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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
恋のあらし吹く文化祭編
104/177

99 勘違いから始まる恋の噂

次の更新は3/3(土)です。

 俺と里沙は、とりあえず椅子に座り疲れを癒した。

 一気に緊張感がほぐれたせいか、どっと疲れが押し寄せて来た。


「ふぅー。暑いな」

「そう? 少し肌寒いぐらいだけど」


 10月も終わり。里沙の感覚が正常なはずだが、俺は一人、汗をかいていた。

 今日は色々なイベントが目白押しだったな。特に後半戦にかけて、怒涛の嵐だったぜ。


「走りすぎたな」

「ふふ。必死ね。いきなり手を取られた時は、どうなるかと思ったわ」

「大変だったよ。里沙のために俺も必死になったさ」

「私のために……?」

「そりゃそうさ。お前から言いだしたことじゃないか。どうしても2人じゃないと駄目だって」

「そ……そうね。でも、断らなかったじゃない?」

「里沙の頼みだ。断るわけないだろ」

「ふーん……。そうなんだ……。私が恐いってこと?」

「違うな。俺は里沙がす……!」


 おっと! 俺は、喉元まで出てきた「好き」という単語を何とか食い止めた。

 勢いあまって告白してしまうところだった。


「私がす……? 何なの?」

「えと……その……里沙が少しでも楽しんでくれたらって……」


 おうふ。何とか誤魔化せた。


「本当? ありがと……」


 里沙は照れ気味にそう言うと、俺から目をそらした。

 俺は、からかい気味に問いかけた。


「ひょっとして、照れてるのか?」

「う……うるさいっ! 照れてないわよ」

「ふーん……。可愛い奴め」

「……。私が可愛いって?」


 俺は冗談で言ったつもりだが、里沙は真剣に聞いてきた。

 こうなったら引き下がれない。


「お……おう! お前が世界一可愛いよ」

「え……? 急に何? どういうこと……?」


 静寂。俺たちの間に張り詰めた空気が流れる。

 これは、本当に告白の流れになるのか?

 俺は、手に汗が滲み、次の言葉が出ずにいた。

 里沙は無言のままだ。


「つ……つまり……俺は……!」


 やっとの事で声を絞り出したが、次の瞬間、勢いよくDルームの扉が開き、驚いた俺たちは、そちらに気を取られてしまった。


「あー! 戻ってきてる!」


 俺たちを現実に引き戻すかのように、いつもの笹川の声が響く。


「片付けもしないで、どこ行ってたんだー?」


 片付けに行ってたのか。手伝わなかったのは、申し訳ない。


「ごめんなさい。宏介と一緒に体育館裏に行ってました」


 先に里沙が謝る。……というか、それは言ってしまうのか。

 ほら、全員が驚いた顔をしているではないか。


「体育館裏って……。あの七不思議の?」


 柚子先輩が俺たちに問いかける。


「そうです。どうしても願い事をしてみたくて」

「願い事って……つまり、そういうことだよね……?」


 柚子先輩は、口に手を当てながら頬を赤くしてそう言った。

 その反応、あなたは理解していらっしゃるようですね。


「ははは! 大丈夫! 2人を待って片付けしに行けばよかった話だ。お前たちがいなかったことは俺の責任でもある。だから、許す!!」


 部長の豪快なお許しが出たのはいいが、1人腑に落ちなさそうな顔をしている女子がいる。


「宏くん……? どういうこと……?」


 まずいな。返答次第では刺されそうだ。

 ドス黒いオーラを出した秋葉は、俺の眼前に迫ってきた。

 少し気圧されながら、なぜか罪悪感も感じていた。


「鈴木ー! どういうことだ?」


 勢いに乗じて、笹川も囃し立てる。


「えと……その……」


 俺が返答に困っていると、里沙が助け舟を出してくれた。


「私が宏介に頼んだの。男女のペアで行かないとダメだって聞いたから」


 里沙の発言を聞いた秋葉は、オーラを収め、微笑んだ。


「関野さん、ひょっとして勘違いしてる?」

「勘違い?」

「うん、体育館裏のお地蔵さんの七不思議は、恋愛成就の願い事だよ。男女のペアで行くと、上手くいくんだって」


 その場にいた全員が頷く。

 自分の勘違いに気づいた里沙は、顔を真っ赤にして固まってしまった。


「良かったな! 末長くお幸せに!」

「部長! 私はそういうつもりじゃないです!」

「お前たちがそういうつもりじゃなくても、その姿を見た誰もが鈴木、関野について確信をもっただろう」


 これまた、その場にいた全員が頷いた。

 秋葉を除いて。



 こうして、噂は瞬く間に広がった。

 休み明け学校に登校すると、早速聞かれたのである。


「おはよう。早速噂になってるみたいだけど? おめでとう」


 山内が爽やかスマイルで挨拶をかましてくる。

 くそっ。嫌味がないぜ……。


「うっす。もうどうにでもなれだ」

「へー。満更でもなさそうだね」

「何とでも言うがいい」


 この高校の情報伝達速度はどうなっているのだ。文化祭が終わって休みを挟んだ最初の授業日だぞ。

 異常だよ。恐怖すら感じる。


 山内と話していると、突然、教室が静まり返った。

 秋葉が登校してきたのだが、後ろから由香も一緒に入ってきた。


「案内ありがとう秋葉ちゃん!」

「いえいえ。宏くんはあちらです」


 由香は俺の席の前までやって来た。


「おはよ! 宏介!」

「おはよう。何だか機嫌がいいじゃないか」

「朝からルンルンだよ♪」

「何だよルンルンって……」

「いいから、いいから。ちょっとさ、外でお話ししない?」


 由香は親指で廊下を指した。

 ヒェ。脳裏に昔の由香が過ぎり、俺は身震いした。

 従う他ない俺は、立ち上がり、クラスメイトの注目を浴びながら、由香と一緒に廊下へ出た。


続く

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