり気のせいか」
「疲れてるのよ。ほら、季節の変わり目だから風邪かもしれないわ」
「風邪の方が気が楽だ」
さて、一応秋葉に連絡してみますか。
俺は、ポケットからスマートフォンを取り出し、サークルを起動した。
「図書館での電話は禁止よ」
「サークルでメッセージを送るだけだ」
「誰に?」
「企業秘密だ」
「私たちの間に隠し事はなしのはずでしょ?」
里沙も秋葉と同じようなことを言っている。
2人とも似てないようで似ているのか? 俺にはさっぱり女心ってやつがわからない。
「秋葉に協力してもらっている」
「秋葉さんに……?」
「おう。犯人を探し出してくれるみたいだ」
「……。何で私には頼らないの?」
「さっきまで気のせいだとか言ってなかったか!?」
「むぅ……」
里沙は少し悔しそうだった。本を戻す手に力がより一層込められた気がする。
秋葉は、すぐに返信をくれ、こちらに向かい、捜索を行うとのことだった。
「じゃあ、また放課後な」
「ええ。また部活で」
俺はとりあえず、先ほど里沙に渡された歴史の本を再び手に取ると席に着き、本を開いた。
まだ視線は感じる。読書スペースの周りには、人がまばらにいる。
この中に犯人がいるのか!? 気になって本も読めない。
あ、気にならなくてもこの本は読む気にならないが。
本と睨めっこを開始して早々に秋葉から連絡が入った。
『今東校舎の2階にいるの』
『了解。気をつけて向かってな』
再び本と睨めっこを再開する。
『今西校舎の2階にいるの』
『あと少しだな』
もうすぐ秋葉がやってくる。
『今図書館の前にいるの』
『読書スペースにいる』
よし、このまま捜索を頼む。
『今あなたの後ろにいるの』
メリーさんか! 怖いわ!
後ろを恐るおそる振り返ると連絡の通り、秋葉が立っていた。
「えへへ。会いに来ちゃった」
「俺と会ってどうする」
「宏くんの読書姿が見たくて……」
秋葉よ。残念だが、本を読んでいるふりをしているだけだ。
俺の読書姿を見たければ漫画が必要になるぜ。
「じゃあ、私も本を探しに行ってくるね」
「了解。ここで待ってるからな」
秋葉はわざとらしくそう言うと、本棚の並ぶ所へ姿を消した。
探すとは、つまり犯人を探すということ。
まるで心理戦を行ったいるようで、少しばかり顔に力が入る。
ひょっとして、真剣に本を読んでいるように見えて丁度良いのではないだろうか。
続く




