99 勘違いから始まる恋の噂
次の更新は3/3(土)です。
俺と里沙は、とりあえず椅子に座り疲れを癒した。
一気に緊張感がほぐれたせいか、どっと疲れが押し寄せて来た。
「ふぅー。暑いな」
「そう? 少し肌寒いぐらいだけど」
10月も終わり。里沙の感覚が正常なはずだが、俺は一人、汗をかいていた。
今日は色々なイベントが目白押しだったな。特に後半戦にかけて、怒涛の嵐だったぜ。
「走りすぎたな」
「ふふ。必死ね。いきなり手を取られた時は、どうなるかと思ったわ」
「大変だったよ。里沙のために俺も必死になったさ」
「私のために……?」
「そりゃそうさ。お前から言いだしたことじゃないか。どうしても2人じゃないと駄目だって」
「そ……そうね。でも、断らなかったじゃない?」
「里沙の頼みだ。断るわけないだろ」
「ふーん……。そうなんだ……。私が恐いってこと?」
「違うな。俺は里沙がす……!」
おっと! 俺は、喉元まで出てきた「好き」という単語を何とか食い止めた。
勢いあまって告白してしまうところだった。
「私がす……? 何なの?」
「えと……その……里沙が少しでも楽しんでくれたらって……」
おうふ。何とか誤魔化せた。
「本当? ありがと……」
里沙は照れ気味にそう言うと、俺から目をそらした。
俺は、からかい気味に問いかけた。
「ひょっとして、照れてるのか?」
「う……うるさいっ! 照れてないわよ」
「ふーん……。可愛い奴め」
「……。私が可愛いって?」
俺は冗談で言ったつもりだが、里沙は真剣に聞いてきた。
こうなったら引き下がれない。
「お……おう! お前が世界一可愛いよ」
「え……? 急に何? どういうこと……?」
静寂。俺たちの間に張り詰めた空気が流れる。
これは、本当に告白の流れになるのか?
俺は、手に汗が滲み、次の言葉が出ずにいた。
里沙は無言のままだ。
「つ……つまり……俺は……!」
やっとの事で声を絞り出したが、次の瞬間、勢いよくDルームの扉が開き、驚いた俺たちは、そちらに気を取られてしまった。
「あー! 戻ってきてる!」
俺たちを現実に引き戻すかのように、いつもの笹川の声が響く。
「片付けもしないで、どこ行ってたんだー?」
片付けに行ってたのか。手伝わなかったのは、申し訳ない。
「ごめんなさい。宏介と一緒に体育館裏に行ってました」
先に里沙が謝る。……というか、それは言ってしまうのか。
ほら、全員が驚いた顔をしているではないか。
「体育館裏って……。あの七不思議の?」
柚子先輩が俺たちに問いかける。
「そうです。どうしても願い事をしてみたくて」
「願い事って……つまり、そういうことだよね……?」
柚子先輩は、口に手を当てながら頬を赤くしてそう言った。
その反応、あなたは理解していらっしゃるようですね。
「ははは! 大丈夫! 2人を待って片付けしに行けばよかった話だ。お前たちがいなかったことは俺の責任でもある。だから、許す!!」
部長の豪快なお許しが出たのはいいが、1人腑に落ちなさそうな顔をしている女子がいる。
「宏くん……? どういうこと……?」
まずいな。返答次第では刺されそうだ。
ドス黒いオーラを出した秋葉は、俺の眼前に迫ってきた。
少し気圧されながら、なぜか罪悪感も感じていた。
「鈴木ー! どういうことだ?」
勢いに乗じて、笹川も囃し立てる。
「えと……その……」
俺が返答に困っていると、里沙が助け舟を出してくれた。
「私が宏介に頼んだの。男女のペアで行かないとダメだって聞いたから」
里沙の発言を聞いた秋葉は、オーラを収め、微笑んだ。
「関野さん、ひょっとして勘違いしてる?」
「勘違い?」
「うん、体育館裏のお地蔵さんの七不思議は、恋愛成就の願い事だよ。男女のペアで行くと、上手くいくんだって」
その場にいた全員が頷く。
自分の勘違いに気づいた里沙は、顔を真っ赤にして固まってしまった。
「良かったな! 末長くお幸せに!」
「部長! 私はそういうつもりじゃないです!」
「お前たちがそういうつもりじゃなくても、その姿を見た誰もが鈴木、関野について確信をもっただろう」
これまた、その場にいた全員が頷いた。
秋葉を除いて。
こうして、噂は瞬く間に広がった。
休み明け学校に登校すると、早速聞かれたのである。
「おはよう。早速噂になってるみたいだけど? おめでとう」
山内が爽やかスマイルで挨拶をかましてくる。
くそっ。嫌味がないぜ……。
「うっす。もうどうにでもなれだ」
「へー。満更でもなさそうだね」
「何とでも言うがいい」
この高校の情報伝達速度はどうなっているのだ。文化祭が終わって休みを挟んだ最初の授業日だぞ。
異常だよ。恐怖すら感じる。
山内と話していると、突然、教室が静まり返った。
秋葉が登校してきたのだが、後ろから由香も一緒に入ってきた。
「案内ありがとう秋葉ちゃん!」
「いえいえ。宏くんはあちらです」
由香は俺の席の前までやって来た。
「おはよ! 宏介!」
「おはよう。何だか機嫌がいいじゃないか」
「朝からルンルンだよ♪」
「何だよルンルンって……」
「いいから、いいから。ちょっとさ、外でお話ししない?」
由香は親指で廊下を指した。
ヒェ。脳裏に昔の由香が過ぎり、俺は身震いした。
従う他ない俺は、立ち上がり、クラスメイトの注目を浴びながら、由香と一緒に廊下へ出た。
続く




